夏休みに入る前までの2週間は『新聞部の記事を破ったのは神谷』という偽の事実が田沼によって広まってしまい教室に入る度にクラスメイトからの目線が突き刺さった。
よりによってクラスの人気者である慧護の記事を破ってしまったからだろう。
慧護が僕をそばに置くと言ったのは本当でクラスメイトに聞こえるように「今日からお前はパシリな」と目の前で宣言される。
「え」
「記事破ったから拒否権ないだろ?」
「あ……はい」
といっても実際にパンを買いに行かされる、というわけではなく。
僕が1人で教室に入らないように校門前で待ってくれて、一緒に入る。
トイレに行く時も一緒。
昼食時も2人で食べるようになった。
勿論慧護は人気者なので「ミヤマ〜そんな奴(僕)放っておいて俺らと購買行こうぜ〜」と誘われていたけれど。
「いや、俺パシリ(僕)といるわ〜」
そう断っていた。
僕がクラスメイトに変に声かけられないように常に隣にいてくれるようになったのは、僕にとってもありがたかった。
彼は陽キャだけど、話のわかる人だから。
でも、友人の誘いを断っている場面に遭遇すると申し訳ないな……と思い「行ってきたら?」と声をかけた。
「え? 行かない」
「なんで?」
「アイツらとは友達だけど、縁とはまだだから」
「……」
「縁と仲良くなりたい」
この前言われたことを再び言われてしまう。茶化すこともなく真面目な顔で見つめられると、僕の胸はどうしようもなく騒ついてしまう。
多分、嬉しいのだと思う。
慧護に求められて。
でも僕は、つまらない人間のはずだから。……仲良くなるにつれて、幻滅されないだろうか。そんな心配も抱きながら。
「縁、今日撮った写真見せて」
「……どうぞ」
カメラを差し出せば慧護は覗き込む。じぃっと食い入るように見つめてから僕を見て「すげえ、綺麗。感動する」と笑う。
その笑顔。太陽みたいで眩しい。地面から出てきた土竜のように手で視界を遮りたくなる。
僕の撮った写真を誰かに見せるなんてこともなかったから。実は心の奥底に眠っている『見てほしい』という承認欲求が敬語によって解消され、僕自身もこの数日はとても満足していた。
しかし僕たちが写真を見て夢中に話していくと「犯人に優しくする必要ないって〜」と田沼が介入する。
楽しかった気持ちは一気に萎み、カメラを仕舞って田沼が通り過ぎるのを待つ。
「いつになったらみんな飽きてくれるかな……」
「人の噂も75日って言うじゃん? 二学期になる頃には忘れてるよ。だから一学期終わるまでは……一緒にいてくれない?」
そして夏休み。
待ちに待っては……いない。とうとう来てしまった肝試し。
学校が主催しているので当然教師もいる。お化け屋敷とは違うので誰かがお化け役、というわけではなく本当にただ夜の真っ暗な学校を一周するだけだ。
慧護の頼みとはいえ、土壇場で行かないという選択もあったのに。グラウンドに照明だけ付いている夜の学校に向かってしまったのは。
約束通りに僕を守ってくれた慧護を裏切る勇気がなかったから。
すでに生徒たちは集まっている。見渡せば、やはり大人しい生徒たちは少なく、いつも賑わっている陽キャグループが多い。
ため息をついて、生徒たちの群れから少し離れたところで待機して。何もすることがなく首にかけたカメラを手で触っていれば、後からやって来た田沼が顔を顰める。
「は? お前なんでいるの。お前みたいな陰キャがくるところじゃねぇんだけど」
「……慧護く……神山くんに、頼まれて」
「はぁ?」
「肝試しの様子を、撮ってほしいみたいで。今度は、肝試しを記事にしたいみたい」
「ふーん? ミヤマも、こんなやつのことなんか相手にしなきゃいいのに」
それは僕がいつも思っていることだよ。
『シンプルに、俺は縁と仲良くなりたいんだよね』
慧護の言葉を思い出し、胸が少し熱くなる。
(きっとみんなに言って、虜にしてるんだろうな)
僕と仲良くなったところで、僕自身がつまらないと気づくはずだ。そしたら、きっと離れていっていつも通りの日常になるだろう。
だからもう少しの辛抱。
そう思っているはずなのに、終わりが来ることを想定して熱くなった胸は冷えていく。
(慧護くんはまだ来ないのかな)
田沼みたいに僕を疎ましく思う生徒も多いから早めに合流したいのだけれど。
1人は何かあった時に誰も気づけないから駄目。
大勢いても誰か取り残されても気付けないから駄目。
教師から初めに説明を受けてグループを作っていく。基本3〜5人が多い。
田沼たちが早速3人グループになって1番手を名乗り出る。教師は雰囲気が出る手持ち提灯を彼らに渡して送っていった。
次々とグループが決まり提灯を貰いにいく生徒たちの中、ポツンと残る僕。1人になってしまった時教師に声をかけられる。
「神谷、どこかのグループに入れてもらったらどうだ?」
教師の言葉に首を振り「神山くんを待っています」と伝える。
「神山か。そういえば1番楽しみにしていたのにまだ来ていないようだな」
話の流れで僕と慧護は同じグループになり教師に「2人揃ったら提灯貰いに来なさい」と言われた。
夜の真っ暗な学校。
1枚パシャリと撮ってみる。
何の気なしに確認してみれば。
「……え?」
校舎の壁は赤黒い血みどろになっていた。慌てて肉眼で校舎を見るも、いつもと変わらない校舎があるだけだった。
(写真が偽りなのか、肉眼が偽りなのか……)
