選ばれた歌姫

ついに九月二十四日。
「はな、準備はいいか?」
「……」
「はな?」
「…うう〜」
結婚式当日であるはずなのに、何故かソファで吐き気があるのか? 両手で口を覆って耐えているはな。
その理由はまさに。
「ごめん、二日酔いになった」
そう、全て「お酒」が原因だ。
「はぁ~、何故君はいつも酒に頼るんだ?」
酒を飲む前におれに相談してくれればいいのに…全く。
はなは悩みや不安、怒りは全て「お酒」に頼ってしまっている。
はなにとって「お酒」は一番の癒し、ご褒美。
だが、体への負担は大きい。
小柄すぎるはなの体は今はなにもなくても、これから三十代以上年を取ってしまったらきっと病気になってしまう…律《りつ》はそれを一番心配しているが、今はそんなことよりも。
「さっ、着替えて行くぞ」
「はーい、分かりましたよ」
それぞれ違う部屋で着替えて準備ができたらお互いの姿を見て微笑んでいる。
「ふふっ、君って、本当に白が似合う。さすがだよ」
「あ、ありがとう? 褒めてる?」
改めて結婚式用の真っ白なタキシードに身を包んだ綺麗な律《りつ》が何度も両手を上げたりジャンプしたりと確認している真剣な気持ちがはなにとっては面白くもありながら満面の笑みでそっと肩を掴む。
「褒めてる褒めてる。わたしの夫にふさわしい姿だよ」
綺麗な人。
イケメンとかかっこいいとかそんな軽い言葉よりも、この人には「綺麗」が一番似合ってる。
本当に、君がずっとこの日を待ってた理由が分かった気がするよ。
はなの笑みで癒された律《りつ》はお返しにギュッと抱きしめてこう言った。
「君のウェディングドレスは永遠に忘れない。着てくれてありがとう」
そう、このウェディングドレスをデザインしたのは律《りつ》。
主体となるドレスの色は真っ白。
花は純潔が込められた真っ白な薔薇が全体に大きくリボンで飾られた物に丈は足まで長く裾は短く。
頭には薔薇の刺繍が入れられた透明なベール。
なんとも可愛らしさ抜群の最高の一着。
普段ステージで着ていたドレスとは比べ物にならないほどにに美しく優雅で愛らしい。
今の褒め言葉ははなにとって「喜び」だけでは足りないほどグゥっとジャンプして律《りつ》のおでこにキスをした。
「ふっ、君は褒めすぎるところがあって困るよ。でも、今日のことは絶対忘れない。君がデザインしてくれたこのウェディングドレスはわたしだけが着ていい物なんだから」
小さな手の温もりと小さな唇が自分の体に触れられたことは律《りつ》にとってどれだけ「幸せ」なことか。
「ははっ、そうだね。おれがデザインするのは君だけだ。他の人には渡さない。君と出会った時から、おれの人生は君にあるから」
律《りつ》の真っ直ぐに真剣に愛を込めた眼差しが、はなの心に温もりを与えて目が離せない。
「……」
やっぱり君しかいない。
わたしを幸せにしてくれる人、わたしに愛をくれた人。
この人と出会えたわたしはこの世界で一番の幸せ者。
「ふっ、わたしを愛してくれる人が律《りつ》で嬉しい」
はなの可愛らしさと愛らしさと素直な気持ちが自分だけを見つめてくれることが律《りつ》は心から嬉しくてまたギュッと抱きしめた。
「ありがとう。やっとこの日を迎えられた。おれたちの幸せをみんなに見てもらおう!」
抱きしめられた手の温もりが心地良くてゆっくり頷いたはな。
「うん、わたしたちの幸せ、みんなに見てもらおう!」
そっと優しく手を離し、また繋いで二人舞台へと歩き出す。
「あっはは」
「なに? そんなに笑って」
「いや、ごめん。やっと結婚式を挙げられることが嬉しくて一瞬夢なのかと思ったんだ」
「は? 夢じゃないよ。わたしたちの未来はここから始まるんだから、もっと誇りに思ってよ」
バシッと左手で背中を叩いたはなに、律《りつ》は一瞬背骨が折れたのではないかと右手でさすったがなにも問題はなかったので深呼吸を二回してポンッと頭を撫でてこう言った。
「はぁ~、こういうことはおれ以外にはしないで。君にからかわれるのもイジられるのもおれだけだ。約束して?」
瞳を太陽の輝きみたいに眩しく照らす律《りつ》に、はなははっきりと頷いてこう言った。
