いよいよ最終日となったこの日。
はねとつばさの勝負は一体どちらが勝つのか?
「……」
「はねちゃん、もうすぐ出番だよ。準備できたかな?」
「……」
「あれ? 聞こえてる?」
「……」
はねは天声《あまごえ》がくれたドレスをただ一時間以上黙って見ている。
そのドレスとは。
模様もない真っ黒で腰の部分には大きなまるで悪魔を象徴するような尖った羽が飾られた天使とはイメージがかけ離れた最恐の一着。
「これ…」
わたしに似合うから天声《あまごえ》ちゃんがくれた。
でもなんだか、不思議なんだよね。
美しくて目を離してしまったら怖くなってしまう…。
笑顔が消えて無表情だけが続いているはね。
そんなはねの姿に奏《かなで》は心配してギュッと抱きしめた。
「はねちゃん、大丈夫。初出場だけど、はねちゃんなら勝てると思う。きっと天声《あまごえ》様はこのドレスを着たはねちゃんに勝ってほしいって思ってくれたんだと僕はそう感じてる。だから、不安にならないでいいんだよ」
王子様としての励ましの言葉と愛情がたっぷり詰まった最高の言葉。
それを言われてしまったら、もうはねはやっとドレスから目を離してそのままいじめられた手の温もりが心地良くて頬を擦り寄せる。
「うん、ありがとう。そうだよね、このドレスは勝ち目があるからわたしにくれた。そう思えばなにも怖くない。奏《かなで》の言葉は本当に嬉しいことばかり。さすがわたしの王子様だね」
やっと見せるはねの天使のような美しい微笑みを魅せられた奏《かなで》は満面の笑みで頷き、耳元でこう囁いた。
「大好きだよ」
王子様としてではなく一人の人間としてはねを愛していることを示す魔法のような嬉しい言葉。
「うん、わたしもだよ」
その言葉に応えるはねは頬を真っ赤に染めるほど幸せそう。
「わたしは必ず勝つ。早くこのドレスを着てステージに立ちたい!」
「うん、じゃあ外で待ってるから」
そう言って、奏《かなで》がドアを開けて控え室から出て行った後、はねはバシッと軽く両手で頬を叩いて気合を入れる。
「着替えよう」
一つ一つ丁寧に服を脱いでドレスに裾を通して着替えて髪型はツインテール。
クリップをティアラに変えて頭に飾り準備完了。
天使の羽のティアラにはあまり似合わないが、きっとはねならどんなドレスも全て着こなせるだろう。
「奏《かなで》、終わったよ」
「はーい」
ニヤニヤとちょっと気持ち悪く中に入った奏《かなで》ははねの姿を見て一瞬だけゾッとして冷や汗をかいた。
この姿は…どうしよう、でも、もう後戻りなんてできない。
僕は王子様。
歌姫の君をステージまでエスコートするのが僕の宿命。
ちゃんとやり遂げないと、はねちゃんは勝てない。
だから、行こう。
奏《かなで》は知っている。
はねの姿が一体どうなってしまうのか。
だが、それを変えることも今の現状のままでいるのかは分からない。
全てはステージに立たなければ未来は大きく動く。
「大丈夫」
「奏《かなで》?」
「はねちゃん、絶対勝とう!」
「うん、絶対にね」
さあ、ここから運命が変わる。
一方、つばさの方は。
「よし、できた!」
早速ドレスに着替えていた。
今回のステージテーマは「鳥の羽ばたき」
はねは「天使の羽ばたき」。
二人共自分の宿命を生かす最高のテーマにしたようだ。
今回のドレスは青色の鳥を刺繍で作った水色の肩出しドレス。
髪型はポニーテール。
ちょっぴり大人な背伸びした物。
クリップをティアラに変えて頭に飾り準備完了。
「唄《うた》、入って」
そう言われて唄《うた》はニコッとワクワクしながら笑顔で控え室に入った瞬間、美しすぎて涙が止まらない。
「うう〜、美しい! つばさちゃんは本当になにを着ても似合ってるよ」
その涙を右手で拭うつばさは大切な人に褒めれたことが嬉しすぎて抱きしめた。
