ガチ恋勢がもらい泣きするような恋だった。

 20人目のフォロワーの「七氏」。
 名前を考えたものの、なかなか気に入るものが浮かばず、決るまでの暫定として登録したものの、今でも使い続けている。「名無し」なんて、ひと昔前のハンドルネームみたいだ。

 基本的にタロウの活動は、1日1本の弾き語り動画をUPするというペースだった。UPする時間帯も毎日決っていて、だいたい20時前後。微妙に服装が違うことから、撮り溜めではなく毎日撮影しているようだ。そういうところも好感がもてる。明らかに「一度に撮って小出しにしていいます!」、というUPのされ方をすると萎える。
 そして、選曲が良い。最近の曲ではなく、往年の古き良き時代のロックを歌う。個人的に、ジャパニーズロックは昭和に完結したと思っている。レベッカやプリンセス・プリンセス。佐野元治や白井貴子。チェッカーズやブルーハーツ。あの時代の曲を初めて聴いたときの衝撃は筆舌に尽くし難い。タロウはその時代をピンポイントで突いてくる。しかも、上手い。軽くアレンジをして、自分の雰囲気と声に合わせている。マジで、泣ける。

 動画にコメントしたことは無かったが、無意識のうちに書き込んでいた。
>七氏:泣ける(;_;)
 後から自分のコメントを見て泣けた。
 何してんだ。暇潰しに閲覧した動画にコメントするなんて。しかも顔文字付きで。
>▼投稿者:ありがとうございます。すごく嬉しいーです!!
 返信のお知らせ通知にアクセスすると、コメントが付いていてニンマリ。いや、ニンマリはしていない。

 選曲が抜群に良い。
 しかも歌も文句無く上手い。
 それでも、動画の再生数は50に届くかどうか。コメントも1つか2つ。続けて欲しくて、毎日聴きたくて、応援の気持ちを込めてコメントをする。最初は短文だった。いや、顔文字が付いていたわ。でも、文章は少しずつ長くなって50文字程度の感想を書くようにした。評価はしない。曲に対する思い出や、どこが良かったかを書くように心掛けた。声質に合う曲を見付けると、リクエストなんかもした。律儀にも、タロウは毎回コメントに返事をしてくれた。リクエストに応えてくれたこともあった。

 2人のやり取りを見たからなのか、動画に付くコメント数が増えた。最近では、必ず5件以上のコメントがある。気が付くとフォロワー数が50人を超えていた。当然だ。本当に上手いのだ。声も良いし、一生懸命さが伝わってくる。一度聴けば、過去の動画が見たくなる。過去の動画を見れば、明日の動画を待つようになる。埋もれるような人ではない。見付かりさえすれば、必ずバズる。あとは、いつになるかだけだと思っている。
 無意識のうちに、フォロワー数も30人に満たない自分のSNSで宣伝していた。

 初めて動画を見た日から3週間。
 タロウが珍しく夜ではなく昼間に動画をUPした。それは、初LIVE配信の告知だった。初めて耳にする歌声以外の声。その声音と口調から、20歳前後の若い女性のものだと思われた。
「今日の20時からLIVE配信をするので、よろしくお願いします!!」
 言葉選びとは違い、まったく媚びない態度。それで良いと思う。もし、音楽で生きていこうと本気で思っているのいであれば、聴く側に媚びる必要はない。残る人は求められるものだ。迎合する必要はない。普通にしていれば、それを求める人が集ってくる。もし、誰も集らないのであれば、そこまでということだ。

 でも、大丈夫だ。


 19時50分。
 全ての用事を済ませ、手が届く範囲に夕食と飲み物を置いて時間を待つ。
 19時55分。
 配信サイトにアクセスし、動画を流し見る。毎日のように動画をチェックしているが、未だにタロウに匹敵するような配信者には出会っていない。現在フォローしている数少ない配信者の中には、同じように2桁のフォロワーしかいない時に応援し始めた人もいる。その中に、今ではアニメの主題歌を歌い、フォロワー数が10万人を超えている人もいる。その人の歌を初めて聴いたときも同じような衝撃を受けた記憶があるが、それでもこれ程ではなかった。
 20時ジャスト。
 通知欄にマークが付き、フォローをしている人のLIVE配信が始まったことを知らせてくる。
 この時間帯にLIVEを開始する人は多いが、今日は間違いなくタロウの初ライブの知らせだ。確認するとやはりタロウの名前に配信中の表示が追加されていた。

「よし!!」
 まるで、人気アーティストのチケット争奪戦に参加するような気合を入れる。
 スマートフォンの画面をタップし、タロウの配信に向かった。
 画面上には、ジャージ姿の配信者の首から下だけが映っていた。いつものように、いつもの角度で、ギターをぶらさげて。ただ、いつもは違う素の声で、「大丈夫かな?」「映ってるかな?」と喋っていることだ。

 画面上に「七氏さんが参加しました」と表示される。
 参加者が1名になった。