笑顔ができない星宙《ほしぞら》。
無表情で愛想も悪くて一人ぼっち。
三人家族で両親からいっぱい愛されて育ったのに。
『一番になれないお前には失望した』
『どれだけ頑張っても一番になれないならなにも意味はないわね』
音を掴む者。
毎年開催される音を掴む大会で三年前まで空のトップとして活躍していた星宙《ほしぞら》だったが、まだデビューして一年も経っていない空に優勝を取られてしまったことで、両親は今まで一番だった星宙《ほしぞら》の敗北に失望し、愛することをピタッと糸が切れたようにやめた…。
「あいつのせいだ。あいつが歌姫にならなかったらわたしはずっと一番だったのに、なんであの方はあいつを選んだの? あいつのどこがいいの?」
鏡に映る自分の姿にそう問いかけても、当然自分であるので答えられるわけもなく、ただ無駄な時間が過ぎて行くだけ。
毎日毎日夜になると食事も取らずに部屋に閉じ籠っては鏡の前に立って問いかける。
両親を失望させたこと、空が現れたこと。
もっと他にも自分では抱えきれないほどに心に空間を閉ざしては泣いてしまう。
だけど、華恋《かれん》と翼《つばさ》に出会ったことでそれから隙間が浮かんだ。
『あなた、わたくしたちと仲良くしましょう。敗れた者同士、なにか次への道が開くはず…』
敗者とは思えないほどに華やかさと明るさが星宙《ほしぞら》にとってどれだけの救いであったか。
そして、今日もステージに立つ。
「わたしは一番にならないともう誰からも愛してもらえない…そんなの耐えられない」
空の館でせっかくドレスに着替えたのに、自分を奪った空への憎しみが大きすぎてそればかり考えて頭を抱える星宙《ほしぞら》。
すると、そこに来たのは?
「君は十分美しい。そんなことで頭を抱えていては先が持たないぞ。ぼくたちたちは将来結婚して幸せな家庭を築くと約束したじゃないか。もう忘れたのか?」
背中まできちんと手入れをして伸ばされた太い髪を右肩で一つ結びにし、濃い紫色の瞳。
「弦《げん》君、そう言ってくれるのは嬉しいけど、もうちょっとロマンチックな言い方はないの?」
そう、弦《げん》は星宙《ほしぞら》の王子様。
二人も将来結婚する約束をしている。
星宙《ほしぞら》は今十七歳。
弦《げん》は二十四歳。
歳の差があっても、歌姫と王子様は自然と結ばれる仕組みを天声《あまごえ》は作り続けている。
こんなに美しくかっこよさをちょっと含んだ笑顔は弦《げん》の得意技。
「はっ、今日のドレスも最高だな。よく似合ってるぞ」
そっと頭を撫でてくれる弦《げん》の優しさに星宙《ほしぞら》は鼓動が早く動いてドキドキしても笑顔ができない限りその想いは届かないことが悔しくて見つめてくる目かを逸らしてスッと離れてしまう。
「簡単に触れるのはやめて…まだそんな関係じゃないから…」
違う。
こう言いたいわけじゃない。
本当は笑顔で抱きしめたいのに、笑うことができない。
あいつが優勝したからわたしは笑顔を失って、感情が薄らいだ。
だからこそ、今年は絶対に負けない。
負けるわけにはいかない!
今回のステージテーマは「笑顔」。
ドレスは小さな黄色の星が隅々まで刺繍で飾られた夜空をイメージした青色にして長さは足元まで伸ばしたまさに星宙《ほしぞら》にぴったりな一着。
ティアラはドレスと同じく大きな黄色の星に夜空をイメージした青色。
こんなに綺麗なドレスを着ても笑顔ができない星宙《ほしぞら》は無表情で一人扉に歩き出したら。
「待って、そこはぼくがエスコートさせてもらう」
王子様のエスコートなしに扉の中に入るのはダメだ…でも、分かった上でそうしてるのはずっと知ってるよ。
まだほしちゃんはぼくを信用してくれない。
出会った時は笑顔が絶えない可愛い子だったのに、空様に負けてからほしちゃんは心を閉ざした。
だからこそ、放っておけない!
