電池の残量が3パーセントと赤く表示されている。
スマートフォンを手にしたまま寝落ちとか、一体いつぶりだろうか。画面の左上に8:47の文字が表示されている。すごく寝たような気がしていたけれど、6時間程度しか眠っていなかった。
土曜日である今日は、ゆっくり休みたかったため何の用事も入れなかった。そのため、この時間から無理をして起きる必要はない。それでも、遅くまでベッドに寝転んでいることが罪のような気がして、モソモソと布団から這い出す。そして、今にも電池切れになりそうなスマートフォンを、フローリングの床に転がっている充電器に差し込んだ。
洗面台でザバザバと顔を洗い、着ていたジャージをドラム式全自動洗濯機に投げ込んでスイッチを入れる。貯金が空になってしまったけれど、買って良かったと納得できる家電だ。
大きく背伸びをして、洗濯機の側に置いていた別のジャージに袖を通す。グレーからグレーへ。メーカーが違うくらいで似たようなモデルだ。部屋着もパジャマもジャージ。これが一番楽で良い。スウェットにしていたこともあったが、真冬や雨の日にはスッキリと乾かないためやめた。
少し広めの1LDKの賃貸マンションは、男1人では少し広い感じもする。しかし、ベッドや家電、荷物を置くことを考えると、ワンルームだとスペースが足りない。そのため、仕方なく少し高い家賃を支払って、ここに住んでいる。
リビングダイニングに向かい、いつものように冷蔵庫から天然水のペットボトルを取り出す。冷えた水を一気に3分の1ほど飲み、食卓兼作業机の前に腰を下ろした。「ふう」と大きく息を吐き出し、帰宅途中に立ち寄ったコンビニで購入しておいたクロワッサンを手に取る。今朝のニュースを確認しようとして、手元にスマートフォンが無いことに気付いた。
「35パーセントか。急速充電って、マジ急速なんだな」
当たり前の感想を呟いて、ニヤリと口元が緩む。
充電器をコンセントから引き抜き、再びリビングダイニングの方に移動する。移動とはいっても、ほんの2メートルほどの距離しかない。3メートルの長いコードを買えば、家中どこにいてもそれ1つで済んでしまいそうだ。
「行儀が悪い」なんて注意する人もいないため、左手でクロワッサンを持ち、右手でスマートフォンを操作する。メインニュースをチェックして、地方、スポーツと流し読み、最後に天気予報を確認して終了した。
特に気になる事件は起きていない。政治だの国際問題だの以前はまったく気にしていなかったが、こうも物価が上がって生き難くなると嫌でも世界情勢が気になってくる。そこから地元の事件やイベントを確認し、一応スポーツ関連の情報も入手する。そして、最後に天気予報のチェックを入念に行う。移動時間にも影響があるため、毎朝の必須確認事項である。ただ、今日はどこにも行く予定がないため、気温や天候の変化を気にする必要はないのではあるが。
当然のように、数十分で時間を持て余すようになる。
テレビには面白い番組が無い。
昔はもっと面白かった気がする。しかし、現在は放送協会や、聞いたこともない団体等が騒ぎ立てるため、人権問題に過剰反応をするテレビ局の番組製作は牙を抜かれてしまった。心躍る番組は消え失せた。最近はニュース番組しか見てない気がする。
―――――テレビはもういいや。
と、ネットの世界に移動する。
時間を消費するために、配信サイトにアクセスする。
正直、LIVE配信は面倒臭い。たまに、ボーっとゲーム配信を眺めていることもあるが、思考に耽っているときのBGMに近い。
「・・・ああ、そういえば」
と、寝落ち寸前の記憶を奇跡的に思い出した。しかし、当然のように名前は覚えていない。そもそも、確認することさえしなかった。それでも、視聴履歴という便利機能を利用して寝落ち前に見た動画を探すことにした。
その動画はすぐに見付かった。視聴履歴の一番上にあったからだ。
涼やかな声質。高い歌唱力。心を震わせる声音。
思考がクリアな状態で聴いても、全身に鳥肌が立った。
