選ばれた歌姫

「おれたち王子様は天声《あまごえ》様から手紙が贈られることでその存在になります」
天声《あまごえ》が選ぶのは歌姫のはずなのに…何故かその事実を知ることがない。
多分、天声《あまごえ》には知られたくない事実がたくさん隠されているのだろう。
その事実を知ってしまったらきっと…。
「天声《あまごえ》様は本来なら歌姫だけを作り続けるお方ですが、その裏では同時に王子様を作ることもあります」
その言葉を聞いた音羽《おとは》は天声《あまごえ》の考えていることが分からなくなって頭を抱えてしまう。
「…そんな」
天声《あまごえ》ちゃんは
「歌姫を作る人」
って言っていたのに…まさか、嘘ついてたの?
音羽《おとは》は天声《あまごえ》に一番近い存在。
誰も天声《あまごえ》の姿を見たことがない。
唯一音羽《おとは》だけが話して触れてその姿を見ることができる。
だけど、そのことはまだ誰にも言っていない。
言っていいはずなのに?
「天声《あまごえ》様から選ばれたおれたち王子様には手紙と指輪が与えられます。と言っても、指輪は誰も見えませんが…この指輪は歌姫を守るためにつけています。そして、扉の中はあなたたち歌姫が見ることができないのは中には天使と悪魔がいます」
「えっ!?」
「は?」
「そう…」
衝撃すぎる言葉を聞いた三人。
音羽《おとは》は。
「そんなことってあるの…?」
はなは。
「ちっ、なんでそういうことが言えるんだよ?」
音陽《ねひ》は。
「あいつ以外に言われてしまうとはね」
それぞれ反応が骨がバキバキと折れるような痛みが込められた苦しいショック。
実際、王子様だけが扉の中を見て歩いている。
それが仕事でもあるから。
「あの扉の中は生と死の間を歩いていると考えた方が分かりやすいと思います。おれたち王子様は歌姫のあなたたちが無事にステージにたどり着くようにエスコートをさせてもらっています。それが仕事なので」
やりがいと生きることへの喜びか?
どちらも正気ではないはずなのに、律《りつ》は明るく爽やかな涼しい笑顔を見せられた三人はこう思った。
「この人は普通じゃない」
だが、これが王子様の仕事でもあるので普通なのかもしれない。
「歌姫のあなたたちを守れるおれたち王子様は本当に幸せ者なんですよ」
おれが王子様に選ばれたことは誇りを持ってこう言える。
「王子様になれて良かった」
衝撃すぎる事実を知ったが、音羽《おとは》は話題を変えようと右手に持っていた紙袋の中から約二十個くらいのカップケーキを取り出してテーブルに並べる。
「カップケーキは音陽《ねひ》が大好きでよく作るの。二人の口に合えばいいんだけど…」
ちょっと自信なさげに恐る恐るはなの両手にチョコのカップケーキを乗せたら
「おいしそう」
と、瞳をキラキラと輝かせながらパクッと一口食べた。
「んっ! これ、店に出せるレベルだ。おいしい」
想像以上にはなが喜んでくれたことが嬉しかった音羽《おとは》は
「まだまだあるから遠慮しないで食べてね」
と、はなの両手にまた一個また一個とどんどん積み重ねてしまう。
「お姉ちゃん、そんなに乗せたら食べづらいよ?」
音羽《おとは》の調子に乗った姿が嬉しかったのか?