「もうー、唄《うた》は泣き虫なんだからー。そんなに泣かれたらあたしまで泣いてしまうじゃん!」
出番前にステージに立つ本人が泣いてしまったら集中なんてできるはずもない。
でも、それだけ嬉しいのはお互いにとってかけがえのない素敵な思い出となっただろう。
「あはっ、もう行こうか」
「うん、精一杯エスコートするよ」
そう言って、二人仲良く手を繋いでステージへと向かう。
それぞれ王子様のエスコートで扉の中に入り、生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
今日は二千人以上のファンが白と青のペンライトを持って応援している。
「はねちゃん、頑張って!」
「つばささん、歌声聴かせて」
今まで聞いたことのない歓声に、はねは驚きと嬉しさで天使の羽で包み込むような暖かい微笑みを見せる。
「ふふっ」
わたし、今まで以上に頑張ろう。
鳥の羽ばたきのような綺麗な笑顔を見せるつばさ。
「あっはは!」
今年も盛り上がってるじゃん!
あたしの本気 、みんなに届けてあげる。
二人揃ってお辞儀をして合図の言葉を贈る。
「天使の羽ばたきをは人々の人生を変える。その力は与えられた者だけ」
「鳥の羽ばたきは生き物の望みを叶える素敵な物。その望みを叶えられるのはただ一人」
二人一緒に。
「それがわたし《あなた》の全てだから」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
今回はお互いを象徴させる滑らかでゆっくりな曲調でまさに「羽」にぴったりな一曲。
まずはつばさから。
「ああっ、あなたに伝えるわたしの神秘的な鳥の羽ばたき。あなただけに魅せるわたしの鳥はどこまでも飛んでいく。さあっ、一緒に行こう」
次にはね。
「そう、あなたに届ける天使の羽ばたきは全てあなたにあげるわ。だって、それこそがわたしとあなたを繋ぐ唯一の姿だから」
それぞれ両手を挙げてそこから生み出す天使の羽と鳥の翼が宙に浮かび、ステージの周りを取り囲む。
そして、筆が二つに分かれて半分半分に真っ白な羽と青色の翼がぶつかり合うような優しさではなく決闘のような強く激しい作品になっていく。
「ふっ」
へえ、中々やるじゃん。
新人だから簡単に勝てると思ってたけど、こんな対等に戦えるのは倒すやりがいがある。
「はっ」
やっぱり強い。
わたしは今年から出ているからつばささんに追いつくのが精一杯。
でも、絶対に負けたくない!
お互い譲り合うことなく筆を退かしたり戻したりと何度も繰り返し…なんとつばさが観客席の目の前まで歩いて右手を挙げた瞬間、青色の翼が数え切れないほどに天井ではなく空から舞い降りた!?
「あなたに渡すわたしの鳥の羽ばたきは何者にも負けることなく飛んでいく。どんなことがあっても、わたしの鳥の羽ばたきであなたの人生をわたしの羽で包ま込んであげる」
堂々と前に立って、ソロステージのようにつばさの形が次々と大きく出たことで、はねの筆が折れてつばさの筆が半分から全体に青色の鳥の羽が描かれている。
「……」
負けた?
えっ、こんなの勝てる気がしない。
どうすれば…。
勝ち目を失ったはねは次の歌詞を歌うことすらもできなくなり体が固まってしまった。
「お姉ちゃん」
観客席にいる音陽《ねひ》ははねの様子を心配して立ち上がってある物を両手で壊れるくらいに力強く握りしめてつばさを睨みつける。
「くっ…このままお姉ちゃんが負けてしまうなら私があいつを倒す」
そう言った瞬間、
『あなたの力は簡単に使ったらダメ』
と、天声《あまごえ》の言葉を思い出し、深呼吸で心を落ちつかせてゆっくり座った。
「お姉ちゃん、勝って」
音陽《ねひ》の想いがはねに伝わった瞬間?
