どうせ恥をかいたところで今と変わらない。そもそもほとんどの生徒とは挨拶をするくらいの仲でしかないのだから、バカにされたところで減るものはない。
だからと僕は承諾し、西園からメイクとヘアセットをしてもらった。そして顔を見られないよう二人してフードを目深に被って学校へと向かい、猫舌さんのために用意した控室へ直行した。
「めちゃくちゃかわいい!」
「馬子にも衣装……」
「……お似合いすぎて死傷者が出そう」
着替えを済ませた直後、様子を見に来たといって高原さんたち三人が現れた。どうやら好意的に受け入れてくれたようだけど、彼らに見られたことで恥ずかしさがマックスにまで振り切れて、僕は凍りついてしまった。主犯の西園や初対面だったお姉さんたちとは違って、もともと僕を知っている人からコスの姿を見られるというのは、思っていた以上に緊張を誘うものらしい。
「いい案だろ? みあおさんのパフォーマンスにも匹敵すると思わない?」
一方の西園は相変わらずの心臓だ。まるで動じないその精神を少しわけて欲しい。
「思う。てかやっぱり藤川だったんじゃん! 嘘つきやがってむかつく……けど、かわいすぎて怒れない!」
「すでに噂になってるから、生徒会の宣伝として申し分ないな」
「涙と血が流れるだろうけど、かなり盛り上がると思う」
三人はなんやかんや言いつつも写真撮らせて欲しいとまで頼んできて、西園が二つ条件を飲むならと許可を出した。絶対に外へ出さないこととひとり二枚までならという条件だったのだけど、僕は頭が回っておらず反対の口を挟めなかった。
「じゃ、撮るよ?」
「ほら、真穂路スマホ見て」
「えっ……あ……」
三人はかちんこちんの僕と相変わらずの西園をスマホに収めて準備に戻っていった。
「……緊張しすぎ。三人くらいでびびってて、ステージになんて立てんの?」
西園と二人になってようやく震えが収まった。むっとする気力すら戻ってきている。
「もともと人と話すのが苦手なので」
「でも誰もバカにしなかっただろ?」
「……それは、みなさんはもともと僕と話してくれていた方々ですし」
「たいして違わないだろ。多くはあんな感じだよ。真穂路は世界一かわいいんだから、堂々としていればいい」
「それ、緊張を解そうとしてくれているんなら逆効果です……」
覚悟していたはずなのに、いざ三人を前にしたら、とたんに不安な気持ちになってしまった。知っている相手だけど、だからこそ態度が変わったらと考えてしまう。
「大丈夫だって」
「ですが……ひぃっ!」
体育館から司会進行を務める高原さんの声が聞こえてきた。いよいよ新入生歓迎会が始まったようだ。
ここは部室棟の空き部屋で、体育館のステージ裏へは人目を忍んで向かうことができる。真裏にあるためギリギリまで待機できるのだが、プログラムでいうと最初のほうなのでどの道あと数分もない。
「……も、もももう、行きますか?」
「ああ……でも、ちょっと待って」
西園が真面目な顔つきになり、まじまじと僕の全身を見渡してきた。
「なにか変ですか?」
「変じゃない。かわいい」
「かわいくはありませんが……ゴミかなにかついてます?」
「ついてない……やっぱ真穂路はマホロ推しだったんだな」
「えっ?」
「ほんとの真穂路はマホロ推しで、コスすることも嫌いじゃない……だろ?」
「違いますよ! 僕はユージーン推しですし、コスを楽しんでいたのは確かにありますが、それはエンオタだからであって……」
「真穂路がユージーンを推してたのは、マホロの恋人だからだ。真穂路の本命はマホロ。俺がコスをしていたのは真穂路がいつまでも自分に嘘をつき続けていたから。煽るためだよ」
あまりの言いように開いた口が塞がらない。僕が絶句していると、西園は僕がセンオタだと知ったことでもしやと考え始めて、コスを着た僕を見て確信した、と続けて言った。
