タロウは、文字通り一夜にして人気ライバーになった。
次のLIVEは配信直後から、参加者が300人を超えていた。ただの一般人としては異常な人数だ。いや、もう一般人とは呼べないのかも知れない。
いつも通りに挨拶を書き込むが、自分の名前が表示されたことさえ分からない。オープニングトークの間にも高額アイテムが投げられる。明らかに慣れた感じの参加者がタイミング良く質問コメントを書き込んでいき、タロウがそれに答える。その回答を別の参加者が拾い、再度質問をしていく。トークが弾み、必然的に配信が盛り上がっていく。そして1曲目。更に参加者が増えていき、いつの間にか特定の何人かがライブチャットを回している。レスの速度的にも加わることができず、ただ流れるレスを眺めることしかできなかった。
小人数のLIVEよりも、明らかに明るい表情で楽しそうに歌っている。
―――――息が苦しい。
いつもよりギターの音色が違う。抑え気味で演奏していたのか、今日はこれまでとはコードが違う。
―――――痛い。
参加者の最高値は2000人を超えていた。この配信サイトで2000人を超える人を見ることは稀だ。それなりに有名なライバーでも届かない人数だ。最初にバズった日から今日までで、フォロワーは1万人を突破した。何件かの切り抜き動画が流れたことも大きい。それぞれが「公認」と前面に打ち出していたところを見ると、タロウ本人から許可を得たのだろう。
自分の知らないところで、着々と自身の夢へと突き進んでいる。
歌唱力で有名になって、ミュージックビデオの再生回数1億回超え。最終的にはドームコンサート、ミリオンセラーを達成。途方もない夢だけど、初めてのLIVE配信で目標を聞き、その声音に本気で応援すると決めた。今思えば、本当に奇跡のような空間だった。どんな金額を提示しても得られないような特等席で、本人から真剣に目指す場所を聞いた。そして、自分ひとりのために歌ってくれた。
名前も知らない。
顔も見たことがない。
出身地も知らない。
年齢も、血液型も、身長も、体重も、何も知らない。
でも、好きな曲は知っている。
好きなアーティストも知っている。
好きな色も、好きな食べ物も知っている。
恐い話が苦手なことも、エビが嫌いなことも知っている。
ガチ恋勢とか、本当に笑ってしまう。
画面の向こう側の人に、リアルではない存在に、心を奪われるなんて有り得ない。お互いにそれは分かっていることで、どこかで線を引いて、深い溝を掘って、不可侵を決める。それを飛び越えようとか、絶対にムリなんだ。幅は10メートル以上ある。人類の世界記録でさえ9メートル。飛び越えられるはずがない。そもそも、飛べないようにと、この幅が設定されているんだ。
分かってる。
理屈では分かっていても、それでも助走に入る。
それがガチ恋勢。
でも、最終的にギリギリのところで踏み止まるのもガチ恋勢だ。
それでも、納得はしていない。
その日の配信後、いつもの反省会のメールが届くことはなかった。
次のLIVE配信は、3日後ではなく2日後だった。
配信直後の参加者も前回同様の300人ほど。それから徐々に人が増えていった。
前回の配信後、少しだけ思い直した。やはり、応援するのであれば、ある程度アイテムも投げる必要もあるという結論に達した。自分が投げていたアイテムは数百円程度だが、前回、前々回に飛び交っていたアイテムはもっと高額だった。古参だからだとか、そんな理由で甘えてはいけない。自分の本気度をアピールするためにも、それなりの金額を使うことに決めたのだ。
配信直後から見たこともないアイテムが投げられる。
嬉しそうにポーズを決め、名前を呼びながら笑顔を見せる。
アイテムの購入ページを見て指が止まった。ついさっきのアイテムは単価が1万円だったからだ。余りにも普通に投げられた金額が1万円。思わず顔が引き攣る。確かに、気を引きたいのであれば、それだけの金額を掛ける意味はあるのかも知れない。しかし、ここはキャバクラではない。そもそも、タロウは金銭目的で配信をしている訳ではないのだ。
そう思いつつ、いつもの調子で3百円のアイテムとともに挨拶のコメントを書き込む。しかし、完全にスルーされた。同じようなアイテムは折り重なるように投下されている。それを考えると、見逃した可能性もある。
そうは思っても、頑張って1万円のアイテムを購入する。その直後―――――
>ヤッホー七氏さん久しぶりだねー
この回の配信は弾き語りをする曲数が減り、大半が参加者との会話だった。オーバーなリアクションで笑顔を振り撒く。フォロワーは大切だ。当然、求心力を増すためにも人間同士の付き合いは必要になる。当然のように、簡単にはその輪に入れない。そこで中心になって話しをするには、暗黙の了解が存在した。いかにお金を払っているのか、ということだ。
次の配信は2日後の21時から、他のライバーとの対決らしい。
当然のように、もうダイレクトメールは届かない。