「分かってるよ。わたしは君の人生の全て。全てを与える君の言うことは聞いてるよ…だから、あまり怒らないで」
頬をたこ焼き寸前の必死に逃げて追い回された衝撃のタコみたいにムスッとちょっと機嫌悪目に頬を膨らませるはな。
でも。
「こーら、そんな顔をしたらメイクが崩れるぞ?」
プニッとちょっと楽しそうに右手でつつき、クスクス笑う律《りつ》を、はなは
「はぁ~」
と、諦めたため息を吐いてから一度目を閉じたらまた開いていつもの可愛さ全開の最強笑顔でグイッと繋いでいる右手を引っ張って走り出す。
「もう早く終わらせて二人の時間作ろう!」
「待て、結婚式はそんなに早く終わるものじゃないぞ!」
だけど、はながせっかくやる気を出してくれたから、こういうのもアリかもしれない。
今日の結婚式はきっとどんな物になっても夫婦になった二人が幸せになれるならそれでいいのだろう。
一方。
集まった歌姫と王子様は。
「ふふっ、はなちゃんのウェディングドレス楽しみだね」
天使の微笑みをする音羽《おとは》。
「うん、私もウェディングドレスには興味がある」
冷静でありながらもどこかワクワクして周り見渡す音陽《ねひ》。
「音羽《おとは》様、いつか僕たちも結婚式を挙げましょう」
完璧な王子様を演じる奏《かなで》。
はぁ~、マジで音羽《おとは》ちゃんと結婚式挙げたい!
心の中では一人浮かれているが、美しく軽やかに微笑む奏《かなで》の考えていることなど誰も分かりはしない。
「へえー、これが結婚式? すごいじゃん」
瞳をキラキラと輝かせてキョロキョロ周りを見て両手をを上げてはしゃぐ翼《つばさ》。
「翼《つばさ》ちゃん、いつかオレたちも結婚式、その、えっと…挙げたい」
少し遠慮しながらも、翼の《つばさ》の両手を握る唄《うた》。
「うっふふ、これがはなさんの結婚式。こんなに大きな会場を選ぶなんてセンスがありますわね」
一人高笑いをして機嫌良さそうな華恋《かれん》。
「華恋《かれん》様、いつか俺たちもこの会場を超える素敵な結婚式を挙げましょうね」
密かに願っていた想いを今ここで告白した舞《まい》。
「わあ、とても素敵です。楽《がく》さん、私たちも結婚式、挙げましょうね?」
そらとして結婚式に参加することにしたそらは落ち着いていながらも、瞳は太陽の輝きみたいに眩しく輝かせてこれからの未来を楽しむ。
「もちろんです。そら様の納得がいく式を挙げましょう」
満面の笑みでそらの想いに応える楽《がく》。
「結婚式か…いつかわたしたちもそうなるの?」
腕を組んでちょっと偉そうにしながらも、ちょっとだけ恥ずかしそうに頬を赤く染める星宙《ほしぞら》。
「そうだよ。ぼくたちもいつかは結婚するんだから、頑張らないとね」
もう既に結婚する前提で話を進める弦《げん》は歯を見せる元気な笑顔でそっと星宙《ほしぞら》の肩を撫でる。
以上十一人がはなと律《りつ》の結婚式に参加している。
祝福が精一杯込められた素敵な結婚式が今開幕する。
「じゃあ、行こう」
「うん」
はなには家族がいない、律《りつ》はあえて家族を呼んでいない。
だってこれは、二人を心から祝福してくれる人たちだけに見てほしいから。
扉が開き、ゆっくり登場する二人。
「あっ」
みんな、本当に来てくれた。
すごく嬉しい。
「はっ」
やっぱりこのメンバーが一番だ。
ゆっくり少しずつ歩いて行けば二人の関係をさらに良くする場所に着く。
そう、バージンロードはそのための道だ。
顎髭を三つ編みにしているちょっと白髪が多めの細い身体をする神父の前に立ったはなと律《りつ》。
さあ、結婚式の幕開けだ。
「では、始めます。細かいことはできないので手短にさせていただきます。まず、新郎、あなたは新婦を心から愛し共に未来を歩むことを誓いますか?」
神父の質問に律《りつ》ははなと繋いでいる手をちょっと力を込めて頷いた。
「はい! 誓います!」
この一度だけではなへの愛はきっと抑えきれないだろう。
まあ、そこをなんとかするのも夫の役目だ。
綺麗な桃色の瞳と真っ直ぐ見つめてくれる律《りつ》はなへの眼差しに安心する神父は次にはなに質問する。
「新婦、どんな時でも新郎を支え慰め愛し、二人で未来を進むことを誓いますか?」
