スクープ!《学校に棲みつく動物2匹と、姿を消した生徒の行方》

 遺族の人に、僕たちが目にしたものを全て伝えた。校舎に入ってからのものは怪異現象だったから、どこまで伝わったのかはわからない。

 鈴鳴の両親、そして今はもう大人になった妹は一言も口を挟まず最後まで話を聞いてくれた。

 鈴鳴は当時不良グループにいじめられていたこと。
 家族には心配かけるから悩みを伝えられなかったこと。
 学校に棲みついていた狐と狸が唯一の友人だったこと。

 動物2匹を殺されて復讐しようとしたが返り討ちに遭い屋上から突き落とされたこと。

 死んでからも恨みが肥大して怪異として目覚め、夜の学校に忍び込む生徒たちを食べていたこと。

 今年は僕たちが狙われていたこと。

「……怪異が消滅したあと、残ったものです」

 机の上に手のひらサイズの鈴を乗せる。
 何故鈴だったのか。鈴鳴という苗字からだろうか。

「当時、『一緒に暮らしたい2匹がいる』と兄が言っていました。そのあと行方不明になったからてっきり犬や猫かと思っていたのだけれど……兄が家族にしたかったのは狐と狸だったのかもしれませんね……」

 妹が鈴を見て呟く。

「きっと、首輪にしたかったんだと思います。……まさか、その2匹も殺されてしまうなんて……その不良たちは、もう行方は永遠にわからないんですよね?」
「怪異になった鈴鳴くんが食べてしまったので、この世にはもういないと……」
「……そう。それで、よかったのかもしれないわね。その不良たちが今ものうのうと生きてると知ったら、わたしたちが復讐していたと思うから」

 妹の言葉に、僕たちは何も言い返せない。僕らは巻き込まれただけ。しかし遺族は、ずっと帰りを待っていた。待っていた人が実はいじめられていて殺されてしまったなんて知ったら。……僕だって相手を見つけ出して制裁したいと思うだろう。

 だから、鈴鳴は正しい行いをした。僕はそう判断する。家族は間違った方向に向かわなかったから。

「今日は遠い場所からわざわざありがとう。遺品だけでなく、詳細も伝えてくれて」
「……嘘みたいな話でしたけど、信じてもらえますか」

 母親は目をぱちぱちさせ、僕たちに微笑む。

「だって()()()伝えに来てくれなじゃない」

 その言葉に2人首を傾げてしまえば父親に「そのカメラ借りてもいいかい?」と聞かれ。僕たちの姿を撮ってもらい写真を見る。

「……こ、これ」

 慧護の頭上と腰には狐の耳と尻尾。
 僕の頭上と腰には狸の耳と尻尾が生えていた。

「俺たち……また狐たちに憑依されてるってこと⁉︎」
「……僕たちにそんな感覚はないけど……信じてもらえたなら……何よりです」

 異空間の中で憑依されていた時のように神秘的な力が込められてはいないけれど。僕たちの体を使って2匹が遺族を安心させるために憑依していたなら。僕は体を差し出そうと思う。

 怪異現象など到底理解できるものではない。でも、こうして僕たちが変な形となって現れていることが事実となっている。

「今日はどうもありがとう。わざわざ会いに来てくれるなんて思わなかった。時代が合っていたらあの子も2人とお友達に……いいえ、なんでもないわ」

 母親に深く頭を下げられる。

 玄関まで見送られ、しばらく歩いていれば夕暮れの海。

「……縁は、繋がりを大事にするんだね」
「そうかな」
「うん。鈴鳴だけじゃなくて……遺族たちのことも考えてたから」
「電車とか調べてくれたのは慧護くんだったよ」
「俺はそれくらいだよ」

 よくわからずに慧護を見れば、彼はぼんやりと海を見つめている。

「悪い子だーれだ」
「え?」
「怪異の呻き声。俺や田沼、他の生徒にはそう聞こえた。でも縁には聞こえなかった。本当に、縁は巻き込まれただけ。……俺も悪いことしたから、話す声が聞こえた」

