選ばれた歌姫

わたしが作った歌姫はみんな平等に価値を感じる。
ティアラがそう。
わたしが作ったティアラは人それぞれに与えることで歌姫が生まれてステージに立つ。
こんな素敵なこと、他の誰にも考えられない。
わたしだけが作り出せる特別。
だからこそ、順位が必要。
三日間行われた「音を掴む者」の大会の結果発表の日。
集められた六人の歌姫がそれぞれ大会で着たドレスでステージに立つ。
「わぁー、この感じ、久しぶり!」
「まあ、そうね。どんな結果でも受けて立つわ」
まずは花の部。
完成された赤色の薔薇で作られたハートの中央に咲く真っ赤な椿を背にして二人並ぶはなとかれん。
勝者には水色の羽が雪のようにその歌姫を包み込む。
その色の理由はまた今度のお話で。
「今年の花のステージは実にお見事でした! ワタシもついつい惚れ惚れしてしまうほどの癒しでした!」
毎年決まった言葉しか言わない異等義《いらぎ》は全くその自覚がなく、年齢も不明なため、ボケているのか忘れているのか。
なにも分からないままこうしてこの「音を掴む者」の大会は今年で十年となる。
「くだらない言葉なんて聞き飽きた。早く結果を出す」
そうこうしているのに飽きていた天声《あまごえ》が壁の大きなスクリーンに手を伸ばし、水色の羽をふふわふと舞い落とす。
そこにたどり着いたのは。
「わあっ、良かった」
可愛さ全開で両手を高く天井に挙げて喜ぶ三連覇達成の花音《はなね》。
やった。
これで律《りつ》と結婚式ができる!
水色の羽に包まれて幸せそうに落ちていく羽を拾い集めて抱きしめる勝者の花音《はなね》を隣でじっと涙を必死に瞳の中で抑えながらも美しく華やかに笑う華恋《かれん》。
「ふっ」
やっぱり今年もダメだった。
ダメだったけれど、今年は不思議と悔しくないわ。
きっと、あの時一緒に声を重ねたからなのね。
初めて素直に負けを認めつつ、「楽しい」という感情が強いことで華恋《かれん》はパチパチと大きな拍手で花音《はなね》の勝利を祝福した。
「おめでとう、そしてありがとう。また来年もあなたと二人でステージに立てるのを楽しみにしているわ」
これ以上涙が溢れないように華恋《かれん》が丁寧にファンにお辞儀をしてステージを降りようとしたら
「また今度二人で歌おうよ」
と、満面の笑みで花音《はなね》が背中からギュッと抱きしめた。
「来年まで待てないよ。わたしも楽しかった、ありがとう。ライバルでも、たった一年に一度しか二人で歌えないのは嫌だよ」
その言葉が本心か、それとも気を遣っているのか?
どちらでも、華恋《かれん》には華やかにちょっとクスッと面白く笑うほど嬉しいようだ。
「ええ、また今度歌いましょう。あなたとわたくしなら、どんな物でも作れるわ」
抱きしめられたこの小さな腕と温もりを忘れず、華恋《かれん》は頬を擦り寄せ、花音《はなね》は頭を撫でながら二人仲良くステージを降りた。
次に空の部。
水色の羽がたどり着いた先には。
「うっふふ、今年も我の勝ちだ」
こちらも三連覇達成の空音《そらね》が選ばれた。
「お前たち、我の勝利を祝福するがいい。また来年もこの空音《そらね》が勝ってやろう!」
堂々と前に立って怪しく麗しく微笑む空音《そらね》は心から嬉しそうに右手を挙げてファンに手を振る。
やったぞ!
今年も我が勝った!