恥ずかしさと不安が入り混じりった僕は、どんな反応をされるかを気にしながらもどこか満足げで、誇らしささえ感じているように見えたという。
「……なんですかそれ……違いますよ。……推しは成るより見るほうがいいんですし……」
「本音はマホロと同じ名前であることや似ていることを誇らしく思ってる。だからバカにされてショックだったんだろ? でももう何を言われても俺が百倍肯定してやるから、本当の気持ちは押し殺すな。これからは堂々としてればいい」
本当の気持ちなんてない。本音を口にしている。本気でコスプレは嫌々だし、無理やりやらさせられていただけだ。今回ばかりは生徒会副会長として奮起したけど、イベントのためであって僕自身の願いのためじゃない。
「全然違います……そんなの全部、西園会長の思い違いですよ」
「わかった。それでいい」
「えっ?」
「でも心のなかでは否定するなよ? いくぞ」
「ちょっ」
西園は話しながら準備万端に手品道具をすでに持っていて、にやりとしながら空き部屋を出てステージ裏へと向かいだした。
思わずつられて足を踏み出すとさっきよりもスムーズに動かすことができた。ばかげた勘違いにかちんときたことで肩の力が抜け、足の速い西園を追わなければという焦りで、緊張するどころじゃなくなっている。
発破をかけてくれたのだろうか。結局また西園の手のひらで転がされたような気がするけど、今回ばかりは助かったかもしれない。あのままステージに上がっていたら頭のなかは真っ白になって、ロボットみたいに奇怪な動きをしていたに違いない。
『このたび予定されていた、猫舌みあおさんのパフォーマンスは諸事情により中止となりました。ですが、代わりに人気アニメ『エンゲルの旋風』より主人公のエンゲルベルト・ユージーンとマホロ・アルジュールが駆けつけてくれました』
高原さんの前口上のあとに体育館からは戸惑いとどよめきの声が聞こえてきた。
「自分が楽しむことだけ考えろ」
体育館裏のドアを開けた西園は不敵ともいえる笑みで振り返り、僕はぎくしゃくとしながらも頷き返して西園の背中に続いた。
だからと僕は承諾し、西園からメイクとヘアセットをしてもらった。そして顔を見られないよう二人してフードを目深に被って学校へと向かい、猫舌さんのために用意した控室へ直行した。
「めちゃくちゃかわいい!」
「馬子にも衣装……」
「……お似合いすぎて死傷者が出そう」
着替えを済ませた直後、様子を見に来たといって高原さんたち三人が現れた。どうやら好意的に受け入れてくれたようだけど、彼らに見られたことで恥ずかしさがマックスにまで振り切れて、僕は凍りついてしまった。主犯の西園や初対面だったお姉さんたちとは違って、もともと僕を知っている人からコスの姿を見られるというのは、思っていた以上に緊張を誘うものらしい。
「いい案だろ? みあおさんのパフォーマンスにも匹敵すると思わない?」
一方の西園は相変わらずの心臓だ。まるで動じないその精神を少しわけて欲しい。
「思う。てかやっぱり藤川だったんじゃん! 嘘つきやがってむかつく……けど、かわいすぎて怒れない!」
「すでに噂になってるから、生徒会の宣伝として申し分ないな」
「涙と血が流れるだろうけど、かなり盛り上がると思う」
三人はなんやかんや言いつつも写真撮らせて欲しいとまで頼んできて、西園が二つ条件を飲むならと許可を出した。絶対に外へ出さないこととひとり二枚までならという条件だったのだけど、僕は頭が回っておらず反対の口を挟めなかった。
「じゃ、撮るよ?」
「ほら、真穂路スマホ見て」
「えっ……あ……」
三人はかちんこちんの僕と相変わらずの西園をスマホに収めて準備に戻っていった。
「……緊張しすぎ。三人くらいでびびってて、ステージになんて立てんの?」
西園と二人になってようやく震えが収まった。むっとする気力すら戻ってきている。
「もともと人と話すのが苦手なので」
「でも誰もバカにしなかっただろ?」
