『悪い子だーれだ』
キミたちはカンニングしてるから食べてしまおう。
『悪い子だーれだ』
ゴミをポイ捨てするキミは食べてしまおう。
『悪い子だーれだ』
『悪い子だーれだ』
あれあれ。狸を虐めた生徒が見つからないなあ。必ず成敗しないと。
でも1人だけ巻き込まれてる人がいる。可哀想だから見逃してあげないと。
だから自我が保てている間に悪い子は食ってしまおう。
*
悪い子、見つけた。
食べようとしたら、別の生徒を食べさせられた。今食べちゃった子も、良い子を仲間外れにしてたから同じだけど。
ボクを追いかけて狐と狸が頭に乗っかり食われた生徒の腕を掴んで引き抜こうとしていたことは意外だった。
2匹は味方してくれると思った。
気持ち良さそうに寝ているところを荒らされて、狸は宙吊りにされていたのだから。
暴走を止めようとしているけれど、今回ばかりは。
前は不良の暴行で大切な友達を死なせてしまったから。
同じことをした悪い生徒は絶対にボクが息の根を止めないと気が済まない。
だから、探して追いかける。
2匹が辛い目に遭ったように、皮膚を剥いで、骨という骨を全てバキバキに折って、でも即死はさせてあげない。
虫の息になって、痛みに苦しみながら絶望して死んでいけ。
『……ゲプッ……』
1番始末したい子を排除した。
でも、まだ足りない。
あと1人残っている。
ボクは死んでから能力に目覚めたのか悪い子の過去を見ることが出来る。
しかしまだ残ってる生徒の悪行は見当たらない。だけど悪い子判定としてボクの体は自然と追いかけていく。
狐と狸にまた阻まれる。
どうして邪魔をするの。ボクたち友達でしょ。
ボクは弱い子を守るために悪い子を食べているのに。
多くの人間を食べて力は増したはずなのに、体はどんどん重くなっていく。窓から照らされる月の光は眩しくて嫌いだった。体に当たると焼けるようで痛い。
生徒を追いかけている間、月の光はどんどん強くなっていく。
過去に徘徊していた頃、晴れていて満月だった夜は月の光が眩しくて土の中にいることしか出来なかった。
ボクがその光に弱いことを知っているのは、狐と狸。友達であるはずの2匹が、ボクの行動を阻止しようとしているのか。
動物の体では限界があるから、動いてくれる生徒2人に憑依して。
生徒を食べようと突進したら真横に躱される。急カーブが効かないボクはそのまま壁に激突する。
今まで食べてきた生徒たちが体の中で揉みくちゃになって骨がさらにバキバキと折れていけば、自身の体と連動して痛かった。呻きながら、それでも目の前の生徒を食べるために追いかける。
悪い子。悪い子なはずなのに。
少し先で待ってボクを待ち構えているその目は、綺麗だった。
悪い子? 本当に? 悪い子はもっと醜い目をしている。 瞳に光を宿す生徒が、どうしてここにいる?
(……美味シソウ)
悪い子を食べているつもりだった。
初めはそうだったのかも。
でも時が経つにつれて、ボクはただの怪異になって。
良い子悪い子関係なく、食べる恐ろしい存在になっていたのか。
頭の中で理解しても、体は人間を求めてただ追いかけていく。
昇降口でこちらをじっと見据えている生徒にボクは後先考えず、大きく口を開けて突撃した。
身軽な生徒はまた瞬時に躱し、ボクはガラス張りの扉に大当たりしてしまう。
グラウンドに放り出された体が焼けていく。ジュウ……と大きな音を立てて体がみるみる小さくなっていった。
食べた生徒たちは体に取り込んだまま、人体模型のように内臓が剥き出し状態の人型になる。随分頼りない姿になったが、体はとても身軽になった。
体が焼け切ってしまう前に、本能で生徒を追いかけていく。
ボクが埋められた場所に光る石を置く生徒がいた。キミたちがボクの動きを鈍くしていたのか。
こちらを振り返る生徒はもう逃げも隠れもしない。
近づけば友達2匹に阻まれる。
どうして邪魔をするの。
どうして。ドウシテ?