次のLIVEは配信直後から、参加者が300人を超えていた。ただの一般人としては異常な人数だ。いや、もう一般人とは呼べないのかも知れない。
いつも通りに挨拶を書き込むが、自分の名前が表示されたことさえ分からない。オープニングトークの間にも高額アイテムが投げられる。明らかに慣れた感じの参加者がタイミング良く質問コメントを書き込んでいき、タロウがそれに答える。その回答を別の参加者が拾い、再度質問をしていく。トークが弾み、必然的に配信が盛り上がっていく。そして1曲目。更に参加者が増えていき、いつの間にか特定の何人かがライブチャットを回している。レスの速度的にも加わることができず、ただ流れるレスを眺めることしかできなかった。
小人数のLIVEよりも、明らかに明るい表情で楽しそうに歌っている。
―――――息が苦しい。
いつもよりギターの音色が違う。抑え気味で演奏していたのか、今日はこれまでとはコードが違う。
―――――痛い。
参加者の最高値は2000人を超えていた。この配信サイトで2000人を超える人を見ることは稀だ。それなりに有名なライバーでも届かない人数だ。最初にバズった日から今日までで、フォロワーは1万人を突破した。何件かの切り抜き動画が流れたことも大きい。それぞれが「公認」と前面に打ち出していたところを見ると、タロウ本人から許可を得たのだろう。
自分の知らないところで、着々と自身の夢へと突き進んでいる。
歌唱力で有名になって、ミュージックビデオの再生回数1億回超え。最終的にはドームコンサート、ミリオンセラーを達成。途方もない夢だけど、初めてのLIVE配信で目標を聞き、その声音に本気で応援すると決めた。今思えば、本当に奇跡のような空間だった。どんな金額を提示しても得られないような特等席で、本人から真剣に目指す場所を聞いた。そして、自分ひとりのために歌ってくれた。
名前も知らない。
顔も見たことがない。
出身地も知らない。
年齢も、血液型も、身長も、体重も、何も知らない。
でも、好きな曲は知っている。
好きなアーティストも知っている。
好きな色も、好きな食べ物も知っている。
恐い話が苦手なことも、エビが嫌いなことも知っている。
ガチ恋勢とか、本当に笑ってしまう。
画面の向こう側の人に、リアルではない存在に、心を奪われるなんて有り得ない。お互いにそれは分かっていることで、どこかで線を引いて、深い溝を掘って、不可侵を決める。それを飛び越えようとか、絶対にムリなんだ。幅は10メートル以上ある。人類の世界記録でさえ9メートル。飛び越えられるはずがない。そもそも、飛べないようにと、この幅が設定されているんだ。
分かってる。
理屈では分かっていても、それでも助走に入る。
それがガチ恋勢。
でも、最終的にギリギリのところで踏み止まるのもガチ恋勢だ。
それでも、納得はしていない。
その日の配信後、いつもの反省会のメールが届くことはなかった。
次のLIVE配信は、3日後ではなく2日後だった。
配信直後の参加者も前回同様の300人ほど。それから徐々に人が増えていった。
前回の配信後、少しだけ思い直した。やはり、応援するのであれば、ある程度アイテムも投げる必要もあるという結論に達した。自分が投げていたアイテムは数百円程度だが、前回、前々回に飛び交っていたアイテムはもっと高額だった。古参だからだとか、そんな理由で甘えてはいけない。自分の本気度をアピールするためにも、それなりの金額を使うことに決めたのだ。
配信直後から見たこともないアイテムが投げられる。
嬉しそうにポーズを決め、名前を呼びながら笑顔を見せる。
アイテムの購入ページを見て指が止まった。ついさっきのアイテムは単価が1万円だったからだ。余りにも普通に投げられた金額が1万円。思わず顔が引き攣る。確かに、気を引きたいのであれば、それだけの金額を掛ける意味はあるのかも知れない。しかし、ここはキャバクラではない。そもそも、タロウは金銭目的で配信をしている訳ではないのだ。
そう思いつつ、いつもの調子で3百円のアイテムとともに挨拶のコメントを書き込む。しかし、完全にスルーされた。同じようなアイテムは折り重なるように投下されている。それを考えると、見逃した可能性もある。
そうは思っても、頑張って1万円のアイテムを購入する。その直後―――――
>ヤッホー七氏さん久しぶりだねー
この回の配信は弾き語りをする曲数が減り、大半が参加者との会話だった。オーバーなリアクションで笑顔を振り撒く。フォロワーは大切だ。当然、求心力を増すためにも人間同士の付き合いは必要になる。当然のように、簡単にはその輪に入れない。そこで中心になって話しをするには、暗黙の了解が存在した。いかにお金を払っているのか、ということだ。
次の配信は2日後の21時から、他のライバーとの対決らしい。
当然のように、もうダイレクトメールは届かない。