王子様として、一人の男として、星宙《ほしぞら》を守れるのは幸せにできるのは自分だけだと自覚している弦《げん》は美しくかっこよさを出しつつ笑う姿はきっと星宙《ほしぞら》にとって愛おしく感じるはず。
「さあ、行こうか」
手を握り合って扉の中に入って生と死の間を通りすぎればそこはもうステージ。
「星宙《ほしぞら》様!」
「待ってましたー」
「星をいっぱい見せてー」
約二百人を超えるファンの声援に星宙《ほしぞら》は何故か暗く下を向いている。
「……」
うるさい。
分かってる。
これは期待されてるって…だけど、もし今年も負けたら皆はもうわたしのステージを見てくれなくなる。
「はあ、まあ、やらないと」
ゆっくり深呼吸をして暗くくすんだ心を落ち着かせる。
「星は人を魅了する力がある。魅了して心奪われて笑顔が生まれる…わたしもその笑顔を作りましょう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「星が生み出す人々の笑顔。美しくて綺麗で自然と笑顔になる。わたしも星になりたい、星を感じたい」
黄色の星がドレスから生まれてキラキラと輝かせてステージに青色の夜空を飾り仕上げに黄色の星が流れる。
流れ星が人の願いも笑顔も叶えてくれる特別な魔法があるように、星宙《ほしぞら》も自分が星になったらきっと自分の笑顔も取り戻せるとほんの少しの期待と希望を抱き、今日もステージに立っている。
「はあっ」
ステージ中なのにいつもため息が出る。
わたしって、本当に、なにがしたいの?
お父さんとお母さんから見捨てられて人ぼっちで唯一わたしを愛してくれる弦《げん》君にはいつも冷たいことばっかりして、もう。
こんなんじゃ、絶対に大会であいつに勝てない。
あいつに勝てないわたしはいらない子。
もう、嫌!
「わたしの笑顔は取り戻せない、取り戻せるなんて夢の話。だから、そんなわたしと一緒に行きましょう。世界で一番安らぐ場所へ」
青色の夜空が最後の歌詞で真っ黒に染まり、黄色の星も失敗したクッキーみたいな黒焦げ状態で灰色に変わった。
これはもう「笑顔」とは無縁の絶望の景色。
見ていたファンも心配するように歌い終わった星宙《ほしぞら》をじっと見ていたら。
「はいはいー。みんな、今日も見に来てくれてありがとね。ほしちゃんはちょっと調子が悪いだけだからなにも気にしないで。次の大会も、ぜひ、見に来てね! よろしく!」
満面の笑みでステージに現れたのは弦《げん》。
彼は今日で五回目となるありえないことをした。
それは、ステージに立っていいのは歌姫だけ。
王子様はステージまで歌姫をエスコートするのが宿命であり仕事。
ただし、どんなことであっても、王子様は決してステージに立ってはいけない。
もし立った場合。
「はあっ、またあなたはわたしを裏切った。傷をつける」
天声《あまごえ》から一本の線を右足に刻まれて傷が増える。
要するに、掟を破ったと考えれば話が早い。
「ははっ、これはまた痛いね」
ちょっとだけ右足を両手で包むように優しく触れる弦《げん》の姿を何度も見ていた星宙《ほしぞら》は全く気にせず、力が抜けてしゃがみ込んだ。
「は、あっ、はああっ」
まただ。
またわたし、やってしまったんだ。
どんなにいい歌声でも、どんなに輝きを持っていても。
わたしはもう。
「ほう、これで終わりか? こんな物で我に勝とうなんて考えるのはやめた方がいいだろう」
一番聞きたくない声はゆっくりと観客席の奥から怪しく麗しく微笑みがらステージの前に現れたのは当然。
「そら、なんであなたがここにいるの? まさか、わざわざわたしのステージを見て怯えに来たの?」
力強く心の底から恨むように悔し涙を流しがらケンカを売る星宙《ほしぞら》。
よりにもよってこいつがわたしのステージを見に来たなんて、絶対嫌がらせだ。
失敗したわたしを嘲笑いに来て、降伏を認めさせるために来たんだ。
なんて性格が悪い人、なんて勝ち目をくれないの?
「もう、嫌」
既にこの時から敗者は決まっているのか?
決めたテーマを外し、全く違うステージを飾ったことは決して良いこととは言えない。
でも。
「よし、決めた。今年の大会では我と同じテーマにしてもらう」
「は?」
なにを言って。
「今年のテーマは『涙』にしよう。涙なら雨も星も共通するところはあるだろう。違うか?」
お決まりの怪しく麗しく微笑む空音《そらね》の姿が星宙《ほしぞら》にとってそれは眩い星のように輝いていて、自然と頷いた。
「分かった。あなたの言う通りする…その代わり、わたしはわたしで星を作る。それでいいなら付き合ってあげる」
まだまだライバルとして自分の星を譲る気はない星宙《ほしぞら》の太陽のような眩しい眼差しに空音《そらね》も同じように頷いて交渉成立したようだ。
さあ、これから一体どうなるのか?
