大会二日目。
今日は「空」の日。
トップのそらと二番目のほしぞら。
テーマは「涙」とそらの提案で決まった。
七色の虹がかかるように、流れ星が流れるように。
二人が作り出す「涙」は一体どういう物になるのか?
そらの控室。
「うう〜、緊張してきました」
「そら様、大丈夫です。今年もそら様が勝ちます」
空音《そらね》としては怪しく麗しく微笑む孤高の存在だが、そらはちょっと臆病で緊張しやすい。
今も緊張しすぎて壁に縋りついて口をカクカクと震わしている。
そんなそらを支えるために楽《がく》がいつもの果物のジュースをそらに渡そうとするが
「今はそういう気分じゃないので受け取れません」
と、毎回大会になると大好きなジュースを受け取る余裕がないのだ。
本当にこれで大丈夫なのか?
「うう〜」
どうしよう、どうしましょう!
なんで我は同じテーマを提案してしまったんですか?
テーマを同じにしたら、確実な圧勝ができないじゃないですか!
自分で提案しておいて後悔する暇はないのに出番はあと十五分に迫っているのに。
本当に大丈夫か?
と、思っていたら。
「そらさん」
「様子を見に来たよ」
親友のはねとはなが満面の笑みで来てくれた。
二人が来てくれたことでそらはゆっくり立ち上がっておぼつかない足取りで二人の目の前に立っていつもの穏やかな笑顔を見せた。
「二人共、来てくれてありがとうございます。二人の姿を見れたことで、緊張が和らぎました。本当に、嬉しいです」
不思議です。
やっぱり親友の二人が居るだけで、私は幸せですね。
「ふふっ、もし我が勝ったら、また女子会がしたいです」
こんなに優しく穏やかに微笑まれたら、はねもはなも心から納得して頷いてそれぞれそらの手を握って応援する。
「はい、絶対に勝ってください。手作りのお菓子を一緒に食べたいです」
「うん…君なら勝てるよ。だって、そらは誰よりも強い輝きを持っているんだから、ちゃんと自信を持って、ね」
二人の応援にそらは満面の笑みで頷き返してつい抱きしめてこう言った。
「はい! 絶対に勝ってみせます!」
堂々と勝つことを宣言したそらの輝かしい姿に、ずっと静かに息を潜めて見守っていた楽《がく》はクスッと嬉しそうに笑ってそらの頭を撫でた。
「そら様が一番です。私も精一杯、あなたをステージへエスコートします。さっ、着替えましょう」
その言葉で眼鏡を外してゆっくり瞬きをして我のそらに変わる。
「うっふふ、あっははは! そうだ、我こそが空の歌姫の頂点だ。絶対に勝ってやろう!」
我に変わったそらはなんでもできる。
私のそらよりも、我のそらは自信満々で何も恐れずただ前を向き進むのみ。
我のそらに変わったことではねもはなもクスクスっとちょっと面白くも嬉しみを込めた笑顔でそれぞれ背中を撫でてこう言った。
「大丈夫。あなた《君》なら勝てる」
その言葉を言った後、はねとはなは軽く手を振りながら観客席の方に向かった。
その姿にそらは怪しく麗しく微笑みながら楽《がく》を一旦外にポイッと出してドレスに着替える。
今回のステージテーマは「涙」。
そらはいつも通り七色のリボンで重ねて作った虹を全体に飾り、胸元には虹色の宝石を添えて完成。
今回は肩を出したちょっぴりセクシーな物にしたようだ。
髪型は左耳で一つ結びにする。
あとはクリップをティアラに変えて頭に飾り、これで準備完了。
「楽《がく》、準備ができた。入っていいぞ」
「はい」
ゆっくりドアを開けて中に入ったら今回も完璧なそらの姿が見られたことでちょっと涙を流すのを右手で抑える楽《がく》はとても嬉しそう。
「ふっ」
やはりそら様はなにを着てもよく似合っている。
本当に私はこの方の王子様になれて幸せだ。
永遠にあなたをエスコートさせていただきます。
さあ、楽《がく》もタキシードに着替えたところで二人仲良く手を繋ぎ合いながら控え室を出てステージへと向かう。
その一方、ほしぞらは?