「あっ、かっ、うう…」
はねのドレスから腰に飾られていた黒い羽が宙に浮かんではねの全身を取り囲み、息ができないほどに苦しく感じたその一瞬、はねの瞳が漆黒のように真っ黒に染まり、ある歌詞を歌う。
「羽なんて、全て悪魔が消し去る。悪魔は全てを知っている。希望も絶望も未来も何もかもを。輝きなんて嘘偽り。本物の輝きは全て悪魔のワタシが奪う!」
漆黒の大きな大きな悪魔の羽がはねの腰に本物の羽が生えてその漆黒の羽が筆となり、青色の鳥の羽が一瞬で絶望の印となる漆黒の羽に変わり、ステージが真っ黒に包まれて…まるで地獄にいるような感覚に陥る。
「これこそがワタシの輝き。ワタシの羽は永遠に闇の中にあるの!」
一体なにが起きているのかなんて誰も知らない。
歌っている本人のはねは意思がなく体の求めに従って歌い続けるだけ。
「ほら、全てを失ったワタシの人生はなんて素晴らしいこと? もっともっと魅せなさい、ワタシの悪魔の羽は誰もを魅了する最恐の魔法!」
不気味で美しくて切なくて…笑顔というより透明な涙が真っ赤な血みたいに本当の悪魔だと、誰もがそう感じさせられた。
クライマックス。
「ワタシは悪魔。天使のわたしになんて戻らない。天使も堕天使も悪魔のワタシには敵わない。ああっ、ここに居るワタシはなんて幸せなの? 最後までワタシの人生の輝きを見せてあげるの…」
はねにはない低音の歌声。
アルトやテノールとは比べ物にならないほどに低く暗い声は十二歳の少年に出せるはずはないのに、今のはねはそれができる。
これは希望でもない、絶望だけが生み出された最恐のステージ。
完成したステージは悪魔を象徴するような漆黒の大きな羽の中央に真っ黒なティアラが置かれて…それをはねが手に取り、頭に飾った瞬間からはねは本物の悪魔になってしまった。
後ろでじっと立っていたつばさは衝撃が大きすぎて言葉を失い曲が終わった瞬間、力が抜けてしゃがみ込む。
「…なにが起きた?」
あたしの形が急に止まって、クライマックスまであたしは歌うつもりが…はねの急変でそれができなくなった。
この結果はもう…。
そう、見ての通り、この勝負の勝者はきっと。
曲が終わり、はねは瞬きをして我に返り、後ろを振り返ってステージを見た時こう思った。
「すごい、美しい…」
歌った本人はなにが起きたのか全く分からない様子でも、完成したステージがこんなに恐怖に包まれても、ただ美しいならそれでいいと思ったのだろう。
「わたしって、こんなに美しいステージができるんだね」
瞳は真っ黒でも、どこか普段のおしとやかな音羽《おとは》に戻っている。
「ふふっ、」
わたしの可能性がこんなにも高くあったなんて…すごく嬉しい。
気分の高揚は抑えきれずに両手を挙げてここに居る全ての人たちに笑顔見せる音羽《おとは》。
「みんな、ありがとう!」
さっきまでの悪魔らしさが一瞬で消えて元に戻った音羽《おとは》の姿に感動なのか? ファンは大粒の涙を流しながら心から音羽《おとは》に拍手を贈った。
ファンだけではない、異等義《いらぎ》やつばさにはなにそらに、王子様の奏《かなで》も盛大な拍手を音羽《おとは》に贈った。
「ふふっ、嬉しい!」
笑顔が止まらず心に手を当てて目を閉じて。
「天声《あまごえ》ちゃん、わたしの本気届いたかな?」
審査員の天声《あまごえ》は全て見ていた。
こうなることも予想していた。
「音羽《おとは》、ごめんなさい。でも、ありがとう」
しっかり届いたよ。
あなたの本気はわたしにちゃんと届いて心が揺らいだ。
本当に、あなたって、わたしの全てを叶えてくれる魔法使いみたい。
笑ってはいないけれど、天声《あまごえ》も心に手を当てて目を閉じて開いた時には口角がちょっと上がっている。
「わたしの記憶は全てあなたが思い出させてくれる」