翌日、空の館。
「はあー、今日も頑張ります!」
あくびをしながら背筋を伸ばしてやる気を出すそら。
今回のステージテーマは「失う」。
何故このテーマを選んだのか?
「そら様、そろそろお時間です。準備をお願いします」
「はい、分かりました」
ドレスは灰色のあえて黒の手前に選び、雨粒を透明なビーズを縫い付けて夏でありながらも長袖は譲れないようだ。
「さあ、ティアラを飾って準備完了」
「おっと、眼鏡を外さなくては」
そう言って、そっと丁寧に眼鏡外してくれた楽《がく》に、空音《そらね》は珍しく満面の笑みでおでこに口づけをした。
「ありがとう。そして、宿題を終わらせて偉いぞ」
「そら様…」
約束、覚えてくれていたんですね。
口づけされたおでこをそっと右手で撫でて心から喜んでちょっと可愛らしくニコニコと笑う楽《がく》。
「ご褒美、ありがとうございます」
そら様の愛、確かに受け取りましたよ。
ステージ前にこんなにイチャイチャする二人の元に。
「ここでそんなことしないでください。見ていられないじゃないですか?」
「そうですよ。ぼくだってまだ一度もしていないのに…むぅ~」
わざわざライバルのステージを見に来てくれたのは星宙《ほしぞら》と弦《げん》。
二人共、嫉妬心が強くて睨んだり拳を握りしめて今にも殴りかかりそうなくらいに怖い。
だが?
「はっ、なんだお前たち? もう我に負けることを悔しがっているのか?」
堂々と心に手を当てて怪しげに笑う空音《そらね》はもう自分が勝つことは分かっていると胸を張って星宙《ほしぞら》にそう問いかけると?
「ふん、まだ勝負はしていないじゃないですか? それに、今年は同じテーマでするんですから、今年こそはわたしが勝ちます! あなたこそ、わたしに負けても嫌な顔しないでくださいね?」
星宙《ほしぞら》はまだまだ自分に勝ち目はあると信じて左手で指差して本気の眼差しで堂々と勝つことを宣言した。
さて、今年は一体どうなるのか?
「空音《そらね》様、そろそろ行きましょう」
「ああっ、そうだった。じゃあ、我のステージを見て怯えるといいだろう」
そう言って、二人は扉の中に入り、生と死の間を通りすぎればそこはもうステージ。
「空音《そらね》様!」
「今日も待ってましたー」
「早く歌声聴かせて!」
毎回数え切れないほどの声援が空音《そらね》のやる気を虹のように高く高く燃え上がる。
「雨の中で失った私の大切な宝物。それはもう二度と元に戻らない。本当に世界は私を置いて行ってしまう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「私はこの真っ白な石が大切な宝物だった。ただの石でも、私にとっては特別な物…それなのに、雨が降ったせいで、その石は消えた」
小雨から大雨に代わり、ステージには暗い雲が現れて空音《そらね》を濡らし…少しずつ雨が止んで七色の虹が筆となり、ステージに虹がかかる。
「そう、虹がかかればもうなにも気にしない。だって、この虹は私に新しい宝物をくれたから!」
虹は空音《そらね》の代表的な武器。
これは誰にも作れ出せない作品。
今日もまた、空音《そらね》の輝きはどんどん虹のように高くなる。
「すごい、すごいけど、絶対に負けたくない」
「我のステージは一番だ!」
ここからは羽の舞台を見てみよう。
「はぁ~、やっぱりあたしの翼は世界一! って、名前も翼だからなんかややこしくなるんだけど…まっ、羽の歌姫の中でもあたしはめっちゃ人気があるからお羽ちゃんには勝てる気しかない。あは、ごめんね。あたしが勝っても文句言わないでね」
勝つ気満々の翼《つばさ》は新人の羽音《はおん》に勝てることをまるで分かったように上から物を言っている。
それも海の前でただ一人。
「羽が美しいなら、翼は綺麗にする。それがあたしの生き方だから…絶対に負けないよー!」
「美しさ」と「綺麗」は一体どちらが勝つのだろうか?