「絶対にわたしが勝つ。勝たないと星を奪われてしまう…そんなの絶対嫌!」
勝つことばかりを考えすぎて頭を抱えて必死に鏡の自分に言い聞かせるほしぞら。
そんなほしぞらの姿をじっとソファーに張り付いて見ている弦《げん》はどうすればいいか分からず瞳を激しく揺らして今にも泣きそう。
「…ほしちゃん」
勝ちたい気持ちは分かるけど、そこまで自分を追い詰めてもなにも変わらないよ。
「星」をそらさんに奪われてしまったら、きっとほしちゃんは歌姫を辞めてしまう。
それはぼくも嫌だよ…嫌だけど、今のほしちゃんはそらさんに勝てる気がしない。
これって、どうすれば正解になるんだろう?
王子様として慰めればいいか、励ませばいいのか。
色々と考えれば考えるほど時間は無駄に過ぎていくだけ。
でも、それを変えられるのは弦《げん》だけ。
よし、決めた!
「ほしちゃん、この大会が終わったらさ、二人で出かけようよ」
「…は?」
なにを言ってるの?
突然のことで動揺してさっきの弦《げん》みたいに瞳を激しく揺らしているほしぞらに 弦《げん》は恐れながらも言葉を続ける。
「勝ち負けも大事だけど、もっと大事なのは『楽しむ』ことだとぼくはそう思ってるよ」
「楽しむ?」
まだ分かっていないほしぞらの両手をそっと優しく握ってまだまだ続ける弦《げん》。
「そうだよ。何事も楽しまないと損しちゃうよ。それにぼくは笑顔のほしちゃんがこの世界で一番一番大好きだから、この大会ではちゃんと笑顔を見せてほしい。それはぼくだけじゃない、他のファンの人たちもきっとそう思ってるよ。だから、一人で抱え込むんじゃなくて、一番近くにいるぼくを頼ってよ」
溢れる想いと告白のような嬉しい言葉。
それはほしぞらにもやっと届いて大粒の涙を流しながら弦《げん》に甘えるほしぞら。
「う、あああっ! わたしは本当にバカだ。勝つことばかり考えすぎて大切な人の気持ちを忘れてた。こんなわたしでも好きになってくれた人がいるのにわたしは…あああっ!」
久しぶりに聞いたほしぞらの本音を、弦《げん》は嬉しさのあまり頭を撫でて頷いた。
「うんうん。いっぱい泣いてよ。ほしちゃんが誰よりも頑張ってるのを知ってるのはぼくだけなんだから、たまには本音を言ってぼくに甘えてよ」
「う、ん。弦《げん》が居てくれるから今まで頑張ってこれた。遅くなったけど、いつもありがとう」
今日は久しぶりのことばかり。
こんなに弦《げん》に甘えるほしぞらの涙は本当に感謝と好きな気持ちが合わさった特別な涙だろう。
「さっ、そろそろ着替えないとね」
ハンカチで優しく涙を拭って素直に頷いたほしぞらの姿に安心した弦《げん》はとても満足そうに笑顔でドアを開けて外で待つ。
「あっはは。本当にほしちゃんは可愛い。ぼくはほしちゃんと出会えたことがぼくの人生の中で一番特別な星だよ。だから、ぼくの特別な星は誰にも渡したくない。そらさん、あなたには負けないよ」
今年の大会は予想外のことばかり。
一体、どちらが勝つのだろうか?
「うん、このドレスで大丈夫」
今回は流れ星を大きく目立たせるために刺繍で形を取って縫って主体となる色はあえて紺色にしている。
夜空の色はちょっと微妙に違いがあるので、それを意識してこの色を選んだそうだ。
半袖ではなく長袖にすることで袖にも流れ星の刺繍を加えることで体中が流れ星が埋め尽くされた特別な一着。
髪型は下ろす。
あとはクリップをティアラに変えて頭に飾り準備完了。
「弦《げん》、準備できた。行こう」
ドアを開けてタキシード姿の弦《げん》の隣に立って二人はステージへと歩き出す。
さて、今日も一体どんなステージが見られるのか?
