選ばれた歌姫

私はずっと不思議だった。
お姉ちゃんは男なのに自分のことを「わたし」って言う。

わたしは嬉しい。
妹がわたしのことを「お姉ちゃん」って言ってくれる。


きっと私(わたし)たちは生まれた時から普通じゃない。
普通じゃないからこそ、君(あなた)が愛おしい。

ずっと一緒にいさせて。
ずっと離れないで。

私は君が笑ってくれるだけで幸せ。
わたしはあなたの笑顔を見るのが怖い。

でも、なんでもいいから壊さないで。


「お姉ちゃん」
「なに?」
「ふふっ、なんでもない!」

これは普通じゃない双子の絆と愛の物語。


小学校の頃。
入学式に体育祭に音楽会に修学旅行に卒業式。
一から六まで繰り返されてきた懐かしい思い出を感じる楽しい日々。
双子の兄妹はその全てを一緒に過ごした。
一年から六年までずっと同じクラスで席が前と後ろの仲良しの二人。
ただの偶然か、面倒だったのか?
「やったー! またお姉ちゃんと同じクラスだね!」
新学期に入る度に妹は兄と一緒であることに心から両手を大きく肩が痛くなるのを気にせず上げる妹。
「ふふ、今年もよろしくね」
毎日トイレ以外は一緒にいるのにまるで親友のように絆を深める兄妹。
兄と妹。
どこにでもいる普通の関係なのに、どこか違う不思議な立場。
甘える妹に叶えられることはなんでも聞き入れる優しい兄。
心瀬《こころせ》家に生まれた双子。
兄の音羽《おとは》と妹の音陽《ねひ》。
真っ白な髪に音羽《おとは》は薄紫色、音陽《ねひ》は黄色の瞳を持つ。
髪の色が同じだから瞳の色で区別ができるからちょうどいいと両親は少し適当に諦めていた。
この時の音羽《おとは》の髪型は音陽《ねひ》と同じで背中まで長い一瞬見たら普通の女の子と間違えるほどに可愛く仕上がっていた。
その理由は音羽《おとは》が自分で伸ばしたいと両親にお願いして前髪以外を切るのをやめたから。
「わたし、音陽《ねひ》みたいに可愛い人になりたい」
きっかけとなったのは五年の頃にクラスで劇をした時、お姫様役だった音陽《ねひ》が当日熱で倒れてしまって、代わりに選ばれたのが音羽《おとは》だった。
毎日学校以外は部屋で二人でお互いの役をアドバイスや注意しながら練習していたことで、劇は学年一位になるほど好評で数え切れないほどの拍手を送られたその時の音羽《おとは》はこう思った。
「わたしがこんなに人に認められるほど可愛いなんて知らなかった」
それから音羽《おとは》は誰にも見られないようにこっそり音陽《ねひ》が着ているスカートやワンピースを着て可愛い自分が映る鏡を見る時間が好きだった。
でも、音陽《ねひ》に見られたことで全てを失った気がした。
『あっ…これは違うの。ほら、この前の劇でわたしが音陽《ねひ》の代わりに舞台に立ったでしょ? それで、他の服はどうかなって思ったんだけど…ごめんなさい』
全部音陽《ねひ》が大切に着ていたのに、わたしのせいで全部汚した。
本当にわたしは最低だ。
そうだよね。
わたしは男、音陽《ねひ》と同じにはなれない。
生まれ持ったものは変えることも戻すことも簡単ではない。
大切な妹を汚したことで兄は目を閉じて殴られることを覚悟していたら。
『わあ~! すごい、すごいよ!』
なぜか嬉しそうに陽だまりの中で暖かくて可愛くて全てが許されたような幸せな笑顔を魅せられた兄はこう感じた。
「わたしもあなたと同じになっていいんだ!」
まさか褒められてしまうとは思っていなかった音羽《おとは》はこの瞬間から音陽《ねひ》と同じく学校でもスカートやワンピースを着るようになり、クラスのみんなにも褒められることになった。
「やっぱ、音羽《おとは》は可愛い方が似合ってるな」
「うんうん。双子だからじゃない、音羽《おとは》ちゃんだから可愛い服が似合うんだよ」
「お前たちは可愛いのが似合ってる」
最後の年である六年生を卒業した。


中学生になった音羽《おとは》と音陽《ねひ》だが。
「お前、兄になにをした? 私の許可なく勝手に触れるなと何度言えば分かる?」
中央区から北区に引っ越し、同級生とは一人も同じにならずに別の学校に通っている双子。
けれど。
「音陽《ねひ》、おれは大丈夫だよ。ちょっと肩に触れられただけで、傷はついてないから安心して」
「安心なんてできない。兄が良くても私は嫌だ。知ってるでしょ? 私が心配性だって」