制止も聞かず小さな体を跨ぎ生徒の肩を掴んで首を噛もうとし──。
良い子判定だった生徒が割り込んだ。
しかしボクはもう制御が聞かず2人の首に噛み付いた。
2人の血液がドクドクと体内に入っていく。
今まで食べてきた人間とは違う味だった。
血を飲めば飲んでいくほど、ボクがどんどん小さく、弱くなっていく。
人間を食べたらボクは強くなるはずなのに。マイナスになっていく。
(ボクは、死ぬのか……)
いや、何十年も前に屋上から突き落とされて死んでいるだろう。だから、ボクは消滅する、が近いのだろうか。
『……う、ぇぐ……っ、消えたく、ないよぉ……っ』
手も足も、朽ちた枝のようにどんどん黒くなってボロボロに消えていく。
友達2匹は、ボクを助けようともせずただ座ってこちらを見つめているだけだ。
首を噛まれて倒れたはずの生徒2人は意識が戻ったのか寄り添いながらじっとこちらを見つめている。
『ボ、ボク、は……友達2匹のために……!』
そのために、なんだ。
学校全体を異空間にして生徒を閉じ込めて、食べた。
2匹を虐めた不良たちはとっくに始末したのに。
それだけで成仏することが出来ず、何十年越しに生徒をたくさん食べた。
美味しかった。
(排除するべき存在は、ボクなのか……っ)
美味しいなんて感想、持ってる時点でボクはもう人間ではない。
頭ではわかっていても。怖かった。
ボク自身がこの世から消えてしまう事実が、恐ろしかった。
しかし体は無情にも消えていく。
『クソォ……クソォ……っ! お前らまでボクを見捨てるのカァ……!』
大好きだったはずの2匹が怨めしい。
体が焼けていく。
月の光に燃やされる体は青白い炎になりボクを赤裸々の魂だけにさせた。
「……痛かったよね。辛かったよね。……大切な友達を殺されてしまって、怨みが大きくなるの、わかるよ」
カメラを首から下げている生徒がボクの元へきて語りかける。見上げると……知らない生徒なはずなのに、既視感があった。
『……狸くん?』
異空間に巻き込まれた生徒だった。しかし頭上には狸の耳と、腰からは尻尾が生えている。
周りを見渡す。2匹はいない。……狐と狸は人に化けると聞いたことがあるが……憑依でも、したというのか。
狸に憑依された生徒は、悲しそうに顔を歪める。
「でももう、やめて。関係ない生徒たちを巻き込むのはやめて」
『……』
「僕は……僕たちは、もう十分だから……っ」
泣いてしまう狸を呆然と見つめていれば、もう1人の生徒がこちらに来る。
頭上と腰には狐の耳と尻尾。
「俺たちさ。……お前だけでも助かれば良かったんだよ。転校でも何でもして、俺たちを忘れて生きてくれたら良いなって思ってた。だけど……お前も死んじまうなんて……」
奥二重の切れ長の瞳は、苦しそうに伏せられる。
「……俺たち、友達にならない方がよかったのかな」
狐が呟く。
そんな顔を、させたいわけじゃなかった。
ボクたちは本当に、悪い奴らに目をつけられてしまっただけなのだろう。
ボクが怪異になってしまったのは、それだけ2匹が大切だったから。
でももう、2匹が言う通り終わらせないといけない。
『ボクはずっと、助けられてたんだ』
虐められていたから。友達もいなかったのに、2匹に出会って。死んでしまうまでの束の間の時間、ボクは毎日が本当に。
『……狐くんと狸くんに出会えて、ボクは幸せだったんだよ……』
あの頃を回想する。
夢の中では、両脇に2匹が座ってくれて、手を広げれば擦り寄ってくれる。
狸を宙吊りにした生徒は許せないけど……きっと、ここまで命懸けて2匹について来てくれたた生徒2人が悪い生徒たちを制裁してくれるだろう。
狐と狸に憑依された生徒たちを見上げる。
『会話したい願いを叶えてくれてありがとう……』
怪異は消滅し、地面には手のひらサイズの鈴が残っていた。
*
肝試しに校舎に入った生徒たちが一向に戻ってこないと教師から通報があった。警察が校舎を見回っても生徒は誰一人見かけなかった。
夜中の学校で大騒動になる中、ふとグラウンドを見ると今まで消えていた生徒たちが固まって眠っていた。