それぞれ王子様のエスコートで扉の中に入り、生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
今日も千人以上のファンが待っていた。
ペンライトにうちわにメガホン。
アイドルでもないのに、ファンは本気でそらとほしぞらを応援する。
「そら様!」
「ほしぞら様!」
「頑張って下さい」
二人を応援する熱気がどれだけ嬉しいことか。
「うっふふ! それならお前たちの気持ちに我が応えてやろう!」
「…まあ、精一杯頑張ります」
そらのやる気とほしぞらの気まずい反応がどんなに違っていても、勝負はここで決まる。
お互い向かい合い、そらは心に手を当てて怪しげに笑い、ほしぞらは真剣に本気の眼差しをライバルに見せつける。
「あなたには絶対に負けません!」
「ほう、だが、今年も我が勝ってやろう!」
お互い譲らない想いをこのステージぶつける。
二人共丁寧にお辞儀をしてほしぞらから合図を贈る。
「涙を流すあなたへの最高のプレゼントは流れ星。わたしの流れ星であなたの心に温かみを与えましょう」
次にそら。
「涙を照らせるのは七色に輝く虹。虹は世界を照らしあなたの心に永遠に届く究極の魔法。さあ、我のステージを見ていなさい」
二人の合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
今回の曲は少し低めの悲しい曲。
まずはほしぞらから。
「どうして泣いているの? もしかして、流れ星が見えなかったから?」
星を司るほしぞらの歌声はとても音が高く高音だけで完成されている。
続いてそら。
「ダメよ。流れ星なんてただの幻。私がかける七色の虹であなたの涙を止めてあげるわ」
二人の周りをほしぞらはキラキラ輝く星の欠片が舞い散り、そらは七色の虹がドレスを包み込み、次第にそれが宙に浮かび、真っ白なステージに色を添えていく。
半分半分に流れ星と虹が描かれて丸いビーズが虹を作り、細いリボンが流れ星を作る。
なんて素敵な光景なのだろう。
誰もが心惹かれて瞬きをする暇を与えてはくれない。
「大丈夫。わたしの流れ星は」
「不安にならないで。私の虹で」
二人声を重ねて。
「あなたの涙を虹《流れ星》に変えてあげるから」
怪しげに真剣に本気の笑顔でお互いを見て自然と手を重ねて踊り出した!?
「そうね、あなたの虹はとても素晴らしい」
「ええ、あなたの流れ星もとても素敵だわ」
なにも打ち合わせなどせず、ライバルとして嫌っていた? はずなのに、ほしぞらとそらはお互いの武器を認め合い笑い合える。
二人一緒に。
「なんて素晴らしいこと。わたしたちの虹《流れ星》は世界で一番特別な物よ」
ステージが夜空に変わり、そこで流れる星が全体を色濃くし、また次に現れた七色の虹は青空に彩りを加えるなんとも美しいこと。
こんなステージはきっと一人では作れない特別な一時。
そしてクライマックス。
手を離してゆっくりお互い背中を向けて歩いてこう歌う。
「バイバイ」
「また会えたらいいね…」
これこそが切なくも悲しくも素敵な瞬間になった。
「うっふふ!」
大成功だろう。
「やりましたね」
結構楽しかった。
また手を繋いでファンにお辞儀をして満面の笑みを見せた。
「ありがとう」
「わたしたちの輝きは世界一です!」
ライバルだからこそできる最高の作品を作り上げたそらとほしぞら。
司会者の異等義《いらぎ》も感動しすぎて鼻水ダラダラだら流しながらこう言う。
「お〜、なんと素晴らしいことでしょうか! お二人に盛大な拍手をお贈りください!」
そう言われたことで、ファンは席から立ち上がるほどの喜びの拍手を二人に贈った。
「ふっ、こんなに嬉しいのは初めてだ」
「本当に、そうですね!」
わたし一人にはできないことは二人ならできる。
今まではこの人が大嫌いで関わりたくないって思ってたけど、今回のステージは本当に楽しかった。
自由で楽しくて心地良い。
もっと二人で歌いたいって思うほど、わたしは歌姫になったことを心の底から喜んでる。
それがどんな結果でも、わたしは、わたしたちはやり遂げた。
その事実だけでももう十分。
初めて知った一人にはできないこと。
ソロステージでは自分だけで色や形を作ることが主流であったが、デュオステージは全く違う。
勝負としてステージに立つという決まりがあっても、今回のようにライバルであっても、お互いを理解し合い、手を重ね合わせればもっと素敵なステージを作れる。
きっと、ほしぞらだけではない、そらだって同じことを思っているはず。
「わあ…」
本当に今年の大会はすごいぞ。
今までの我だったら自分勝手にできたが、今年は何故かほしぞらと二人で作りたいと心からそう思って動いたことが良かった。
「ふっ、最後はお前の番だぞ。はね」
さあ、最終日となる明日のステージは「羽」。
次のお話は一体どうなってしまうのか?