やはり我に勝てる者は存在しない。
最初から勝ち目があった空音《そらね》に、隣で暗く俯く星宙《ほしぞら》だが、ちょっとだけ笑って肩を掴んだ。
「おめでとうございます。本当に、わたしはあなたに勝つことは難しいです。難しいけど、今年はなにも悔しくはありません。だって、あなたと作り上げたステージはわたし一人にはできませんから」
これは本心。
嘘は言っていない。
実際、本当にあの時は楽しかった。
今年は今までと違って、お互いが持つ力を二人でステージを完成させることで悔しくも恨むこともなく、ただ「楽しい」という感情が強く出ているから。
だからこそ、星宙《ほしぞら》は空音《そらね》に握手を求め、空音《そらね》もそれに応えるように手を握った。
「本当に、楽しかったです。またステージで会いましょう」
「ああ、来年も勝ちに来るがいいだろう」
「絶対に負けませんから」
「そうか。なら、お前の『星』でまた挑戦するがいい」
その言葉を聞いた星宙《ほしぞら》は今年の大会で負けたら「星」を奪われると思っていたため、今の言葉が一瞬聞き間違いかと思ったら、空音《そらね》の真剣な眼差しを見たことでそれがなくなって、感謝を込めて頷いた。
「はい! わたしの『星』はいつまでもあなたに追いついて見せます!」
良かった。
やっぱり今年の大会は今までと違ったから、この人からわたしの「星」を奪われずに済んだ。
本当に、この人には感謝しかない。
ライバルでも、同じステージに立った仲間として、平等な結果が歌姫にとってはとても喜ばしいこと。
「星宙《ほしぞら》」
「はい?」
今、わたしの名前を呼んだ?
「お前の存在は我にとって、星のように特別だ」
怪しく麗しく微笑みながらポンッと頭を撫でてきた空音《そらね》に、星宙《ほしぞら》は頬が赤く染まるほどに嬉しそうにまた頷いた。
「はい、あなたに初めて名前を呼ばれたこと…本当に、嬉しいです。また会いましょう」
「ああ、そうだな」
こちらも二人仲良く手を繋いでステージを降りた。
最後に羽の部。
「あっはは! この感じ懐かしいー」
「緊張する…」
羽の部の勝者はとっくに決まっている。
天声《あまごえ》や見ていた人間全てがそう感じたこと。
「さあっ、どうなるか…羽音《はおん》」
水色の羽がたどり着いた先には。
「えっ、嘘…あたし!?」
なんと翼《つばさ》が選ばれた。
誰も予想外でしばらく沈黙が続いた後
「喜ぶべきなのはあなたじゃない」
と、どこかで聞いたことのある声に気づいたのは羽音《はおん》だけ。
「この声…天声《あまごえ》ちゃん?」
でも、姿は見えない。
声が聞こえるだけ…一体なにが起きているの?
そう、声の主は天声《あまごえ》だが、周りを見渡しても天井を見てもその姿はない。
「翼《つばさ》、あなたのステージはとても良かった」
姿が見えなくても、翼《つばさ》は誰に向かってか丁寧にお辞儀をする。
「ありがとうございま」
「でも、ただ『良かった』だけ」
「えっ?」
「あなたのステージは決まったことしかできていない。今まで勝ち続けたのはあなた以上の歌姫がいなかったから」
「そ、そんな」
「あなたは一度も負けたことがないから、今年もあなたが勝ったと思ってもおかしくない…そう、いつまでも自分が勝つことを考えるのは辞めなさい」
現実を鎖で心臓を縛られたような激しい痛みを感じた翼《つばさ》はショックが大きすぎてしゃがみ込んでしまった。
けれど、天声《あまごえ》はそれよりも大切なことを羽音《はおん》に伝える前にいつものピンク羽を羽音《はおん》の体全体に降らせた。
「こ、これは」
「それはあなたへの祝福であり、勝利の証」
「えっ…ということは勝ったの?」
こちらもなにが起きているのか全く分からず首を傾げている羽音《はおん》を、天声《あまごえ》は透明でありながらもギュッと抱きしめた。
「おめでとう。あなたの勝利を祝福する。これを受け取って」
そう言った天声《あまごえ》から受け取ったのは漆黒の羽の飾りがついた紺色の指輪。
「天声《あまごえ》ちゃん、これは?」
「これはわたしに近づいた証。わたしに近づいたというのは今の状態からレベルアップした。ただそれだけ」
本当の意味は違う。
でも、今は違っても、きっとどこかでまた運命が変わる。
そう信じている。
羽音《はおん》に負けた翼《つばさ》はショックが大きすぎて頭を抱えて悔し涙を浮かべる。
「悔しい! なんで、勝ったと思ったのに、確実な勝利を掴めた思ったのに…ううっ、なんでよ」
今まで一度も負けたことがなかった翼《つばさ》は自分の敗北に全く納得ができないようだ。
あたしのなにが足りなかった?
なにを変えたら勝てた?
嫌だ、嫌だよ!