次のお話では翼《つばさ》のステージをご覧ください。
無表情で愛想も悪くて一人ぼっち。
三人家族で両親からいっぱい愛されて育ったのに。
『一番になれないお前には失望した』
『どれだけ頑張っても一番になれないならなにも意味はないわね』
音を掴む者。
毎年開催される音を掴む大会で三年前まで空のトップとして活躍していた星宙《ほしぞら》だったが、まだデビューして一年も経っていない空に優勝を取られてしまったことで、両親は今まで一番だった星宙《ほしぞら》の敗北に失望し、愛することをピタッと糸が切れたようにやめた…。
「あいつのせいだ。あいつが歌姫にならなかったらわたしはずっと一番だったのに、なんであの方はあいつを選んだの? あいつのどこがいいの?」
鏡に映る自分の姿にそう問いかけても、当然自分であるので答えられるわけもなく、ただ無駄な時間が過ぎて行くだけ。
毎日毎日夜になると食事も取らずに部屋に閉じ籠っては鏡の前に立って問いかける。
両親を失望させたこと、空が現れたこと。
もっと他にも自分では抱えきれないほどに心に空間を閉ざしては泣いてしまう。
だけど、華恋《かれん》と翼《つばさ》に出会ったことでそれから隙間が浮かんだ。
『あなた、わたくしたちと仲良くしましょう。敗れた者同士、なにか次への道が開くはず…』
敗者とは思えないほどに華やかさと明るさが星宙《ほしぞら》にとってどれだけの救いであったか。
そして、今日もステージに立つ。
「わたしは一番にならないともう誰からも愛してもらえない…そんなの耐えられない」
空の館でせっかくドレスに着替えたのに、自分を奪った空への憎しみが大きすぎてそればかり考えて頭を抱える星宙《ほしぞら》。
すると、そこに来たのは?
「君は十分美しい。そんなことで頭を抱えていては先が持たないぞ。ぼくたちたちは将来結婚して幸せな家庭を築くと約束したじゃないか。もう忘れたのか?」
背中まできちんと手入れをして伸ばされた太い髪を右肩で一つ結びにし、濃い紫色の瞳。
「弦《げん》君、そう言ってくれるのは嬉しいけど、もうちょっとロマンチックな言い方はないの?」
そう、弦《げん》は星宙《ほしぞら》の王子様。
二人も将来結婚する約束をしている。
星宙《ほしぞら》は今十七歳。
弦《げん》は二十四歳。
歳の差があっても、歌姫と王子様は自然と結ばれる仕組みを天声《あまごえ》は作り続けている。
こんなに美しくかっこよさをちょっと含んだ笑顔は弦《げん》の得意技。
「はっ、今日のドレスも最高だな。よく似合ってるぞ」
そっと頭を撫でてくれる弦《げん》の優しさに星宙《ほしぞら》は鼓動が早く動いてドキドキしても笑顔ができない限りその想いは届かないことが悔しくて見つめてくる目かを逸らしてスッと離れてしまう。
「簡単に触れるのはやめて…まだそんな関係じゃないから…」
違う。
こう言いたいわけじゃない。
本当は笑顔で抱きしめたいのに、笑うことができない。
あいつが優勝したからわたしは笑顔を失って、感情が薄らいだ。
だからこそ、今年は絶対に負けない。
負けるわけにはいかない!
今回のステージテーマは「笑顔」。
ドレスは小さな黄色の星が隅々まで刺繍で飾られた夜空をイメージした青色にして長さは足元まで伸ばしたまさに星宙《ほしぞら》にぴったりな一着。
ティアラはドレスと同じく大きな黄色の星に夜空をイメージした青色。
こんなに綺麗なドレスを着ても笑顔ができない星宙《ほしぞら》は無表情で一人扉に歩き出したら。
「待って、そこはぼくがエスコートさせてもらう」
王子様のエスコートなしに扉の中に入るのはダメだ…でも、分かった上でそうしてるのはずっと知ってるよ。
まだほしちゃんはぼくを信用してくれない。
出会った時は笑顔が絶えない可愛い子だったのに、空様に負けてからほしちゃんは心を閉ざした。
だからこそ、放っておけない!