その言葉の重みはケーキよりも甘々にチョコレートみたいにドロドロに溶けてしまいそうなくらいに責任感が強い質問だだが、はなは満面の笑みで頷いた。
「はい、誓います」
わたしたちは永遠に一緒に居る。
そう決めたから。
お互いの誓いを確認したところで。
「では、指輪の交換を」
そう言われてまずは律《りつ》がはなの左手薬指にはめて、次にはなが律《りつ》の左手薬指にはめる。
二人の指輪はそれぞれはなには律《りつ》の瞳である桃色の宝石と、律《りつ》にははなの瞳である黄緑色の宝石を入れた二人ならではの一品。
そして。
「では、誓いのキスを」
その言葉で、律《りつ》ははなのベールを外し、お姫様抱っこでキスをした。
「ふっ、本当に君は予測ができない」
「いいだろう? これはおれたちだけの特別な日だから」
お姫様抱っこという珍しい誓いのキスでも、心から祝福してくれる人たちはみんな立ち上がって拍手を贈ってくれる。
「おめでとう!」
「幸せでいてね!」
「二人共仲良くして!」
色々な祝福の声が聞けただけで改めて夫婦になった二人は満面の笑みでこう言った。
「来てくれてありがとう!」
これからの二人の幸せがいつまでも続きますように。

夜になった。
ホテルよりも家がいいと言ったはなに合わせてそのまま式を終えたら家に帰って来た二人。
「はぁ~、疲れた」
「お疲れ様。よく頑張った」
「本当だよ。メイクなんて普段しないのに、あんなに塗られたら顔が疲れた」
「ははっ、今日の君は一段と美しかった」
「あ、ありがとう…」
とても楽しそうに微笑む律《りつ》の背中に寄りかかるはな。
「今日は特別な日だから、たくさん甘えるよ」
改めて夫婦になれたはなは夫の律《りつ》に甘えようと両手で律《りつ》の頬に触れ、律《りつ》は嬉しそうにクスッと笑って頭を撫でた。
「はっ、いいぞ。今日はお互いを独り占めにする日だ。遠慮しなくていい。なんでも言ってほしい」
「なんでも?」
「ああ、もちろん」
「へえー、それなら」
と、ちょっと怪しげに微笑んたはなは右手でキッチンを指差してこう言った。
「じゃあ今からケーキとハンバーグとコロッケとチャーハンを作って!」
「え…ええっ!?」
なんと四品を作ることになった律《りつ》は壁時計を見て今が何時か確認したらまだ午後十九時。
作るならまだ間に合う? はず。
さあ、一体どうする?
「…分かった。今からスーパーに行って材料を買って来る」
歯を食いしばって諦めか悔しいのか曖昧な感情に押し潰された律《りつ》はこう思った。
「まあ、今日は特別な日だから、妻の言うことは夫のおれが叶える」
なんとも王子様らしい完璧な考えが妻のはなはそれをよーく理解した上でちょっと意地悪をしているのもまた事実。
スーパーに行って帰って来た律《りつ》は早速調理に取りかかった。
ケーキはシフォンにハンバーグは煮込みにコロッケは少し塩っぱくチャーハンは砂糖を少々入れて…完成した。
「ふー、できた…」
約一時間半かけて四品作り終えた律《りつ》はハート柄の可愛いエプロン姿で力尽きて床に倒れたが、
「はい、お疲れ様」
と、はなが抱き寄せて起こしてくれた。
「君に無理を言ったことは申し訳ないと思ってるよ。でも、君だから言えたこと、君にしか頼れないことだから、そこはちゃんと分かってよ?」
上目遣いで本気で甘えてくる可愛すぎる妻に、夫はマシュマロみたいにトロトロに溶けて自然と頷かされた。
「ああ、分かってるよ。君のわがままや頼みことは全ておれが叶える。さっ、食べよう」
「うん!」
テーブルに並べられた和洋中デザートと全てを満足できる最高の品々。
一口食べたらまるで一流料理人が作ったのではないかと錯覚するほどにおいしそうに満面の笑みで楽しむはな。
「うんうん、おいしい!」
「良かった。どれも時間がかかる物ばかりだったけど、作りがいがあって結構楽しかった」
「そう、旦那様が作る物は世界一おいしいよ。これからも よろしくお願いします」
「はい、こちらこそ、永遠を共によろしくお願いします」
二人仲良く手を重ね合わせ、幸せなキスをすることでこれからの二人の人生にたくさんの花を飾られるだろう。