真っ黒なワンピースに身を包む…ある意味天声《あまごえ》もさっきの音羽《おとは》のような悪魔に近い姿かもしれない。
「ちゃんと審査する。あなたたち歌姫が納得する結果を選ぶ」
今日から明日の昼までにかけて天声《あまごえ》ただ一人がこの大会の勝者を選ぶ。
選んだ先に待っているのは未来か、現状か。
どちらにしても、天声《あまごえ》の選んだ結果に不満を抱いた歌姫は今まで存在したことはない。
負けたことは自分の力不足。
勝者を恨んでも、それが天声《あまごえ》のせいにするのは大きな間違い。
歌姫に選ばれた者が天声《あまごえ》を恨むことなどあってはならない。
もし、それをしてしまったら…。
「わたしを裏切ったらティアラ《命》を奪う。その覚悟があるならわたしに挑みなさい」
ティアラは歌姫の命と同じ価値がある。
天声《あまごえ》を裏切った歌姫はティアラ《命》を奪われ、歌声と記憶を失う。
これを遊びと勘違いしたらいけない。
遊び感覚であればティアラ《命》を奪われても文句なんてつけさせない。
「今年の勝者は考えなくても分かる。だって、わたしが選ぶのはいつでもあなたたちだから」
こんな勝者が決まっている大会なんてなにも意味なんてない。
でも、意味がないからこそ、やる価値がある。
今年の勝者者に選ばれたのは一体誰なのか?
次のお話で結果が決まっているので、どうぞお楽しみに。
はねとつばさの勝負は一体どちらが勝つのか?
「……」
「はねちゃん、もうすぐ出番だよ。準備できたかな?」
「……」
「あれ? 聞こえてる?」
「……」
はねは天声《あまごえ》がくれたドレスをただ一時間以上黙って見ている。
そのドレスとは。
模様もない真っ黒で腰の部分には大きなまるで悪魔を象徴するような尖った羽が飾られた天使とはイメージがかけ離れた最恐の一着。
「これ…」
わたしに似合うから天声《あまごえ》ちゃんがくれた。
でもなんだか、不思議なんだよね。
美しくて目を離してしまったら怖くなってしまう…。
笑顔が消えて無表情だけが続いているはね。
そんなはねの姿に奏《かなで》は心配してギュッと抱きしめた。
「はねちゃん、大丈夫。初出場だけど、はねちゃんなら勝てると思う。きっと天声《あまごえ》様はこのドレスを着たはねちゃんに勝ってほしいって思ってくれたんだと僕はそう感じてる。だから、不安にならないでいいんだよ」
王子様としての励ましの言葉と愛情がたっぷり詰まった最高の言葉。
それを言われてしまったら、もうはねはやっとドレスから目を離してそのままいじめられた手の温もりが心地良くて頬を擦り寄せる。
「うん、ありがとう。そうだよね、このドレスは勝ち目があるからわたしにくれた。そう思えばなにも怖くない。奏《かなで》の言葉は本当に嬉しいことばかり。さすがわたしの王子様だね」
やっと見せるはねの天使のような美しい微笑みを魅せられた奏《かなで》は満面の笑みで頷き、耳元でこう囁いた。
「大好きだよ」
王子様としてではなく一人の人間としてはねを愛していることを示す魔法のような嬉しい言葉。
「うん、わたしもだよ」
その言葉に応えるはねは頬を真っ赤に染めるほど幸せそう。
「わたしは必ず勝つ。早くこのドレスを着てステージに立ちたい!」
「うん、じゃあ外で待ってるから」
そう言って、奏《かなで》がドアを開けて控え室から出て行った後、はねはバシッと軽く両手で頬を叩いて気合を入れる。
「着替えよう」
一つ一つ丁寧に服を脱いでドレスに裾を通して着替えて髪型はツインテール。
クリップをティアラに変えて頭に飾り準備完了。
天使の羽のティアラにはあまり似合わないが、きっとはねならどんなドレスも全て着こなせるだろう。
「奏《かなで》、終わったよ」
「はーい」
ニヤニヤとちょっと気持ち悪く中に入った奏《かなで》ははねの姿を見て一瞬だけゾッとして冷や汗をかいた。