王子様として、一人の男として、星宙《ほしぞら》を守れるのは幸せにできるのは自分だけだと自覚している弦《げん》は美しくかっこよさを出しつつ笑う姿はきっと星宙《ほしぞら》にとって愛おしく感じるはず。
「さあ、行こうか」
手を握り合って扉の中に入って生と死の間を通りすぎればそこはもうステージ。
「星宙《ほしぞら》様!」
「待ってましたー」
「星をいっぱい見せてー」
約二百人を超えるファンの声援に星宙《ほしぞら》は何故か暗く下を向いている。
「……」
うるさい。
分かってる。
これは期待されてるって…だけど、もし今年も負けたら皆はもうわたしのステージを見てくれなくなる。
「はあ、まあ、やらないと」
ゆっくり深呼吸をして暗くくすんだ心を落ち着かせる。
「星は人を魅了する力がある。魅了して心奪われて笑顔が生まれる…わたしもその笑顔を作りましょう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「星が生み出す人々の笑顔。美しくて綺麗で自然と笑顔になる。わたしも星になりたい、星を感じたい」
黄色の星がドレスから生まれてキラキラと輝かせてステージに青色の夜空を飾り仕上げに黄色の星が流れる。
流れ星が人の願いも笑顔も叶えてくれる特別な魔法があるように、星宙《ほしぞら》も自分が星になったらきっと自分の笑顔も取り戻せるとほんの少しの期待と希望を抱き、今日もステージに立っている。
「はあっ」
ステージ中なのにいつもため息が出る。
わたしって、本当に、なにがしたいの?
お父さんとお母さんから見捨てられて人ぼっちで唯一わたしを愛してくれる弦《げん》君にはいつも冷たいことばっかりして、もう。
こんなんじゃ、絶対に大会であいつに勝てない。
あいつに勝てないわたしはいらない子。
もう、嫌!
「わたしの笑顔は取り戻せない、取り戻せるなんて夢の話。だから、そんなわたしと一緒に行きましょう。世界で一番安らぐ場所へ」
青色の夜空が最後の歌詞で真っ黒に染まり、黄色の星も失敗したクッキーみたいな黒焦げ状態で灰色に変わった。
これはもう「笑顔」とは無縁の絶望の景色。
見ていたファンも心配するように歌い終わった星宙《ほしぞら》をじっと見ていたら。
「はいはいー。みんな、今日も見に来てくれてありがとね。ほしちゃんはちょっと調子が悪いだけだからなにも気にしないで。次の大会も、ぜひ、見に来てね! よろしく!」
満面の笑みでステージに現れたのは弦《げん》。
彼は今日で五回目となるありえないことをした。
それは、ステージに立っていいのは歌姫だけ。
王子様はステージまで歌姫をエスコートするのが宿命であり仕事。
ただし、どんなことであっても、王子様は決してステージに立ってはいけない。
もし立った場合。
「はあっ、またあなたはわたしを裏切った。傷をつける」
天声《あまごえ》から一本の線を右足に刻まれて傷が増える。
要するに、掟を破ったと考えれば話が早い。
「ははっ、これはまた痛いね」
ちょっとだけ右足を両手で包むように優しく触れる弦《げん》の姿を何度も見ていた星宙《ほしぞら》は全く気にせず、力が抜けてしゃがみ込んだ。
「は、あっ、はああっ」
まただ。
またわたし、やってしまったんだ。
どんなにいい歌声でも、どんなに輝きを持っていても。
わたしはもう。
「ほう、これで終わりか? こんな物で我に勝とうなんて考えるのはやめた方がいいだろう」
一番聞きたくない声はゆっくりと観客席の奥から怪しく麗しく微笑みがらステージの前に現れたのは当然。
「そら、なんであなたがここにいるの? まさか、わざわざわたしのステージを見て怯えに来たの?」
力強く心の底から恨むように悔し涙を流しがらケンカを売る星宙《ほしぞら》。
よりにもよってこいつがわたしのステージを見に来たなんて、絶対嫌がらせだ。
失敗したわたしを嘲笑いに来て、降伏を認めさせるために来たんだ。
なんて性格が悪い人、なんて勝ち目をくれないの?
「もう、嫌」
既にこの時から敗者は決まっているのか?
決めたテーマを外し、全く違うステージを飾ったことは決して良いこととは言えない。
でも。
「よし、決めた。今年の大会では我と同じテーマにしてもらう」
「は?」
なにを言って。
「今年のテーマは『涙』にしよう。涙なら雨も星も共通するところはあるだろう。違うか?」
お決まりの怪しく麗しく微笑む空音《そらね》の姿が星宙《ほしぞら》にとってそれは眩い星のように輝いていて、自然と頷いた。
「分かった。あなたの言う通りする…その代わり、わたしはわたしで星を作る。それでいいなら付き合ってあげる」
まだまだライバルとして自分の星を譲る気はない星宙《ほしぞら》の太陽のような眩しい眼差しに空音《そらね》も同じように頷いて交渉成立したようだ。
さあ、これから一体どうなるのか?