それは天声《あまごえ》さえも予想外の発展になること間違いなしだろう。
天使と鳥の美しいステージをぜひご覧ください。
今日は「空」の日。
トップのそらと二番目のほしぞら。
テーマは「涙」とそらの提案で決まった。
七色の虹がかかるように、流れ星が流れるように。
二人が作り出す「涙」は一体どういう物になるのか?
そらの控室。
「うう〜、緊張してきました」
「そら様、大丈夫です。今年もそら様が勝ちます」
空音《そらね》としては怪しく麗しく微笑む孤高の存在だが、そらはちょっと臆病で緊張しやすい。
今も緊張しすぎて壁に縋りついて口をカクカクと震わしている。
そんなそらを支えるために楽《がく》がいつもの果物のジュースをそらに渡そうとするが
「今はそういう気分じゃないので受け取れません」
と、毎回大会になると大好きなジュースを受け取る余裕がないのだ。
本当にこれで大丈夫なのか?
「うう〜」
どうしよう、どうしましょう!
なんで我は同じテーマを提案してしまったんですか?
テーマを同じにしたら、確実な圧勝ができないじゃないですか!
自分で提案しておいて後悔する暇はないのに出番はあと十五分に迫っているのに。
本当に大丈夫か?
と、思っていたら。
「そらさん」
「様子を見に来たよ」
親友のはねとはなが満面の笑みで来てくれた。
二人が来てくれたことでそらはゆっくり立ち上がっておぼつかない足取りで二人の目の前に立っていつもの穏やかな笑顔を見せた。
「二人共、来てくれてありがとうございます。二人の姿を見れたことで、緊張が和らぎました。本当に、嬉しいです」
不思議です。
やっぱり親友の二人が居るだけで、私は幸せですね。
「ふふっ、もし我が勝ったら、また女子会がしたいです」
こんなに優しく穏やかに微笑まれたら、はねもはなも心から納得して頷いてそれぞれそらの手を握って応援する。
「はい、絶対に勝ってください。手作りのお菓子を一緒に食べたいです」
「うん…君なら勝てるよ。だって、そらは誰よりも強い輝きを持っているんだから、ちゃんと自信を持って、ね」
二人の応援にそらは満面の笑みで頷き返してつい抱きしめてこう言った。
「はい! 絶対に勝ってみせます!」
堂々と勝つことを宣言したそらの輝かしい姿に、ずっと静かに息を潜めて見守っていた楽《がく》はクスッと嬉しそうに笑ってそらの頭を撫でた。
「そら様が一番です。私も精一杯、あなたをステージへエスコートします。さっ、着替えましょう」
その言葉で眼鏡を外してゆっくり瞬きをして我のそらに変わる。
「うっふふ、あっははは! そうだ、我こそが空の歌姫の頂点だ。絶対に勝ってやろう!」
我に変わったそらはなんでもできる。
私のそらよりも、我のそらは自信満々で何も恐れずただ前を向き進むのみ。
我のそらに変わったことではねもはなもクスクスっとちょっと面白くも嬉しみを込めた笑顔でそれぞれ背中を撫でてこう言った。
「大丈夫。あなた《君》なら勝てる」
その言葉を言った後、はねとはなは軽く手を振りながら観客席の方に向かった。
その姿にそらは怪しく麗しく微笑みながら楽《がく》を一旦外にポイッと出してドレスに着替える。
今回のステージテーマは「涙」。
そらはいつも通り七色のリボンで重ねて作った虹を全体に飾り、胸元には虹色の宝石を添えて完成。
今回は肩を出したちょっぴりセクシーな物にしたようだ。
髪型は左耳で一つ結びにする。
あとはクリップをティアラに変えて頭に飾り、これで準備完了。
「楽《がく》、準備ができた。入っていいぞ」
「はい」
ゆっくりドアを開けて中に入ったら今回も完璧なそらの姿が見られたことでちょっと涙を流すのを右手で抑える楽《がく》はとても嬉しそう。
「ふっ」
やはりそら様はなにを着てもよく似合っている。
本当に私はこの方の王子様になれて幸せだ。
永遠にあなたをエスコートさせていただきます。
さあ、楽《がく》もタキシードに着替えたところで二人仲良く手を繋ぎ合いながら控え室を出てステージへと向かう。
その一方、ほしぞらは?