この姿は…どうしよう、でも、もう後戻りなんてできない。
僕は王子様。
歌姫の君をステージまでエスコートするのが僕の宿命。
ちゃんとやり遂げないと、はねちゃんは勝てない。
だから、行こう。
奏《かなで》は知っている。
はねの姿が一体どうなってしまうのか。
だが、それを変えることも今の現状のままでいるのかは分からない。
全てはステージに立たなければ未来は大きく動く。
「大丈夫」
「奏《かなで》?」
「はねちゃん、絶対勝とう!」
「うん、絶対にね」
さあ、ここから運命が変わる。
一方、つばさの方は。
「よし、できた!」
早速ドレスに着替えていた。
今回のステージテーマは「鳥の羽ばたき」
はねは「天使の羽ばたき」。
二人共自分の宿命を生かす最高のテーマにしたようだ。
今回のドレスは青色の鳥を刺繍で作った水色の肩出しドレス。
髪型はポニーテール。
ちょっぴり大人な背伸びした物。
クリップをティアラに変えて頭に飾り準備完了。
「唄《うた》、入って」
そう言われて唄《うた》はニコッとワクワクしながら笑顔で控え室に入った瞬間、美しすぎて涙が止まらない。
「うう〜、美しい! つばさちゃんは本当になにを着ても似合ってるよ」
その涙を右手で拭うつばさは大切な人に褒めれたことが嬉しすぎて抱きしめた。
「もうー、唄《うた》は泣き虫なんだからー。そんなに泣かれたらあたしまで泣いてしまうじゃん!」
出番前にステージに立つ本人が泣いてしまったら集中なんてできるはずもない。
でも、それだけ嬉しいのはお互いにとってかけがえのない素敵な思い出となっただろう。
「あはっ、もう行こうか」
「うん、精一杯エスコートするよ」
そう言って、二人仲良く手を繋いでステージへと向かう。
それぞれ王子様のエスコートで扉の中に入り、生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
今日は二千人以上のファンが白と青のペンライトを持って応援している。
「はねちゃん、頑張って!」
「つばささん、歌声聴かせて」
今まで聞いたことのない歓声に、はねは驚きと嬉しさで天使の羽で包み込むような暖かい微笑みを見せる。
「ふふっ」
わたし、今まで以上に頑張ろう。
鳥の羽ばたきのような綺麗な笑顔を見せるつばさ。
「あっはは!」
今年も盛り上がってるじゃん!
あたしの本気 、みんなに届けてあげる。
二人揃ってお辞儀をして合図の言葉を贈る。
「天使の羽ばたきをは人々の人生を変える。その力は与えられた者だけ」
「鳥の羽ばたきは生き物の望みを叶える素敵な物。その望みを叶えられるのはただ一人」
二人一緒に。
「それがわたし《あなた》の全てだから」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
今回はお互いを象徴させる滑らかでゆっくりな曲調でまさに「羽」にぴったりな一曲。
まずはつばさから。
「ああっ、あなたに伝えるわたしの神秘的な鳥の羽ばたき。あなただけに魅せるわたしの鳥はどこまでも飛んでいく。さあっ、一緒に行こう」
次にはね。
「そう、あなたに届ける天使の羽ばたきは全てあなたにあげるわ。だって、それこそがわたしとあなたを繋ぐ唯一の姿だから」
それぞれ両手を挙げてそこから生み出す天使の羽と鳥の翼が宙に浮かび、ステージの周りを取り囲む。
そして、筆が二つに分かれて半分半分に真っ白な羽と青色の翼がぶつかり合うような優しさではなく決闘のような強く激しい作品になっていく。
「ふっ」
へえ、中々やるじゃん。
新人だから簡単に勝てると思ってたけど、こんな対等に戦えるのは倒すやりがいがある。
「はっ」
やっぱり強い。
わたしは今年から出ているからつばささんに追いつくのが精一杯。
でも、絶対に負けたくない!