音陽《ねひ》は妹として満面の笑みで微笑ましく止めることなく見守っている。
こんなに楽しそうなお姉ちゃん…久しぶりに見た。
「はな、あまり食べすぎると夕飯食べられなくなるぞ?」
音羽《おとは》さんが作るカップケーキ、こんなにおいしいんだ。
律《りつ》もパクッと一口食べて笑顔で頷いた。
「おいしいなー」
音羽《おとは》が作るお菓子は料理が上手い律《りつ》をも納得させるほどプロに近いのだろう。
「ふふっ、みんながわたしが作ったお菓子を食べてくれて…最高に嬉し…あれ?」
なにかを忘れている気がする。
「最高」
この言葉をよく言う人物がいること…そう、奏《かなで》の存在を忘れていた音羽《おとは》は苦笑いを浮かべて
「まあ、今はいっか」
と、今の楽しい時間を優先したのだった。
「ハックシュン! ん、風引いたかな?」


七月の上旬。
はながほとんど毎日ステージに立っている中、音羽《おとは》は一人次のステージテーマを探しに街に出かけている。
「うーん、なにがいいんだろう?」
街には色々ある。
ファッションやカフェにレストラン、雑貨。
アイディアは簡単に浮かぶはずが、色々とお店に入って物を見比べても中々アイディアが出てこない音羽《おとは》。
「んー、こういう時こそ誰かが一緒に考えてくれたらいいの」
「じゃあ、僕が君の力になってあげるよ」
半袖でありながらもパーカーつきを選び顔を隠すのは当然。
「奏《かなで》?」
そう、たまたま音羽《おとは》を見つけた? 奏《かなで》はよだれを垂らすほどに会えたことに喜びを感じているのは明らかに怪しすぎて他人の振りをしてもいいはずなのに。
「良かった。ちょうど人が欲しかったから、奏《かなで》が来てくれて嬉しい」
全く気にしない、いや、全然気づいていない音羽《おとは》は笑顔で奏《かなで》の左手をぎゅっと握ってそのまま歩いて近くのレストランに入り隣同士に座った。
「奏《かなで》、最近ごめんね」
「えっ? なにが?」
「奏《かなで》のこと忘れてた…将来一緒にいると約束したのに、最近はなちゃんと律《りつ》さんと一緒にいるのが楽しくて…ごめんなさい」
謝る音羽《おとは》の表情は本当に反省して暗く俯いているが、奏《かなで》は全然気にせずポンッと優しく頭を撫でた首を横に振った。
「ううん、親友と仲良くしていることはいいことだよ。それに、僕に謝らないでほしい。君が楽しそうにしている姿はめちゃくちゃ美しい」
うんうん。
音羽《おとは》ちゃんの笑顔はマジ可愛いから僕に謝る必要なんてない。
だって、将来僕たちは一緒にいると決めたから、それだけ覚えてくれる方がマジ嬉しい!
一人勝手に気分爆上がりの奏《かなで》は愛が詰まりすぎてまた頭を撫でて満面の笑みでこう言った。
「君が大大大好きだ」
一番簡単な告白。
一番遠い言葉。
歳の差があっても、お互いを好きで居られるならそれでいい。
だって、恋の形は人それぞれにあるのだから。
「あっ!」
そうだ、思いついた!
奏《かなで》の告白? のおかげでなにかを思いついた音羽《おとは》が両手を心に当てて天使のような美しい微笑みでこう言った。
「次は『出会い』にする!」
そうと決まったならまず行動!
ドレスは一体どんなものになるのだろか?
と、その前に。
「奏《かなで》、お腹空いたから食べてから館に行きたい」
音羽《おとは》のやる気に奏《かなで》は満面の笑みで頷きメニューをを開いた。
「うんうん。まずは食べてから行こうか」
「出会い」か。
それって…僕たちのことだよね!?
いやぁ~、どうしよう。
僕たちの「出会い」がドレスになるって想像したらよだれが止まらなくなりそう。
「ははっ」
一人勝手な妄想ばかりが膨らんでニヤけ顔が周りの視線を集めているが?
「わたし、これがいい」
音羽《おとは》は全くそれに気づかず、メニューの表紙を右手で指差して奏《かなで》はそれを見てまた笑顔で頷いた。
「ははっ、音羽《おとは》ちゃんは本当にパフェが好きなんだね」
季節限定の巨大パフェに瞳をキラキラと輝かせる音羽《おとは》の姿は誰が見ても愛おしく感じるのだった。


羽の館。
巨大パフェをさすがに大きすぎたのか、結局二人で食べきった後にこの館に入り、音羽《おとは》はクローゼットから真っ白なドレスを取り出して早速作り始める。
「えーと、全体にシャボン玉を刺繍で作って袖と裾に小さなリボンをつけよう」
今回のステージテーマは「出会い」ということで、音羽《おとは》はその形をシャボン玉で表現するようだ。
ドレスはちょっと薄めの水色にしよう。
今は夏だから半袖の方がちょっとは涼しいと思うから肩が見える大人っぽさを出したい。
「髪型は…奏《かなで》はなにがいいと思う?」
「えっ!?」
じーっと楽しそうに音羽《おとは》を見ていた奏《かなで》は突然の質問に動揺してできるだけ真剣に首を傾げた。
「ん〜」
音羽《おとは》ちゃんに…羽音《はおん》ちゃんに似合わない髪型なんてない。
なんでもいいって言ったら困らせてしまうからここは僕なりに王子様としていい意見を出さないと。
一つ結び、三つ編み、ツインテール、お団子。
髪型は色々とあり印象もイメージも大事になってくる。
確かに、奏《かなで》の思う通り、羽音《はおん》に似合わない髪型はない。
ないからこそ、悩んでしまう奏《かなで》の気持ちも分からなくもないだろう…と思ったら?
