スクープ!《学校に棲みつく動物2匹と、姿を消した生徒の行方》

 駅に向かう前に一度売店に寄り保冷剤とタオルを購入する。売店のおばちゃんが背負っている縁が捻挫しているのを見て善意で氷水の入ったビニール袋もくれた。
 
 縁をホームのベンチに座らせ履いていたシューズをそっと脱がせる。足に痛みが出ないように。
 足首をタオルで巻いて氷水を当てていく。

 大きく腫れている様子は今のところないが、大事になってはいけない。

「……」
「あとは……僕が自分でやる……よ」
「ん? あ、ああ……」

 ベンチに座っている縁の前で屈んで、応急手当てをしている俺自身に気づく。縁の伸ばした手が俺の指に触れ、わかりやすくパッと氷水から手を離してしまった。……また、勘違いさせてしまう。

 電車が来るまであと15分もある。

 ベンチで隣同士座るには俺たちの仲は随分ぎこちなくなってしまった。午前中は隣同士座って、一緒にカメラを覗き込んでいたのに。

 自覚してしまった。
 友情とは別の感情。

 大切にしたいはずなのに、どう接すればいいのか分からず距離を置いてしまう。

 縁が戸惑うのも無理もない。

 結局ベンチには座らず、少し離れた先で立って電車を待つ。

「……」
「……」
「あの。今日は……本当にありがとう。電車とか、乗り換えとか全部調べてくれて。僕だけだったら迷子になってたと思うから……」

 背中に声をかけられる。
 縁が、頑張って声をかけてくれている。話しかけるの苦手なはずなのに。

 一学期は兎に角縁に俺のことを興味持って欲しくてアピールしていたけれど。こんな真逆になる日が来るとは思わなかった。

 縁の方を見ることが出来ない俺は、背を向けたまま言葉を返す。

「大袈裟だな。今の時代スマホで何でも調べられるのに」
「でも……行動出来たかどうかは別だよ。慧護くんが『行こうぜ』って言ってくれなかったら……僕は尻込みしていたと思う……」
「縁は1人でも行動してたはずだよ。鈴鳴のために」

 口にして、気づく。
 俺たちが急接近したのは怪異現象に遭ったからだ。それがなければ俺たちは仲良くはならなかった。

 俺たちを繋いでいるのは、鈴鳴。

 その事実に俺はどうしようもない嫉妬心を抱いているのか。

 幼稚で、笑える。

「1人じゃ、僕は何も出来ないよ」
「……縁だって17歳だろ? 1人で何でも出来るさ」
「出来ないよ! だって……慧護くんは絶対に味方でいてくれる、僕を絶対守ってくれる人だよ……僕が安心して行動出来るのは、慧護くんがそばにいるからだよ」

 縁の中で。
 俺は姑息な奴ではなく、守ってくれる存在なのか。

「覚えてる……? 濡れ衣着せられてクラスから孤立した時も僕がいじめのターゲットにされないように隣にいてくれたこと」
「だからそれは、わざと俺が孤立させたんだって」
「怪異現象にパニックになって過呼吸起こした時も、背中を摩って落ち着かせてくれた」
「誰だって同じことするよ」
「図書室から怪異を出し抜く時も……僕の手を握って、引っ張ってくれた。……階段で転んで『もう駄目』って思った時も……動物たちの憑依の力を借りて、威嚇して助けてくれた」

 覚えている。
 縁が食べられるのは違う、と思ったから。食べるなら俺にしろ、という意味も込めて覆い被さって縁には手出しさせないようにした。

 その時のことを、覚えていてくれているの。

 でも俺は、距離を取らせるために冷たい言葉を言ってしまう。
 
「……足手纏いになりそうだったから」
「……」

 縁はもう何も言わなくなった。

 嫌なことを言う俺に呆れただろうか。

「……本当に、僕のこと嫌いなの……?」

 泣きそうな声だった。
 胸がグシャッと押し潰され、冷たい態度をとってしまったことを一気に後悔する。

 そうじゃない。そうじゃないんだ。
 でも俺と縁じゃ、黒と白のように対照的で不釣り合いなんだよ。

 綺麗な縁を、濁したくないんだよ。

「手を握って『行こう』と微笑んでくれた時、本当は僕を置いていきたかったの……?」
「……」
「異空間の中で1人で行動して気付いたよ……廊下を歩いている時、沢山の食われた体の一部が転がっていたこと……慧護くんは、怖がりな僕に気付かせないように、ずっと廊下で話しかけてくれていたんだって」
「……」
「守ってくれたんだって思ってた。でも本当は鬱陶しかった……? 僕なんかいなきゃよかった……? はは、もう人間不信になりそうだよ……慧護くんと仲良くならなきゃよかった……」

 ぐすっ、ぐすっ、と鼻を啜る音。
 縁が泣いているのに、俺は振り向けない。
 俺が泣かせた。縁を泣かせた。

(あーあ。悪い子だ。鈴鳴にあの時食われていればよかったのかな)

 ……ここまで傷つけてしまったのなら。
 徹底的に裏切るしかない。

 深呼吸して、腹を決めて、泣いている縁に近づく。

「縁。俺は縁と仲良くなりたいと思っていた。それは今も本当で、もっと親密になりたいとさえ思っているんだ」
「……じゃあ、どうして僕を否定するの……?」
「……縁の仲良くなりたいという気持ちと、俺の仲良くなりたいという気持ちに誤差が出たからだ」

 泣き腫らした目で俺を見上げる縁。きらきらと光って、やはり綺麗で、その度に俺の中にある腹黒いものが醜い感情だと知る。

「教えてあげようか、縁。俺が、縁をどんな目で見ているかを」
「……え?」
「こういうことだよ」

 縁の顎を掴んで。顔を近づけて。

 半開きの唇に、俺の唇を押し当てた。

 電車が来る合図のベルが遠くで聞こえる。