「絶対にわたしが勝つ。勝たないと星を奪われてしまう…そんなの絶対嫌!」
勝つことばかりを考えすぎて頭を抱えて必死に鏡の自分に言い聞かせるほしぞら。
そんなほしぞらの姿をじっとソファーに張り付いて見ている弦《げん》はどうすればいいか分からず瞳を激しく揺らして今にも泣きそう。
「…ほしちゃん」
勝ちたい気持ちは分かるけど、そこまで自分を追い詰めてもなにも変わらないよ。
「星」をそらさんに奪われてしまったら、きっとほしちゃんは歌姫を辞めてしまう。
それはぼくも嫌だよ…嫌だけど、今のほしちゃんはそらさんに勝てる気がしない。
これって、どうすれば正解になるんだろう?
王子様として慰めればいいか、励ませばいいのか。
色々と考えれば考えるほど時間は無駄に過ぎていくだけ。
でも、それを変えられるのは弦《げん》だけ。
よし、決めた!
「ほしちゃん、この大会が終わったらさ、二人で出かけようよ」
「…は?」
なにを言ってるの?
突然のことで動揺してさっきの弦《げん》みたいに瞳を激しく揺らしているほしぞらに 弦《げん》は恐れながらも言葉を続ける。
「勝ち負けも大事だけど、もっと大事なのは『楽しむ』ことだとぼくはそう思ってるよ」
「楽しむ?」
まだ分かっていないほしぞらの両手をそっと優しく握ってまだまだ続ける弦《げん》。
「そうだよ。何事も楽しまないと損しちゃうよ。それにぼくは笑顔のほしちゃんがこの世界で一番一番大好きだから、この大会ではちゃんと笑顔を見せてほしい。それはぼくだけじゃない、他のファンの人たちもきっとそう思ってるよ。だから、一人で抱え込むんじゃなくて、一番近くにいるぼくを頼ってよ」
溢れる想いと告白のような嬉しい言葉。
それはほしぞらにもやっと届いて大粒の涙を流しながら弦《げん》に甘えるほしぞら。
「う、あああっ! わたしは本当にバカだ。勝つことばかり考えすぎて大切な人の気持ちを忘れてた。こんなわたしでも好きになってくれた人がいるのにわたしは…あああっ!」
久しぶりに聞いたほしぞらの本音を、弦《げん》は嬉しさのあまり頭を撫でて頷いた。
「うんうん。いっぱい泣いてよ。ほしちゃんが誰よりも頑張ってるのを知ってるのはぼくだけなんだから、たまには本音を言ってぼくに甘えてよ」
「う、ん。弦《げん》が居てくれるから今まで頑張ってこれた。遅くなったけど、いつもありがとう」
今日は久しぶりのことばかり。
こんなに弦《げん》に甘えるほしぞらの涙は本当に感謝と好きな気持ちが合わさった特別な涙だろう。
「さっ、そろそろ着替えないとね」
ハンカチで優しく涙を拭って素直に頷いたほしぞらの姿に安心した弦《げん》はとても満足そうに笑顔でドアを開けて外で待つ。
「あっはは。本当にほしちゃんは可愛い。ぼくはほしちゃんと出会えたことがぼくの人生の中で一番特別な星だよ。だから、ぼくの特別な星は誰にも渡したくない。そらさん、あなたには負けないよ」
今年の大会は予想外のことばかり。
一体、どちらが勝つのだろうか?
「うん、このドレスで大丈夫」
今回は流れ星を大きく目立たせるために刺繍で形を取って縫って主体となる色はあえて紺色にしている。
夜空の色はちょっと微妙に違いがあるので、それを意識してこの色を選んだそうだ。
半袖ではなく長袖にすることで袖にも流れ星の刺繍を加えることで体中が流れ星が埋め尽くされた特別な一着。
髪型は下ろす。
あとはクリップをティアラに変えて頭に飾り準備完了。
「弦《げん》、準備できた。行こう」
ドアを開けてタキシード姿の弦《げん》の隣に立って二人はステージへと歩き出す。
さて、今日も一体どんなステージが見られるのか?
