ガチ恋勢がもらい泣きするような恋だった。

 当然のように、簡単には気持ちの整理はつかなかった。
 勢いでフォローを解除してしまったものの、何度ももう1度フォローしようとしてタロウのプロフィールページにアクセスした。でも、古い方から20番目に載っていた自分の名前が、新参者に埋もれることが我慢できなかった。結果的に、それが抑止力になって思い留まることができた。
 もしかすると、自分がフォローを解除したことを知りダイレクトメールが届くかも知れない。と、妄想もしたが、そんな夢のような出来事は起きなかった。新規のフォローについては通知機能が対応しているが、解除については通知されない。だから、相手が確認しない限り気付くことはない。

 きっと今頃は、上位の課金者に「ありがとうメール」でも送っているのだろう。もしかすると、次の対戦相手を探しているかも知れない。アイテムを掻き集めて収入を得る行為を否定する訳ではない。でも、自分の中にいるタロウにとって、その行動は違うと思う。初期にファンになった者からすれば、明確な裏切り行為だ。

 ―――――いや、違う。

 期待を裏切って、約束を破って、変わってしまったから離れる、そんな尤もらしい理由が欲しかっただけだ。本当の理由は、醜い独占欲だ。誰よりも早く自分が見付けたから、自分だけの宝物にしたかったんだ。だけど、本物は他人の力を借りなくても、時間の経過とともに気付かれてしまう。自然に光り輝いてしまう。隠し通すことなんてできない。
 2人だけの時間は少なくなり、やがて消え失せる。本質を理解することなく、外見で集ってくる人達。しかし、現実にはそんな軽薄な者達に追い越される。新密度が課金した金額で格付けされるようになると、傍観することしかできなくなった。その光景が我慢できなくて、自分から距離を取ったんだ。

 まるで、それが世界の摂理であるかのように、当日の夜も、翌日も、当たり前のようにダイレクトメールは届かなかった。


 動画を流していると、過去に何度も見ていたためタロウの動画がオススメ登場する。AI機能を恨んでいると、指が無意識のうちにタップしていた。
 ・・・相変わらず良い声だ。
 でも、「動画では同じ曲は歌わない」と言っていたにも関わらず、以前耳にしたことがある楽曲だった。それでも、当然のように「いいね」マークが4桁近く付いている。

 条件反射のように「いいね」をクリックしようとしたものの、寸前で指を止める。その指で、過去にUPされた動画に対する自分の「いいね」とコメントを削除していく。もう完全に縁切りをする。他のライバーのフォローを解除しても、ここまでのことをしたことはない。思い入れが深かったから、断絶するときの溝も深くなる。そうする必要がある。いや、いつか訪れる未来で、コメントが削除されていることに気付いて、「自分のことを思い出して欲しい」などと、この期に及んでも考えてしまっていた。

 動画の内容を確認し、その当時のことを思い出しながらコメントを削除する。動画の件数は20ほどしかない。一番最初の動画を見ながら、最初のコメントを削除した。途中で気が付いて止めにくる、というドラマチックなことが起きることもなく、最後の作業が終了した。
 最後にダイレクトメールの履歴も全て削除し、完全に縁が切れた。
 呆っ気ないものだ。
 あれほど毎日のようにメールのやり取りをして・・・だから勘違いしたのかも知れない。だけど、それでも、一緒に夢を語り合って、プロのシンガーソングライターになるって―――――もう、いい。

 思うんだ。
 自分の役目が終わったのだと。
 心が折れないように支える担当者がいて、人気が出るためにアドバイスをする担当者がいて、そこから先に進むために支援する担当者がいる。もう、自分の担当は終了したのだと思う。
 自分の役目は終わってしまったのだ。



 時間を消費するために、今日も動画を流し見する。
 気に入る歌声に立ち止まり、プロフィールにアクセスする。フォロワー数を確認すると3000人を超えていたため、気持ち良くスルーした。歌声が良くて、歌唱力があって、真摯に向き合っている人がいい。それでいて、フォロワーが300人までの人。そんな人を探している。そんな人がいるはずがない、と思っていたが意外と埋もれていた。ほんの1週間ほどで12人。

 前回失敗したのは、1人だけを必至に応援したからだ。思い入れが強くなり過ぎた。だから、今回は前回のようなヘマはしない。12人を平等に応援する。動画がUPされればコメントを書き込み、LIVE配信があれば参加する。そして、ライバーとのダイレクトメールでのやり取りはしない。


 もう絶対に、ライバーとフォロワーとの距離感を間違えない。