唇を押し当ててから、数秒後。電車が来る合図のベルが鳴ってそっと離れる。
ぽかんとこちらを見上げている縁に「そういうことだから」と伝える。
「地元に戻るまでは今まで通りでいてやる。でも次に会う時は俺らもう無関係だから」
縁の荷物を持ち、未だにぼんやりしている縁の腕を肩に回して立ち上がらせる。
乗客は俺たちしかいない。
車内に入り込み縁をもう一度座らせる。呆然とこちらをただ見つめている縁の視線に応える勇気は出ず逸らし続けながら隣に座り、景色を眺めることに徹した。
*
電車を乗り継ぎ、後は地元に辿り着くだけ。行きとは違い帰りは一切会話は無く重い空気が漂った。
(足を怪我していなければ、縁は一目散に俺から逃げていただろうな)
友人だと思っていた人にそういう目で見られて、キスされたなんて。とんだ裏切り行為だろう。
俺はどこまでも狡い奴で、足を怪我して動けない縁にキスをした。逃げられないことをわかっていたから。
それでも縁は最後まで俺についてきてくれた。1人で行動するのは厳しいと判断したからだろうけど。
地元が近づくにつれてまた乗客は少なくなっていく。
山へ近づき暗闇が増えていくのを車窓から眺めている間、右肩が重くなる。
見ると、縁が寝落ちして俺の右肩に頭を置いて眠っていた。
(警戒心のない奴……)
許可もなくキスした奴が隣にいるんだぞ。どうして俺の肩で眠っていられる?
「……そんなに隙だらけだったらまたキスされるぞ」
耳元でそっと囁いても起きる気配はない。ぽてっとした唇に吸い寄せられ顔を近づけ……最後の良心が勝ち顔を離す。
「……何してんだ、俺は」
大切にしたいから、離れたかった。
でも離れようとしたら傷つけてしまう。
どうしたらいいのか、なんて。
もう俺もわからない。
(ごめん。今だけ……)
眠っているのをいいことに、座席に投げ出されている手にそっと手を重ねる。
*
地元の駅に辿り着きまた背負おうとすれば「もう歩けるよ」と断られる。でも触れ合えるのは今日で最後だろうから、強引に縁を背負った。
「……あの。色々言いたいことあるんだけど。……今日は本当に、ありがとう」
1日の出来事を何度も感謝されてしまう。
「大したことないから」とだけ伝え、縁を家まで送っていく。
玄関の前で下ろし、もう一度お礼を言おうとする縁に「もういいから」とだけ伝え歩き出すも……「痛ッ」と声が聞こえ振り返ると蹲っている縁。
(さっき歩けるって言ってたじゃん!)
鵜呑みにしてたら縁に足の痛みを我慢させたことになる。背負ってよかった……と思いながら「大丈夫か?」と駆け寄り屈み込むと……縁の両腕が首に回り、そして唇を押し当てられた。
数秒後に、そっと離れる。
間近で見る縁の微笑み。
「……これで僕も、悪い子だね」
「……は?」
「僕を今まで騙して孤立させて、そばに居させたことを慧護くんは後ろめたいと思っているのかもしれないけど……僕は本当に、そういうのはどうでもよくて。正直に全部話しちゃうから、不思議な子だなって思ったよ」
「悪い子……っていうのは?」
「僕……今はもう、全然足は痛くないよ」
「え?」
「慧護くん……。慧護くんも、案外騙されてるかもよ。僕のことを本当に大切にしてくれてるって伝わっちゃった。僕の大根演技に慌てて駆け寄って、キスされちゃうんだから」
「……」
「騙された気分はどう?」
俺の首に縁の腕は回されたまま。離れることは出来ない。
あれ。縁から離れようとしていたけれど。もしかして俺は、縁に捕まっている?