翌日、空の館。
「はあー、今日も頑張ります!」
あくびをしながら背筋を伸ばしてやる気を出すそら。
今回のステージテーマは「失う」。
何故このテーマを選んだのか?
「そら様、そろそろお時間です。準備をお願いします」
「はい、分かりました」
ドレスは灰色のあえて黒の手前に選び、雨粒を透明なビーズを縫い付けて夏でありながらも長袖は譲れないようだ。
「さあ、ティアラを飾って準備完了」
「おっと、眼鏡を外さなくては」
そう言って、そっと丁寧に眼鏡外してくれた楽《がく》に、空音《そらね》は珍しく満面の笑みでおでこに口づけをした。
「ありがとう。そして、宿題を終わらせて偉いぞ」
「そら様…」
約束、覚えてくれていたんですね。
口づけされたおでこをそっと右手で撫でて心から喜んでちょっと可愛らしくニコニコと笑う楽《がく》。
「ご褒美、ありがとうございます」
そら様の愛、確かに受け取りましたよ。
ステージ前にこんなにイチャイチャする二人の元に。
「ここでそんなことしないでください。見ていられないじゃないですか?」
「そうですよ。ぼくだってまだ一度もしていないのに…むぅ~」
わざわざライバルのステージを見に来てくれたのは星宙《ほしぞら》と弦《げん》。
二人共、嫉妬心が強くて睨んだり拳を握りしめて今にも殴りかかりそうなくらいに怖い。
だが?
「はっ、なんだお前たち? もう我に負けることを悔しがっているのか?」
堂々と心に手を当てて怪しげに笑う空音《そらね》はもう自分が勝つことは分かっていると胸を張って星宙《ほしぞら》にそう問いかけると?
「ふん、まだ勝負はしていないじゃないですか? それに、今年は同じテーマでするんですから、今年こそはわたしが勝ちます! あなたこそ、わたしに負けても嫌な顔しないでくださいね?」
星宙《ほしぞら》はまだまだ自分に勝ち目はあると信じて左手で指差して本気の眼差しで堂々と勝つことを宣言した。
さて、今年は一体どうなるのか?
「空音《そらね》様、そろそろ行きましょう」
「ああっ、そうだった。じゃあ、我のステージを見て怯えるといいだろう」
そう言って、二人は扉の中に入り、生と死の間を通りすぎればそこはもうステージ。
「空音《そらね》様!」
「今日も待ってましたー」
「早く歌声聴かせて!」
毎回数え切れないほどの声援が空音《そらね》のやる気を虹のように高く高く燃え上がる。
「雨の中で失った私の大切な宝物。それはもう二度と元に戻らない。本当に世界は私を置いて行ってしまう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れることで曲がかかる。
「私はこの真っ白な石が大切な宝物だった。ただの石でも、私にとっては特別な物…それなのに、雨が降ったせいで、その石は消えた」
小雨から大雨に代わり、ステージには暗い雲が現れて空音《そらね》を濡らし…少しずつ雨が止んで七色の虹が筆となり、ステージに虹がかかる。
「そう、虹がかかればもうなにも気にしない。だって、この虹は私に新しい宝物をくれたから!」
虹は空音《そらね》の代表的な武器。
これは誰にも作れ出せない作品。
今日もまた、空音《そらね》の輝きはどんどん虹のように高くなる。
「すごい、すごいけど、絶対に負けたくない」
「我のステージは一番だ!」
ここからは羽の舞台を見てみよう。
「はぁ~、やっぱりあたしの翼は世界一! って、名前も翼だからなんかややこしくなるんだけど…まっ、羽の歌姫の中でもあたしはめっちゃ人気があるからお羽ちゃんには勝てる気しかない。あは、ごめんね。あたしが勝っても文句言わないでね」
勝つ気満々の翼《つばさ》は新人の羽音《はおん》に勝てることをまるで分かったように上から物を言っている。
それも海の前でただ一人。
「羽が美しいなら、翼は綺麗にする。それがあたしの生き方だから…絶対に負けないよー!」
「美しさ」と「綺麗」は一体どちらが勝つのだろうか?
次のお話では翼《つばさ》のステージをご覧ください。


