スクープ!《学校に棲みつく動物2匹と、姿を消した生徒の行方》

 鈴鳴一家は地元から遠く離れた場所に引っ越していた。

 夏休みの中盤に、僕と慧護は電車を乗り継いで知らない土地に向かう。

 僕たちが住んでいた地元は山が多い田舎だったけれど、記事に書かれた住所は同じ県内の海がある地域。

 遺骨や遺品は先に警察から鈴鳴家に送られている。僕たちは事前に家に赴くことを連絡していた。

 地元の3両しかない電車を乗り継ぎ、多くの鉄道が行き交う心臓部分に辿り着き、再び1車両しか無い電車に乗って約50分。

 始発から終点まで乗っていると乗客も少なくなっていき、最後は僕たち2人だけになった。

 トンネルを抜けると、辺り一面に海が広がる。

「うわあ……海だぁ〜」
「でっけー」
「写真撮ろ」
「電車動いてるけど撮れるの?」

 慧護に「まあ見ててよ」と言いながらカメラを構える。

 正面にある電車の座席と窓から映る海を捉える。太陽に照らされて波が煌めき、その瞬間をシャッターで切る。

 撮ったものを慧護に見せる。

「……どう?」
「おー。めっちゃ綺麗」
「ふへへ……」

 変な笑い声が出てしまう。慧護に褒められると自然と口元が緩んでしまう。

 一学期の僕には想像もしなかった仲になっていた。

 電車に揺られながら、目の前の海をぼんやり見つめていれば……慧護がじっとこちらを見ている気配。

 気になって隣を見ると……やっぱり僕を見ている。

「……なに?」
「あー、なんていうか。俺はずっと、縁の写真を沢山見てみたいなって思ってたから。でも、縁は中々心開いてくれなくて一学期は『写真見たい』って言っても見せてくれなかったじゃん。だから……俺、今すげえ嬉しいっていうか……」

 今僕が仲良くなれてよかった、と思っていたら慧護もそう思ってくれていたんだ。

「僕たち、意外とシンパシー感じ合うタイプなのかな?」
「ははっ! 初めに俺が言った時すっげぇ嫌な顔してたの覚えてるぞ!」
「ゔ! だ、だってまだ友達じゃなかったし……」

 そういえばそんな会話をしていた気もする。

「あんなに気持ち共鳴してなかったのに、今は嘘のように感じ合ってるのが不思議で。でも嬉しいんだ」
「……それは僕もだよ」

 僕たちは色々と巻き込まれてしまったけれど。慧護と深い仲になったのは漏れなく狐と狸と、鈴鳴の存在があったからだろう。

 鈴鳴家は息子が行方不明になった時色々と噂が立ち回り、妹がいることを考えて地元から離れた。

 仕方ないことだと思う。
 ずっと根も葉もない噂を立てられたり、マスコミに追いかけられたりするのだろうから。

 スマホに掲載されている記事は数年前のものだったから、やはり行方不明になった息子を諦められなかったのだろう。

「……鈴鳴くんは、やっと両親の元へ帰れるんだね」
「ああ」
「やっと……ゆっくり出来るんだね。怪異にもならず、眠ることが出来るんだ」
「縁。……どうして、鈴鳴の遺体をそのままにせず見つけたいと思ったんだ? 俺たちはあのまま何も知らないフリすることも出来たはず」

 真相を確かめたい、と。
 勇気を出して言った時に慧護は黙って頷いてくれた。あの時に疑問に思ったなら尋ねてくれてもよかったのに。

 でも僕を尻込みさせたくないと思ったのかも。彼は先陣切って人を誘導するリーダーに見えて、案外背後から見守ってくれている人だと気付いたから。

「……一度真実を知ってしまったからには、最後まで見届けるべきだと思ったんだ」
「……さいごまで?」

 言葉を繰り返す慧護を見つめて「うん」と頷く。

「鈴鳴くんが……突き落とされた理由。怪異になった理由。夢を通してだけど共有されたってことは……この先をどう動くのかを託されたんだって思ったから」
「この先を……託された……」
「鈴鳴くんに見つけてほしいと頼まれた訳じゃない。掘り出したのは僕のエゴだし、慧護くんは付き合ってくれただけ。この選択が正しかったのかなんて僕にもわからない。でも……」

 言葉を一度止め慧護をもう一度見る。
 彼はじっとこちらを見てその先を聞こうとしてくれている。
 僕は慧護の目を見つめ、微笑む。

「気付いたら、動いてしまっていたんだ」

 答えになっているだろうか。
 とどのつまり「僕にもよくわからない」ということだ。

 気付いたら慧護に「真相を確かめたい」と言っていた。気付いたらシャベルで穴を掘っていた。

 託された、見届けるべきだ、なんて。後付けでしかない。

 あと分かることは。

「……僕1人じゃ達成出来なかった」
「へ?」
「僕がしたいことを聞いて、動いてくれる慧護くんがいなかったら、2人で電車に乗ることもなかった……僕は、一学期からずっと助けられている。ありがとう」

 素直に口にすれば、慧護は頬をぽりぽり掻きながら「俺も……仲良くなれてよかった、と思ってる」と目を逸らして言う。

 正反対な2人だと思っていた。
 実際は似た者同士なのかもしれない。

 終点のアナウンスが流れ、僕たちは外に出る準備をする。

 茹だるような暑さ。
 しかしそれとは別に潮風の匂い。

 地元では感じない空気を感じる。

「行こう、慧護くん」

 促せば慧護は「ああ」と頷いて隣を歩いてくれる。