何があったのか尋ねても生徒たちの記憶には残っていないようだった。
体育館裏から戻ってきた生徒2人にも事情聴取したが、彼らも「何も知らない」の一点張りだった。
カメラを首から下げている生徒は鈴を手にしていた。
キミたちはカンニングしてるから食べてしまおう。
『悪い子だーれだ』
ゴミをポイ捨てするキミは食べてしまおう。
『悪い子だーれだ』
『悪い子だーれだ』
あれあれ。狸を虐めた生徒が見つからないなあ。必ず成敗しないと。
でも1人だけ巻き込まれてる人がいる。可哀想だから見逃してあげないと。
だから自我が保てている間に悪い子は食ってしまおう。
*
悪い子、見つけた。
食べようとしたら、別の生徒を食べさせられた。今食べちゃった子も、良い子を仲間外れにしてたから同じだけど。
ボクを追いかけて狐と狸が頭に乗っかり食われた生徒の腕を掴んで引き抜こうとしていたことは意外だった。
2匹は味方してくれると思った。
気持ち良さそうに寝ているところを荒らされて、狸は宙吊りにされていたのだから。
暴走を止めようとしているけれど、今回ばかりは。
前は不良の暴行で大切な友達を死なせてしまったから。
同じことをした悪い生徒は絶対にボクが息の根を止めないと気が済まない。
だから、探して追いかける。
2匹が辛い目に遭ったように、皮膚を剥いで、骨という骨を全てバキバキに折って、でも即死はさせてあげない。
虫の息になって、痛みに苦しみながら絶望して死んでいけ。
『……ゲプッ……』
1番始末したい子を排除した。
でも、まだ足りない。
あと1人残っている。
ボクは死んでから能力に目覚めたのか悪い子の過去を見ることが出来る。
しかしまだ残ってる生徒の悪行は見当たらない。だけど悪い子判定としてボクの体は自然と追いかけていく。
狐と狸にまた阻まれる。
どうして邪魔をするの。ボクたち友達でしょ。
ボクは弱い子を守るために悪い子を食べているのに。
多くの人間を食べて力は増したはずなのに、体はどんどん重くなっていく。窓から照らされる月の光は眩しくて嫌いだった。体に当たると焼けるようで痛い。
生徒を追いかけている間、月の光はどんどん強くなっていく。
過去に徘徊していた頃、晴れていて満月だった夜は月の光が眩しくて土の中にいることしか出来なかった。
ボクがその光に弱いことを知っているのは、狐と狸。友達であるはずの2匹が、ボクの行動を阻止しようとしているのか。
動物の体では限界があるから、動いてくれる生徒2人に憑依して。
生徒を食べようと突進したら真横に躱される。急カーブが効かないボクはそのまま壁に激突する。
今まで食べてきた生徒たちが体の中で揉みくちゃになって骨がさらにバキバキと折れていけば、自身の体と連動して痛かった。呻きながら、それでも目の前の生徒を食べるために追いかける。
悪い子。悪い子なはずなのに。
少し先で待ってボクを待ち構えているその目は、綺麗だった。
悪い子? 本当に? 悪い子はもっと醜い目をしている。 瞳に光を宿す生徒が、どうしてここにいる?
(……美味シソウ)
悪い子を食べているつもりだった。
初めはそうだったのかも。
でも時が経つにつれて、ボクはただの怪異になって。
良い子悪い子関係なく、食べる恐ろしい存在になっていたのか。
頭の中で理解しても、体は人間を求めてただ追いかけていく。
昇降口でこちらをじっと見据えている生徒にボクは後先考えず、大きく口を開けて突撃した。
身軽な生徒はまた瞬時に躱し、ボクはガラス張りの扉に大当たりしてしまう。
グラウンドに放り出された体が焼けていく。ジュウ……と大きな音を立てて体がみるみる小さくなっていった。
食べた生徒たちは体に取り込んだまま、人体模型のように内臓が剥き出し状態の人型になる。随分頼りない姿になったが、体はとても身軽になった。
体が焼け切ってしまう前に、本能で生徒を追いかけていく。
ボクが埋められた場所に光る石を置く生徒がいた。キミたちがボクの動きを鈍くしていたのか。
こちらを振り返る生徒はもう逃げも隠れもしない。
近づけば友達2匹に阻まれる。
どうして邪魔をするの。
どうして。ドウシテ?