お互い譲り合うことなく筆を退かしたり戻したりと何度も繰り返し…なんとつばさが観客席の目の前まで歩いて右手を挙げた瞬間、青色の翼が数え切れないほどに天井ではなく空から舞い降りた!?
「あなたに渡すわたしの鳥の羽ばたきは何者にも負けることなく飛んでいく。どんなことがあっても、わたしの鳥の羽ばたきであなたの人生をわたしの羽で包ま込んであげる」
堂々と前に立って、ソロステージのようにつばさの形が次々と大きく出たことで、はねの筆が折れてつばさの筆が半分から全体に青色の鳥の羽が描かれている。
「……」
負けた?
えっ、こんなの勝てる気がしない。
どうすれば…。
勝ち目を失ったはねは次の歌詞を歌うことすらもできなくなり体が固まってしまった。
「お姉ちゃん」
観客席にいる音陽《ねひ》ははねの様子を心配して立ち上がってある物を両手で壊れるくらいに力強く握りしめてつばさを睨みつける。
「くっ…このままお姉ちゃんが負けてしまうなら私があいつを倒す」
そう言った瞬間、
『あなたの力は簡単に使ったらダメ』
と、天声《あまごえ》の言葉を思い出し、深呼吸で心を落ちつかせてゆっくり座った。
「お姉ちゃん、勝って」
音陽《ねひ》の想いがはねに伝わった瞬間?
「あっ、かっ、うう…」
はねのドレスから腰に飾られていた黒い羽が宙に浮かんではねの全身を取り囲み、息ができないほどに苦しく感じたその一瞬、はねの瞳が漆黒のように真っ黒に染まり、ある歌詞を歌う。
「羽なんて、全て悪魔が消し去る。悪魔は全てを知っている。希望も絶望も未来も何もかもを。輝きなんて嘘偽り。本物の輝きは全て悪魔のワタシが奪う!」
漆黒の大きな大きな悪魔の羽がはねの腰に本物の羽が生えてその漆黒の羽が筆となり、青色の鳥の羽が一瞬で絶望の印となる漆黒の羽に変わり、ステージが真っ黒に包まれて…まるで地獄にいるような感覚に陥る。
「これこそがワタシの輝き。ワタシの羽は永遠に闇の中にあるの!」
一体なにが起きているのかなんて誰も知らない。
歌っている本人のはねは意思がなく体の求めに従って歌い続けるだけ。
「ほら、全てを失ったワタシの人生はなんて素晴らしいこと? もっともっと魅せなさい、ワタシの悪魔の羽は誰もを魅了する最恐の魔法!」
不気味で美しくて切なくて…笑顔というより透明な涙が真っ赤な血みたいに本当の悪魔だと、誰もがそう感じさせられた。
クライマックス。
「ワタシは悪魔。天使のわたしになんて戻らない。天使も堕天使も悪魔のワタシには敵わない。ああっ、ここに居るワタシはなんて幸せなの? 最後までワタシの人生の輝きを見せてあげるの…」
はねにはない低音の歌声。
アルトやテノールとは比べ物にならないほどに低く暗い声は十二歳の少年に出せるはずはないのに、今のはねはそれができる。
これは希望でもない、絶望だけが生み出された最恐のステージ。
完成したステージは悪魔を象徴するような漆黒の大きな羽の中央に真っ黒なティアラが置かれて…それをはねが手に取り、頭に飾った瞬間からはねは本物の悪魔になってしまった。
後ろでじっと立っていたつばさは衝撃が大きすぎて言葉を失い曲が終わった瞬間、力が抜けてしゃがみ込む。
「…なにが起きた?」