それぞれ王子様のエスコートで扉の中に入り、生と死の間を通り抜ければそこはもうステージ。
今日も千人以上のファンが待っていた。
ペンライトにうちわにメガホン。
アイドルでもないのに、ファンは本気でそらとほしぞらを応援する。
「そら様!」
「ほしぞら様!」
「頑張って下さい」
二人を応援する熱気がどれだけ嬉しいことか。
「うっふふ! それならお前たちの気持ちに我が応えてやろう!」
「…まあ、精一杯頑張ります」
そらのやる気とほしぞらの気まずい反応がどんなに違っていても、勝負はここで決まる。
お互い向かい合い、そらは心に手を当てて怪しげに笑い、ほしぞらは真剣に本気の眼差しをライバルに見せつける。
「あなたには絶対に負けません!」
「ほう、だが、今年も我が勝ってやろう!」
お互い譲らない想いをこのステージぶつける。
二人共丁寧にお辞儀をしてほしぞらから合図を贈る。
「涙を流すあなたへの最高のプレゼントは流れ星。わたしの流れ星であなたの心に温かみを与えましょう」
次にそら。
「涙を照らせるのは七色に輝く虹。虹は世界を照らしあなたの心に永遠に届く究極の魔法。さあ、我のステージを見ていなさい」
二人の合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
今回の曲は少し低めの悲しい曲。
まずはほしぞらから。
「どうして泣いているの? もしかして、流れ星が見えなかったから?」
星を司るほしぞらの歌声はとても音が高く高音だけで完成されている。
続いてそら。
「ダメよ。流れ星なんてただの幻。私がかける七色の虹であなたの涙を止めてあげるわ」
二人の周りをほしぞらはキラキラ輝く星の欠片が舞い散り、そらは七色の虹がドレスを包み込み、次第にそれが宙に浮かび、真っ白なステージに色を添えていく。
半分半分に流れ星と虹が描かれて丸いビーズが虹を作り、細いリボンが流れ星を作る。
なんて素敵な光景なのだろう。
誰もが心惹かれて瞬きをする暇を与えてはくれない。
「大丈夫。わたしの流れ星は」
「不安にならないで。私の虹で」
二人声を重ねて。
「あなたの涙を虹《流れ星》に変えてあげるから」
怪しげに真剣に本気の笑顔でお互いを見て自然と手を重ねて踊り出した!?
「そうね、あなたの虹はとても素晴らしい」
「ええ、あなたの流れ星もとても素敵だわ」
なにも打ち合わせなどせず、ライバルとして嫌っていた? はずなのに、ほしぞらとそらはお互いの武器を認め合い笑い合える。
二人一緒に。
「なんて素晴らしいこと。わたしたちの虹《流れ星》は世界で一番特別な物よ」
ステージが夜空に変わり、そこで流れる星が全体を色濃くし、また次に現れた七色の虹は青空に彩りを加えるなんとも美しいこと。
こんなステージはきっと一人では作れない特別な一時。
そしてクライマックス。
手を離してゆっくりお互い背中を向けて歩いてこう歌う。
「バイバイ」
「また会えたらいいね…」
これこそが切なくも悲しくも素敵な瞬間になった。
「うっふふ!」
大成功だろう。
「やりましたね」
結構楽しかった。
また手を繋いでファンにお辞儀をして満面の笑みを見せた。
「ありがとう」
「わたしたちの輝きは世界一です!」
ライバルだからこそできる最高の作品を作り上げたそらとほしぞら。
司会者の異等義《いらぎ》も感動しすぎて鼻水ダラダラだら流しながらこう言う。
「お〜、なんと素晴らしいことでしょうか! お二人に盛大な拍手をお贈りください!」
そう言われたことで、ファンは席から立ち上がるほどの喜びの拍手を二人に贈った。
「ふっ、こんなに嬉しいのは初めてだ」
「本当に、そうですね!」
わたし一人にはできないことは二人ならできる。
今まではこの人が大嫌いで関わりたくないって思ってたけど、今回のステージは本当に楽しかった。
自由で楽しくて心地良い。
もっと二人で歌いたいって思うほど、わたしは歌姫になったことを心の底から喜んでる。
それがどんな結果でも、わたしは、わたしたちはやり遂げた。
その事実だけでももう十分。
初めて知った一人にはできないこと。
ソロステージでは自分だけで色や形を作ることが主流であったが、デュオステージは全く違う。
勝負としてステージに立つという決まりがあっても、今回のようにライバルであっても、お互いを理解し合い、手を重ね合わせればもっと素敵なステージを作れる。
きっと、ほしぞらだけではない、そらだって同じことを思っているはず。
「わあ…」
本当に今年の大会はすごいぞ。
今までの我だったら自分勝手にできたが、今年は何故かほしぞらと二人で作りたいと心からそう思って動いたことが良かった。
「ふっ、最後はお前の番だぞ。はね」
さあ、最終日となる明日のステージは「羽」。
次のお話は一体どうなってしまうのか?
それは天声《あまごえ》さえも予想外の発展になること間違いなしだろう。
天使と鳥の美しいステージをぜひご覧ください。