「……それは、みなさんはもともと僕と話してくれていた方々ですし」
「たいして違わないだろ。多くはあんな感じだよ。真穂路は世界一かわいいんだから、堂々としていればいい」
「それ、緊張を解そうとしてくれているんなら逆効果です……」
覚悟していたはずなのに、いざ三人を前にしたら、とたんに不安な気持ちになってしまった。知っている相手だけど、だからこそ態度が変わったらと考えてしまう。
「大丈夫だって」
「ですが……ひぃっ!」
体育館から司会進行を務める高原さんの声が聞こえてきた。いよいよ新入生歓迎会が始まったようだ。
ここは部室棟の空き部屋で、体育館のステージ裏へは人目を忍んで向かうことができる。真裏にあるためギリギリまで待機できるのだが、プログラムでいうと最初のほうなのでどの道あと数分もない。
「……も、もももう、行きますか?」
「ああ……でも、ちょっと待って」
西園が真面目な顔つきになり、まじまじと僕の全身を見渡してきた。
「なにか変ですか?」
「変じゃない。かわいい」
「かわいくはありませんが……ゴミかなにかついてます?」
「ついてない……やっぱ真穂路はマホロ推しだったんだな」
「えっ?」
「ほんとの真穂路はマホロ推しで、コスすることも嫌いじゃない……だろ?」
「違いますよ! 僕はユージーン推しですし、コスを楽しんでいたのは確かにありますが、それはエンオタだからであって……」
「真穂路がユージーンを推してたのは、マホロの恋人だからだ。真穂路の本命はマホロ。俺がコスをしていたのは真穂路がいつまでも自分に嘘をつき続けていたから。煽るためだよ」
あまりの言いように開いた口が塞がらない。僕が絶句していると、西園は僕がセンオタだと知ったことでもしやと考え始めて、コスを着た僕を見て確信した、と続けて言った。
恥ずかしさと不安が入り混じりった僕は、どんな反応をされるかを気にしながらもどこか満足げで、誇らしささえ感じているように見えたという。
「……なんですかそれ……違いますよ。……推しは成るより見るほうがいいんですし……」
「本音はマホロと同じ名前であることや似ていることを誇らしく思ってる。だからバカにされてショックだったんだろ? でももう何を言われても俺が百倍肯定してやるから、本当の気持ちは押し殺すな。これからは堂々としてればいい」
本当の気持ちなんてない。本音を口にしている。本気でコスプレは嫌々だし、無理やりやらさせられていただけだ。今回ばかりは生徒会副会長として奮起したけど、イベントのためであって僕自身の願いのためじゃない。
「全然違います……そんなの全部、西園会長の思い違いですよ」
「わかった。それでいい」
「えっ?」
「でも心のなかでは否定するなよ? いくぞ」
「ちょっ」
西園は話しながら準備万端に手品道具をすでに持っていて、にやりとしながら空き部屋を出てステージ裏へと向かいだした。
思わずつられて足を踏み出すとさっきよりもスムーズに動かすことができた。ばかげた勘違いにかちんときたことで肩の力が抜け、足の速い西園を追わなければという焦りで、緊張するどころじゃなくなっている。
発破をかけてくれたのだろうか。結局また西園の手のひらで転がされたような気がするけど、今回ばかりは助かったかもしれない。あのままステージに上がっていたら頭のなかは真っ白になって、ロボットみたいに奇怪な動きをしていたに違いない。
『このたび予定されていた、猫舌みあおさんのパフォーマンスは諸事情により中止となりました。ですが、代わりに人気アニメ『エンゲルの旋風』より主人公のエンゲルベルト・ユージーンとマホロ・アルジュールが駆けつけてくれました』
高原さんの前口上のあとに体育館からは戸惑いとどよめきの声が聞こえてきた。
「自分が楽しむことだけ考えろ」
体育館裏のドアを開けた西園は不敵ともいえる笑みで振り返り、僕はぎくしゃくとしながらも頷き返して西園の背中に続いた。