あたしの形が急に止まって、クライマックスまであたしは歌うつもりが…はねの急変でそれができなくなった。
この結果はもう…。
そう、見ての通り、この勝負の勝者はきっと。
曲が終わり、はねは瞬きをして我に返り、後ろを振り返ってステージを見た時こう思った。
「すごい、美しい…」
歌った本人はなにが起きたのか全く分からない様子でも、完成したステージがこんなに恐怖に包まれても、ただ美しいならそれでいいと思ったのだろう。
「わたしって、こんなに美しいステージができるんだね」
瞳は真っ黒でも、どこか普段のおしとやかな音羽《おとは》に戻っている。
「ふふっ、」
わたしの可能性がこんなにも高くあったなんて…すごく嬉しい。
気分の高揚は抑えきれずに両手を挙げてここに居る全ての人たちに笑顔見せる音羽《おとは》。
「みんな、ありがとう!」
さっきまでの悪魔らしさが一瞬で消えて元に戻った音羽《おとは》の姿に感動なのか? ファンは大粒の涙を流しながら心から音羽《おとは》に拍手を贈った。
ファンだけではない、異等義《いらぎ》やつばさにはなにそらに、王子様の奏《かなで》も盛大な拍手を音羽《おとは》に贈った。
「ふふっ、嬉しい!」
笑顔が止まらず心に手を当てて目を閉じて。
「天声《あまごえ》ちゃん、わたしの本気届いたかな?」
審査員の天声《あまごえ》は全て見ていた。
こうなることも予想していた。
「音羽《おとは》、ごめんなさい。でも、ありがとう」
しっかり届いたよ。
あなたの本気はわたしにちゃんと届いて心が揺らいだ。
本当に、あなたって、わたしの全てを叶えてくれる魔法使いみたい。
笑ってはいないけれど、天声《あまごえ》も心に手を当てて目を閉じて開いた時には口角がちょっと上がっている。
「わたしの記憶は全てあなたが思い出させてくれる」
真っ黒なワンピースに身を包む…ある意味天声《あまごえ》もさっきの音羽《おとは》のような悪魔に近い姿かもしれない。
「ちゃんと審査する。あなたたち歌姫が納得する結果を選ぶ」
今日から明日の昼までにかけて天声《あまごえ》ただ一人がこの大会の勝者を選ぶ。
選んだ先に待っているのは未来か、現状か。
どちらにしても、天声《あまごえ》の選んだ結果に不満を抱いた歌姫は今まで存在したことはない。
負けたことは自分の力不足。
勝者を恨んでも、それが天声《あまごえ》のせいにするのは大きな間違い。
歌姫に選ばれた者が天声《あまごえ》を恨むことなどあってはならない。
もし、それをしてしまったら…。
「わたしを裏切ったらティアラ《命》を奪う。その覚悟があるならわたしに挑みなさい」
ティアラは歌姫の命と同じ価値がある。
天声《あまごえ》を裏切った歌姫はティアラ《命》を奪われ、歌声と記憶を失う。
これを遊びと勘違いしたらいけない。
遊び感覚であればティアラ《命》を奪われても文句なんてつけさせない。
「今年の勝者は考えなくても分かる。だって、わたしが選ぶのはいつでもあなたたちだから」
こんな勝者が決まっている大会なんてなにも意味なんてない。
でも、意味がないからこそ、やる価値がある。
今年の勝者者に選ばれたのは一体誰なのか?
次のお話で結果が決まっているので、どうぞお楽しみに。