 慧護が、悪いことをした?
 よくわからずに続きを促す。

「その1。田沼を囮にしようと考えたこと」
「そうだったんだ」
「その2。縁を異空間に巻き込んだこと」
「ええ……そんなの不可抗力じゃ……」
「その3。縁と友達になりたいと思ったこと」
「……え」
「そう思わなければ、縁は怖い目に遭わずにすんだかもしれなかったから」
「そんな……そんな欲望が悪いことだなんて、思わないけど、な」

 頭に疑問符を沢山浮かべながら返事をすれば、慧護は苦笑して「縁は純粋なんだと思う」と呟く。

「俺はさ。何でも出来たっていうか。縁と近づくためなら手段選ばないというか。……〝わざと〟が多かったんだよね」

 慧護は海を見つめたままこちらを振り返らない。僕を見てくれない。
 それは、後ろめたいことがあるということ?

「俺、足怪我なんてしてない」
「あ……そう、なんだ」
「縁が記事を破るわけないと思っていても、敢えて情報を泳がせた。クラスからの目が厳しくなると縁は俺しか頼れなくなるから」
「……」
「仲良くなりたいのは本当だった。でもそのために……俺は縁の逃げ道を塞いでいった。だから俺は『悪い子だーれだ』という言葉が聞こえたんだと思う」

 慧護が全てを話していく。
 それでも僕はあまりピンと来なかった。元々1人行動が多い中濡れ衣着せられて孤立していく中、慧護だけが『パシリ要員』として僕に声をかけてくれていた。慧護にとって計画通りだったとしても。……どのみち、僕は助けられていたから。

「……嘘は、良くないのかもしれない……ね?」
「……ごめん」
「慧護くんは立ち回りが上手いんだなって改めて思うよ。色んなことに気付けて、みんなを助けてくれて……僕は目の前のことしか見えないから……鈍感で何も気付けない」

 海を見つめながら先を歩く慧護を駆け足で追い越し振り返る。
 立ち止まって、漸く僕を見る慧護。

「僕が気付かないところで手を回して他の生徒に虐められないようにしてくれていたってことでしょ? 僕に変な疑問を抱かせずに〝助けてくれた〟と思わせた慧護くんの行動は……成功してたんじゃないかなって。僕は……思う、かな」
「……縁は、姑息な俺の罠にハマって接点を強制的に作らされた。こう言えば俺が悪いことしてるって伝わる?」
「どうして、自分を悪く言うの……?」
「……俺は悪い子なんだよ。ずっと考えてた……自覚した。俺たち、仲良くなったらいけなかったんだ」

 慧護は、苦しそうだった。
 僕と仲良くなりたいと言っていた。仲良くなって嬉しい、と言ってくれたのに。どうして、後悔しているの。

 やっぱり僕はつまらない存在だったのだろうか。

 真夏の暑い海辺だというのにじわじわと、足先から冷えていくような感覚。

「……楽しい夏休みをありがとう。でも、二学期からは今まで通りでいいから。色々……巻き込んでごめん」

 呆然と立ち尽くす僕のそばを通り過ぎて慧護は歩いていく。振り返ってはくれない。

 心臓が、ぎゅうって押し潰されるような痛み。両手で胸を押さえて声にならない「慧護くん」と呟く。

 心許せる人と出会えたと思ったのに。
 結局こうなってしまうなら、仲良くなりたくなかった。

 僕に近づかないでほしかった。勝手に近づいて、離れないでよ。

 友人といる楽しさを知ってしまったのに、二学期からまた僕はひとりぼっちなの。

 ボヤける視界の中、せめて理由を教えてほしいと駆け出す。しかし僕が追いかける気配に慧護は走り出してしまう。足を怪我してない彼の逃げ足は早い。どうしよう、追いつけない……電車に先に乗られてしまったら、もう話は聞けない。

「待って……待って!」

 瞬きした時にふと目の前に狐と狸が現れた。まだ、成仏出来ていないのかな。足を踏み出した時鈴の音がチリン、と聞こえた。途端──。

 ズボッ。

「う、わああああっ⁉︎」

 陥没したのかよくわからないけれど、僕が踏み込んだ先に穴が空いて体が下半身見事に埋まってしまった。右足首の痛みに捻ってしまったのかもしれない。

 ああ、こんな時になんて間抜けなんだ……俯いて鼻が痛くなってしまえば「何してんだよ」と呆れ顔のまま。

 こちらに手を差し伸ばす慧護がいた。