今からこの中に入らなければならないと思うと、足が竦み上がってしまった。
よりによってクラスの人気者である慧護の記事を破ってしまったからだろう。
慧護が僕をそばに置くと言ったのは本当でクラスメイトに聞こえるように「今日からお前はパシリな」と目の前で宣言される。
「え」
「記事破ったから拒否権ないだろ?」
「あ……はい」
といっても実際にパンを買いに行かされる、というわけではなく。
僕が1人で教室に入らないように校門前で待ってくれて、一緒に入る。
トイレに行く時も一緒。
昼食時も2人で食べるようになった。
勿論慧護は人気者なので「ミヤマ〜そんな奴(僕)放っておいて俺らと購買行こうぜ〜」と誘われていたけれど。
「いや、俺パシリ(僕)といるわ〜」
そう断っていた。
僕がクラスメイトに変に声かけられないように常に隣にいてくれるようになったのは、僕にとってもありがたかった。
彼は陽キャだけど、話のわかる人だから。
でも、友人の誘いを断っている場面に遭遇すると申し訳ないな……と思い「行ってきたら?」と声をかけた。
「え? 行かない」
「なんで?」
「アイツらとは友達だけど、縁とはまだだから」
「……」
「縁と仲良くなりたい」
この前言われたことを再び言われてしまう。茶化すこともなく真面目な顔で見つめられると、僕の胸はどうしようもなく騒ついてしまう。
多分、嬉しいのだと思う。
慧護に求められて。
でも僕は、つまらない人間のはずだから。……仲良くなるにつれて、幻滅されないだろうか。そんな心配も抱きながら。
「縁、今日撮った写真見せて」
「……どうぞ」
カメラを差し出せば慧護は覗き込む。じぃっと食い入るように見つめてから僕を見て「すげえ、綺麗。感動する」と笑う。
その笑顔。太陽みたいで眩しい。地面から出てきた土竜のように手で視界を遮りたくなる。
僕の撮った写真を誰かに見せるなんてこともなかったから。実は心の奥底に眠っている『見てほしい』という承認欲求が敬語によって解消され、僕自身もこの数日はとても満足していた。
しかし僕たちが写真を見て夢中に話していくと「犯人に優しくする必要ないって〜」と田沼が介入する。
楽しかった気持ちは一気に萎み、カメラを仕舞って田沼が通り過ぎるのを待つ。
「いつになったらみんな飽きてくれるかな……」
「人の噂も75日って言うじゃん? 二学期になる頃には忘れてるよ。だから一学期終わるまでは……一緒にいてくれない?」
そして夏休み。
待ちに待っては……いない。とうとう来てしまった肝試し。
学校が主催しているので当然教師もいる。お化け屋敷とは違うので誰かがお化け役、というわけではなく本当にただ夜の真っ暗な学校を一周するだけだ。
慧護の頼みとはいえ、土壇場で行かないという選択もあったのに。グラウンドに照明だけ付いている夜の学校に向かってしまったのは。
約束通りに僕を守ってくれた慧護を裏切る勇気がなかったから。
すでに生徒たちは集まっている。見渡せば、やはり大人しい生徒たちは少なく、いつも賑わっている陽キャグループが多い。
ため息をついて、生徒たちの群れから少し離れたところで待機して。何もすることがなく首にかけたカメラを手で触っていれば、後からやって来た田沼が顔を顰める。
「は? お前なんでいるの。お前みたいな陰キャがくるところじゃねぇんだけど」
「……慧護く……神山くんに、頼まれて」
「はぁ?」
「肝試しの様子を、撮ってほしいみたいで。今度は、肝試しを記事にしたいみたい」
「ふーん? ミヤマも、こんなやつのことなんか相手にしなきゃいいのに」
それは僕がいつも思っていることだよ。
『シンプルに、俺は縁と仲良くなりたいんだよね』
慧護の言葉を思い出し、胸が少し熱くなる。
(きっとみんなに言って、虜にしてるんだろうな)
僕と仲良くなったところで、僕自身がつまらないと気づくはずだ。そしたら、きっと離れていっていつも通りの日常になるだろう。
だからもう少しの辛抱。
そう思っているはずなのに、終わりが来ることを想定して熱くなった胸は冷えていく。
(慧護くんはまだ来ないのかな)
田沼みたいに僕を疎ましく思う生徒も多いから早めに合流したいのだけれど。
1人は何かあった時に誰も気づけないから駄目。
大勢いても誰か取り残されても気付けないから駄目。
教師から初めに説明を受けてグループを作っていく。基本3〜5人が多い。
田沼たちが早速3人グループになって1番手を名乗り出る。教師は雰囲気が出る手持ち提灯を彼らに渡して送っていった。
次々とグループが決まり提灯を貰いにいく生徒たちの中、ポツンと残る僕。1人になってしまった時教師に声をかけられる。
「神谷、どこかのグループに入れてもらったらどうだ?」
教師の言葉に首を振り「神山くんを待っています」と伝える。
「神山か。そういえば1番楽しみにしていたのにまだ来ていないようだな」
話の流れで僕と慧護は同じグループになり教師に「2人揃ったら提灯貰いに来なさい」と言われた。
夜の真っ暗な学校。
1枚パシャリと撮ってみる。
何の気なしに確認してみれば。
「……え?」
校舎の壁は赤黒い血みどろになっていた。慌てて肉眼で校舎を見るも、いつもと変わらない校舎があるだけだった。
(写真が偽りなのか、肉眼が偽りなのか……)
今からこの中に入らなければならないと思うと、足が竦み上がってしまった。