縁をもう一度見つめる。じ、と縁もこちらを見つめているけれど……なんか、目の温度が違うようだった。多分俺も違う。それにお互い気付いて、吸い寄せられるようにキスをする。
「……悪くはない、かな」
「だよね。僕もそうだよ。キスされたのは想定外だったけど……離れられるよりは全然マシで……慧護くんが望んでくれるのだったら、僕はその先も──」
「ま、待て。確かに俺は恋愛として縁が好きだ。でも……その、大人がすることはまだ早い、かな……? 実際俺たち未成年だし」
「慧護くん、案外純情なんだね……」
縁を汚したくないというのは俺の勝手なエゴでしか無くて。縁もそれなりの興味や性欲はあるということだ。
友情の時だけでは知らない縁がいた。
純粋で可愛らしい縁は、案外強かだった。
また俺は、惹かれていく。
「よかった、嫌いじゃなかったんだ。……ねえ、これからも僕の隣にいてくれるよね。僕を守ってくれるよね?」
縋りついて来る縁に「当たり前だ」と苦笑し、少し不安げな頭を撫でる。
「縁がこれからも伸び伸びと写真を撮ることが出来るようにするよ」
だから、俺のそばにいて。
縁。人との繋がりを大切にする人。
2匹と1人が隠れて見ていたのか、どこかでチリンチリンと、鈴の鳴る音が聞こえた。
ぽかんとこちらを見上げている縁に「そういうことだから」と伝える。
「地元に戻るまでは今まで通りでいてやる。でも次に会う時は俺らもう無関係だから」
縁の荷物を持ち、未だにぼんやりしている縁の腕を肩に回して立ち上がらせる。
乗客は俺たちしかいない。
車内に入り込み縁をもう一度座らせる。呆然とこちらをただ見つめている縁の視線に応える勇気は出ず逸らし続けながら隣に座り、景色を眺めることに徹した。
*
電車を乗り継ぎ、後は地元に辿り着くだけ。行きとは違い帰りは一切会話は無く重い空気が漂った。
(足を怪我していなければ、縁は一目散に俺から逃げていただろうな)
友人だと思っていた人にそういう目で見られて、キスされたなんて。とんだ裏切り行為だろう。
俺はどこまでも狡い奴で、足を怪我して動けない縁にキスをした。逃げられないことをわかっていたから。
それでも縁は最後まで俺についてきてくれた。1人で行動するのは厳しいと判断したからだろうけど。
地元が近づくにつれてまた乗客は少なくなっていく。
山へ近づき暗闇が増えていくのを車窓から眺めている間、右肩が重くなる。
見ると、縁が寝落ちして俺の右肩に頭を置いて眠っていた。
(警戒心のない奴……)
許可もなくキスした奴が隣にいるんだぞ。どうして俺の肩で眠っていられる?
「……そんなに隙だらけだったらまたキスされるぞ」
耳元でそっと囁いても起きる気配はない。ぽてっとした唇に吸い寄せられ顔を近づけ……最後の良心が勝ち顔を離す。
「……何してんだ、俺は」
大切にしたいから、離れたかった。
でも離れようとしたら傷つけてしまう。
どうしたらいいのか、なんて。
もう俺もわからない。
(ごめん。今だけ……)
眠っているのをいいことに、座席に投げ出されている手にそっと手を重ねる。
*
地元の駅に辿り着きまた背負おうとすれば「もう歩けるよ」と断られる。でも触れ合えるのは今日で最後だろうから、強引に縁を背負った。
「……あの。色々言いたいことあるんだけど。……今日は本当に、ありがとう」
1日の出来事を何度も感謝されてしまう。
「大したことないから」とだけ伝え、縁を家まで送っていく。
玄関の前で下ろし、もう一度お礼を言おうとする縁に「もういいから」とだけ伝え歩き出すも……「痛ッ」と声が聞こえ振り返ると蹲っている縁。
(さっき歩けるって言ってたじゃん!)
鵜呑みにしてたら縁に足の痛みを我慢させたことになる。背負ってよかった……と思いながら「大丈夫か?」と駆け寄り屈み込むと……縁の両腕が首に回り、そして唇を押し当てられた。
数秒後に、そっと離れる。
間近で見る縁の微笑み。
「……これで僕も、悪い子だね」
「……は?」
「僕を今まで騙して孤立させて、そばに居させたことを慧護くんは後ろめたいと思っているのかもしれないけど……僕は本当に、そういうのはどうでもよくて。正直に全部話しちゃうから、不思議な子だなって思ったよ」
「悪い子……っていうのは?」
「僕……今はもう、全然足は痛くないよ」
「え?」
「慧護くん……。慧護くんも、案外騙されてるかもよ。僕のことを本当に大切にしてくれてるって伝わっちゃった。僕の大根演技に慌てて駆け寄って、キスされちゃうんだから」
「……」
「騙された気分はどう?」
俺の首に縁の腕は回されたまま。離れることは出来ない。
あれ。縁から離れようとしていたけれど。もしかして俺は、縁に捕まっている?
縁をもう一度見つめる。じ、と縁もこちらを見つめているけれど……なんか、目の温度が違うようだった。多分俺も違う。それにお互い気付いて、吸い寄せられるようにキスをする。
「……悪くはない、かな」
「だよね。僕もそうだよ。キスされたのは想定外だったけど……離れられるよりは全然マシで……慧護くんが望んでくれるのだったら、僕はその先も──」
「ま、待て。確かに俺は恋愛として縁が好きだ。でも……その、大人がすることはまだ早い、かな……? 実際俺たち未成年だし」
「慧護くん、案外純情なんだね……」
縁を汚したくないというのは俺の勝手なエゴでしか無くて。縁もそれなりの興味や性欲はあるということだ。
友情の時だけでは知らない縁がいた。
純粋で可愛らしい縁は、案外強かだった。
また俺は、惹かれていく。
「よかった、嫌いじゃなかったんだ。……ねえ、これからも僕の隣にいてくれるよね。僕を守ってくれるよね?」
縋りついて来る縁に「当たり前だ」と苦笑し、少し不安げな頭を撫でる。
「縁がこれからも伸び伸びと写真を撮ることが出来るようにするよ」
だから、俺のそばにいて。
縁。人との繋がりを大切にする人。
2匹と1人が隠れて見ていたのか、どこかでチリンチリンと、鈴の鳴る音が聞こえた。