敗北した者は勝者に泣いて縋りつくだけ。
「羽音《はおん》、君の覚醒がなかったらあたしが勝てた! 君の持つ力は一体どうなってる…まさか、誰かに借りたの?」
翼《つばさ》はもう羽音《はおん》だけのせいにするのでは足りずに他人を巻き込もうと力強く観客席を睨みつけ、ファンは恐ろしさのあまり目を逸らして体を震わしてしまっている。
「ダメ」
その姿に心痛めた羽音《はおん》は満面の笑みでゆっくり首を横に振って否定した。
「いいえ、わたしは自分の力で勝ちました。誰の力も借りていません。だってわたしは、そこまでしてあなたに勝ちたいと思っていませんから」
これは本当のこと。
わたしもどうしてあの時別人になってしまったのかはわたしもよく分かっていない。
分かっていたらあのドレスを手放していた。
でも、分からなくてもいい。
天声《あまごえ》ちゃんがくれたこの勝利の指輪はわたしにとって一番嬉しいことだから。
天声《あまごえ》から受け取った勝利の証は永遠に消えることはない。
勝者にだからこそ、受け取る価値があるのだ。
羽音《はおん》は続けてこう言いながら翼《つばさ》に右手を差し伸べる。
「わたしがこの大会で一番楽しかったのはあなたと二人でステージに立てたことです。一人で立つ時とあなたと二人で立った時は本当に夢のようでした。わたしに夢をくれてありがとうございました」
羽音《はおん》が向ける天使の微笑みのような暖かい笑顔が自然と翼《つばさ》の涙を止めて左手で差し伸べられた右手を握って立ち上がる。
「そっか…そうなんだ。うん、あたしも楽しかったよ。ソロよりもデュオの方がやる気は高いしやりがいがある。あたしも、本当にありがとう」
お互いを認め合い、笑い合える関係がどれだけ喜ばしいことか。
「また二人でステージに立ちましょう」
「そうだね。次はあたしが勝つから、覚悟してね」
ライバルとしても、仲間としても。
翼《つばさ》の勝利宣言はいつか叶うことを願って。



一週間後。
「はな、今年もおめでとう!」
「はいはい、ありがとう。ていうか、毎年思ってたことがある」
「ん? なんだ?」
「どうして君との結婚式はわたしが勝つことになってるの? わたしの大会なんだから、勝っても負けても君に関係ない」
「あるよ。おれは君の王子様だ。君が勝っても負けてもおれがそばに居続ける。それに、おれは歌姫じゃないから歌姫の君が勝ってこその結婚式をしたいと思ったんだ。ごめん、勝手なこと言って…」
「別に、君がそこまでわたしと結婚式を挙げたいっていう気持ちはちゃんと分かってたから、今年も勝てたことだし、君の言う通り、結婚式をしよう」
律《りつ》とはなは結婚して今年で三年経つ。
朝から言い合いをしながらも、お互いの気持ちを理解し合って今もこれからも長く一緒にいるようだ。
何度も機嫌が悪くなったら抱きしめて、褒められたら頭を撫でてくれて。
本当にこの夫婦は「幸せ者」だろう。
「さっ、朝ご飯を食べて館に行くぞ」
「はいはい、分かったよ」
「はいは一回にしなさい」
「ん〜、分かってるよ」
大会から一週間が経って、9月いっぱいははなはステージには立たない。
こういう時こそ休息が必要だから。
その間に結婚式を挙げる予定。
二人の結婚記念日は九月二十四日。
約二週間後に迫っている。
この二週間後ではなのドレスと式場探しは間に合わないと思っているはずが?
「それで、式場はどこにしたの?」
「おれたちが好きな海が見える場所だ。景色も良くて最高だと思う」
律《りつ》はとっくにこの三年の間一人で全て準備を整えてようやくはなが了承したことで実現する。
「ん、はむ」
チョコレートいっぱいのトーストにカブっと食べてまだまだ寝癖が残っているはなの髪を満面の笑みで櫛で解く律《りつ》は本当に幸せそうに夢が叶ったことが誰よりも嬉しく感じている。
「君と結婚式を挙げられるこの嬉しい気持ちが叶うのが本当に夢のようだ」
その言葉を聞いたはなは食べているトーストを皿に置いて両手で律《りつ》の頬を軽くつついてこう言った。
「わたしの旦那様はわたしを一番に愛してくれる。わたしも君と結婚式を挙げられることが人生で一番嬉しいよ」
どんなに距離が縮まっても、離れことなんてない。
夫婦になって良かったことなんて数え切れないほどに無限に花畑のように広がっている。
「おれの妻は世界一愛おしい。愛している」
「うん、わたしも君を愛しているよ」
次のお話で二人は結婚式を挙げます。
どうぞお楽しみに。