「三つ編みはどうかな?」
「えっ」
「シャボン玉みたいにお団子にするのも悪くないけど、三つ編みは幼くも大人っぽさが出てくるからそっちの方が僕は好き」
明るく素直な気持ちで笑う奏《かなで》の姿に、音羽《おとは》は少し照れたように頬を赤く染めてゆっくり頷いた。
「奏《かなで》がそう言うならそうする」
なんだか、奏《かなで》の一つ一つの言葉が告白みたいに聞こえて勝手に照れてしまう自分がちょっとおかしいかもしれないけど…でも、意見を出してくれたことは嬉しいから大事にしよう。
「ありがとう」
そう言いながら、仕上がったドレスはとても美しくなった。
「後は髪を後ろで三つ編みにしてティアラを飾って、よし、完成!」
気合を入れて思い切り両手を挙げて、奏《かなで》のエスコートで扉の中に入る。
「……」
この中は生と死の間って律《りつ》さんは言っていたけど、なにも音は聞こえない。
わたしたち歌姫は王子様に守られながらステージに立っているんだ。
この扉の中は天使と悪魔がいるのは間違いない。
それが見える王子様は無事に生きて歌姫をステージに導く存在。
「羽音《はおん》ちゃん、大丈夫。君ならどんなステージも輝きが止まらず全ての人を魅了することができる。自信を持って」
「うん、わたし、頑張るから。ちゃんと見ててね」
そう言って、そのままステージに立った羽音《はおん》は約三百人超えのファンの歓声が聞こえて気分も最高に上がる。
「ふふっ、みんな待ってくれてありがとう」
こんなにたくさんの人たちに応援されるなんて…なんだか、夢を見ている気分。
「羽音《はおん》ちゃーん!」
「羽音《はおん》の歌聴きたい」
「天使の羽ばたき見たい!」
ファンの歓声がどんなに嬉しいことか。
最初は誰も知らない歌姫がステージに立つことでその輝きが人を魅了し虜にする。
それを繰り返せば繰り返すほど人はその歌姫を応援し、その輝きを実際に見たくてチケットが完売するほど人気が高まる。
今の羽音《はおん》もその一人。
デビューから日が経つほど人気者となり、花音《はなね》の三番目に注目されている。
今回の「出会い」をテーマにしたステージは一体どうなるのか?
「出会いも別れも一瞬。だけど、出会うことでその一瞬が運命になる。さあ、わたしと二人で運命に導かれた世界で一緒に行きましょう」
合図と共にピンクの羽がドレスに触れたことで曲がかかる。
「わたしとあなたの出会いは運命に導かれた証。形が見えなくても、心で作ればそれだけでわたしたちは幸せだよ」
手の平からシャボン玉が生まれて一つから三つ五つと数が増えて宙に跳んで行く。
シャボン玉は透明だが、その中には羽音《はおん》と奏《かなで》が浮かんでまるで二人の運命的な人生が物語っているような幸せな光景。
「ほら、あそこを見て。わたしたちがこれから生きる運命が導いた幸せな世界。やっと、これで、二人きりになれたね」
宙に浮かんだシャボン玉は真っ白なステージにくっついて跳ねてステージ全体が水彩画のよう繊細で美しいシャボン玉が描かれた。
これは本当に歌声だけで作り上げられるとは思えないほどの「芸術」が完成してしまった。
完成したステージを見たファンだけじゃない、奏《かなで》…さらに当の羽音《はおん》も全くの想像以上のことが起きたことにしばらく無言でステージを見つめた後
「あっ、いけない」
と、綺麗にお辞儀をしてステージから降りた。
「えっ、わたし、なにをしたの?」
あのステージは本当にわたしが作ったの?
あんなに綺麗な物、初めて見た。
戸惑いや動揺…複雑な感情が泥みたいに描き混ざったような気持ち悪さが羽音《はおん》に襲いかかって倒れかけた時
「あなたのステージは殻を破りました」
と、見知らぬ少女が羽音《はおん》をそっと優しく包み込むように抱きしめた。
「大丈夫ですよ。むしろ、喜ぶべきです。あなたの殻はもう消えたのですから」
この少女の正体は一体?
それは次の話で分かる…。