ガチ恋勢がもらい泣きするような恋だった。

 初回のLIVE配信が始まった。
 画面が揺れる。撮影機材はスマートフォンなのだろう。配信が始まっているにも関わらず、未だにスマートフォンの位置を決め兼ねているようだ。画面いっぱいに手が映り込んでいる。しかし「まあいっか」という声が聞こえ、映像が固定された。

「みなさん、こんばんわ。タロウです。今日が初めてのLIVE配信なので緊張していますが、どうにかやっていきたいと思いまず。基本的にはカバー曲の弾き語りがメインで、少し合間にお話しするかも知れません。これから1時間程度の予定ですので、どうがお付き合い下さい」

 人柄が分かる丁寧な挨拶。
 しかし、参加者は1のままだ。
 LIVE背信を見ない訳ではない。しかし、コメントを書き込んだり、アイテムを投げたりという行為はしない。何となく、あのライブチャットの雰囲気が好きになれないからだ。排他的で、各々がメインアクターになろうと必死にマウントを取り合う。あの中に入る根性もなければ、入りたいとも思わない。中には「ガチ恋勢」と呼ばれる、配信者に対し本気で恋心を抱いている人もいるらしい。ちょっと、意味が分からない。―――――でも、コメントをスルーされるのが嫌だとか、高額アイテムの投げ合いに付き合えないとか、そんな理由もある。


>七氏:こんばんわー初ライブおめでとうございます!!
 とはいえ、書き込まない訳にはいかない。
 LIVEの参加者は1。もし、自分が傍観者になってしまうと、タロウは何の反応もない画面に向かって歌い続けることになる。当然のことではなるが、一般人の、しかもルーキーのLIVE配信なんて誰も見ない。見ても一瞬。すぐに次へと移動ずる。参加者が1、2、1、2、3、2、1・・・と変動する。

 歌は相変わらず上手い。
 この歌声に何の不満があるというのか。
 でも、立ち止まる人はいない。
 結局、有名人のところに人は集る。
 時間帯も悪い。
 20時から22時くらいの間は激戦区だ。
 人気がある人も、プロも、一般人も配信をしている。
 この中で注目を集めることは至難の業だ。
 やはり、プロのシンガーソングライターは上手い。
 確実にリスナーの心を掴む。
 きっと、トップは4桁は確実に達している。
 セクシーな衣装を着た人のところに群がり。
 アニメの主題歌を担当している本人が歌えば人は集る。
 最初から上手くはいかない。
 人は集らない。
 フォロワー50人の配信者がLIVEをしても大成功で5人だ。
 それを分かっているのだろうか。
 フォロワーもファンも突然1000人になったりしない。
 初回で悲観的になって止める人は多い。
 いつもなら退場者を引き止めることはしない。
 精神的なタフさも才能だと思うから。
 簡単に心が折れる人にはムリだ。
 それなら、早い方がいい。

 ―――――でも、タロウには折れて欲しくない。
 最大級の我がままだ。
 ここにいるよ。
 聴いている人がここにいるよ。
 だから、もう少し頑張って。
 応援しているよ。
 また、LIVE配信してね。
 いつもは、ライブチャットに書き込みなんかしないんだ。
 本当に。


>七氏:いつもと通りいい声! (`・ω・´)b
「七氏さん、ありがとうございます!!誰も来なかってら、どうしようかって思ってたんですよ」

>七氏:初めてのときはどうしても人は少ないから
「ですよねー分かってます。少しずつでも人が増えたらなって思ってます」

>七氏:だいじょうぶっ 絶対に人は増えてくると思うよ だって上手いんだから!!
「ありがとうございます!!じゃあ、七氏さんは毎回参加で良いですね?」
>七氏:りょ! (๑✧∀✧๑)

 折れて欲しくなかった。
 次のLIVEで人が増えるかどうかは分からない。
 でも、続けて欲しい。
 どうしても人がいるのであれば、スマホ2号、3号、パソコン1号、2号、仕事用パソコンでアカウントを作成すれば5人までは水増しオーケーだ。ただし、コメント等はできないけどね。
 ポテンシャルは高い。
 1曲でいいから聴いてもらえればフォローしてもらえる。
 きっと大丈夫。
 大丈夫だ。
 それでも、心が悲鳴を上げないように拍手を贈る。

 最終的な参加者は3人。30分の配信で、フォロワーが1名増えた。


 タロウのLIVE配信が終了して大きく息を吐き出していると、スマートフォンから通知音が鳴った。慣れない書き込みを続けて力尽きていたため、「あー鳴ってるなー」程度にしか脳ミソが反応しなかった。それでも、スマートフォンの画面に表示された文字が、「配信サイトのダイレクトメールのお知らせ」であったため手を伸ばした。

 差出人はタロウだった。
 普段、配信サイトでダイレクトメールを利用することはしない。クリエイターとの適切な距離感を考えると、直接言葉を交わす理由がないからだ。出会い系でもあるまいし、直接話してどうしようというのだろうか。ぶっちゃけ、一般的なダイレクトメールの運用方法は知らない。もしかすると、自分の方が少数派なのかも知れないけれど。

>今日はLIVEに来て下さって、ありがとうございました!!とても嬉しかったです。これからも一生懸命歌いますので、引き続きよろしくお願いします。 次のLIVE配信も絶対に来て下さいね。強制参加ですからねっ!!