制止も聞かず小さな体を跨ぎ生徒の肩を掴んで首を噛もうとし──。
良い子判定だった生徒が割り込んだ。
しかしボクはもう制御が聞かず2人の首に噛み付いた。
2人の血液がドクドクと体内に入っていく。
今まで食べてきた人間とは違う味だった。
血を飲めば飲んでいくほど、ボクがどんどん小さく、弱くなっていく。
人間を食べたらボクは強くなるはずなのに。マイナスになっていく。
(ボクは、死ぬのか……)
いや、何十年も前に屋上から突き落とされて死んでいるだろう。だから、ボクは消滅する、が近いのだろうか。
『……う、ぇぐ……っ、消えたく、ないよぉ……っ』
手も足も、朽ちた枝のようにどんどん黒くなってボロボロに消えていく。
友達2匹は、ボクを助けようともせずただ座ってこちらを見つめているだけだ。
首を噛まれて倒れたはずの生徒2人は意識が戻ったのか寄り添いながらじっとこちらを見つめている。
『ボ、ボク、は……友達2匹のために……!』
そのために、なんだ。
学校全体を異空間にして生徒を閉じ込めて、食べた。
2匹を虐めた不良たちはとっくに始末したのに。
それだけで成仏することが出来ず、何十年越しに生徒をたくさん食べた。
美味しかった。
(排除するべき存在は、ボクなのか……っ)
美味しいなんて感想、持ってる時点でボクはもう人間ではない。
頭ではわかっていても。怖かった。
ボク自身がこの世から消えてしまう事実が、恐ろしかった。
しかし体は無情にも消えていく。
『クソォ……クソォ……っ! お前らまでボクを見捨てるのカァ……!』
大好きだったはずの2匹が怨めしい。
体が焼けていく。
月の光に燃やされる体は青白い炎になりボクを赤裸々の魂だけにさせた。
「……痛かったよね。辛かったよね。……大切な友達を殺されてしまって、怨みが大きくなるの、わかるよ」
カメラを首から下げている生徒がボクの元へきて語りかける。見上げると……知らない生徒なはずなのに、既視感があった。
『……狸くん?』
異空間に巻き込まれた生徒だった。しかし頭上には狸の耳と、腰からは尻尾が生えている。
周りを見渡す。2匹はいない。……狐と狸は人に化けると聞いたことがあるが……憑依でも、したというのか。
狸に憑依された生徒は、悲しそうに顔を歪める。
「でももう、やめて。関係ない生徒たちを巻き込むのはやめて」
『……』
「僕は……僕たちは、もう十分だから……っ」
泣いてしまう狸を呆然と見つめていれば、もう1人の生徒がこちらに来る。
頭上と腰には狐の耳と尻尾。
「俺たちさ。……お前だけでも助かれば良かったんだよ。転校でも何でもして、俺たちを忘れて生きてくれたら良いなって思ってた。だけど……お前も死んじまうなんて……」
奥二重の切れ長の瞳は、苦しそうに伏せられる。
「……俺たち、友達にならない方がよかったのかな」
狐が呟く。
そんな顔を、させたいわけじゃなかった。
ボクたちは本当に、悪い奴らに目をつけられてしまっただけなのだろう。
ボクが怪異になってしまったのは、それだけ2匹が大切だったから。
でももう、2匹が言う通り終わらせないといけない。
『ボクはずっと、助けられてたんだ』
虐められていたから。友達もいなかったのに、2匹に出会って。死んでしまうまでの束の間の時間、ボクは毎日が本当に。
『……狐くんと狸くんに出会えて、ボクは幸せだったんだよ……』
あの頃を回想する。
夢の中では、両脇に2匹が座ってくれて、手を広げれば擦り寄ってくれる。
狸を宙吊りにした生徒は許せないけど……きっと、ここまで命懸けて2匹について来てくれたた生徒2人が悪い生徒たちを制裁してくれるだろう。
狐と狸に憑依された生徒たちを見上げる。
『会話したい願いを叶えてくれてありがとう……』
怪異は消滅し、地面には手のひらサイズの鈴が残っていた。
*
肝試しに校舎に入った生徒たちが一向に戻ってこないと教師から通報があった。警察が校舎を見回っても生徒は誰一人見かけなかった。
夜中の学校で大騒動になる中、ふとグラウンドを見ると今まで消えていた生徒たちが固まって眠っていた。
何があったのか尋ねても生徒たちの記憶には残っていないようだった。
体育館裏から戻ってきた生徒2人にも事情聴取したが、彼らも「何も知らない」の一点張りだった。
カメラを首から下げている生徒は鈴を手にしていた。