何年も配信サイトを巡っていると、嫌でも本物と偽者の区別がつくようになる。これは自分が特別だということではなく、大多数の利用者も同じ感覚を持っている思う。好き嫌いではなく、人気が出るかどうかは聴けば分かる。毎日100本として、1年で36500本の動画を見ることになる。見ている、聴いている側の予想はまず外れない。それを踏まえた上で断言する。間違いなく、彼女は売れるサイドの数少ない物だ。
配信者をフォローすることはある。動画だけではなく、LIVE配信を見ることもある。少額ではあるが、金銭の代わりになるアイテムを投げることもある。でも、それは「推している」という訳ではなく、視聴料として支払っている感覚だ。
フォローする人には、自分なりの明確なルールがある。
それは、人気が出る前の人。古参になろうとしている訳ではない。理由は単純だ。楽だから。人が多いと何だか息苦しい。本人以外の何者かがライブチャットを仕切っているとか、まったく意味が分からない。挨拶がどうとか、独自ルールがどうとか、面倒臭くて仕方がない。必死に書き込んでも読まれる前に流される。高額アイテムを投げないとスルーされる。
結局、見ている側も我がままなんだよ。だから、個人的にはルーキー、若しくはそれに近い人。それでいて、心が揺さぶられる歌を聴かせてくれる人を条件にしている。
当然、こんな面倒臭い条件をクリアする人なんて簡単には見付からない。だけど、埋もれている人の中に、間違いなく存在している。共通している特徴は、まず顔出しをしていないこと。そして、いつもジャージなどの服装で動画の撮影を行い、外見で判断されることを考慮していない。ギターは問題無いレベルでは弾くことがきるが、決して上手いとは言えない。
昨夜、の弾き語り動画をUPしていた人物―――――性別はどう考えても女性であるが、名前は「タロウ」。登録は5日前で、UPしている動画数は4件だけ。そのどれもが心を打ち抜く。それでも、現在のフォロワー数は19人。クリックと同時に20人になった。
スマートフォンを手にしたまま寝落ちとか、一体いつぶりだろうか。画面の左上に8:47の文字が表示されている。すごく寝たような気がしていたけれど、6時間程度しか眠っていなかった。
土曜日である今日は、ゆっくり休みたかったため何の用事も入れなかった。そのため、この時間から無理をして起きる必要はない。それでも、遅くまでベッドに寝転んでいることが罪のような気がして、モソモソと布団から這い出す。そして、今にも電池切れになりそうなスマートフォンを、フローリングの床に転がっている充電器に差し込んだ。
洗面台でザバザバと顔を洗い、着ていたジャージをドラム式全自動洗濯機に投げ込んでスイッチを入れる。貯金が空になってしまったけれど、買って良かったと納得できる家電だ。
大きく背伸びをして、洗濯機の側に置いていた別のジャージに袖を通す。グレーからグレーへ。メーカーが違うくらいで似たようなモデルだ。部屋着もパジャマもジャージ。これが一番楽で良い。スウェットにしていたこともあったが、真冬や雨の日にはスッキリと乾かないためやめた。
少し広めの1LDKの賃貸マンションは、男1人では少し広い感じもする。しかし、ベッドや家電、荷物を置くことを考えると、ワンルームだとスペースが足りない。そのため、仕方なく少し高い家賃を支払って、ここに住んでいる。
リビングダイニングに向かい、いつものように冷蔵庫から天然水のペットボトルを取り出す。冷えた水を一気に3分の1ほど飲み、食卓兼作業机の前に腰を下ろした。「ふう」と大きく息を吐き出し、帰宅途中に立ち寄ったコンビニで購入しておいたクロワッサンを手に取る。今朝のニュースを確認しようとして、手元にスマートフォンが無いことに気付いた。
「35パーセントか。急速充電って、マジ急速なんだな」
当たり前の感想を呟いて、ニヤリと口元が緩む。
充電器をコンセントから引き抜き、再びリビングダイニングの方に移動する。移動とはいっても、ほんの2メートルほどの距離しかない。3メートルの長いコードを買えば、家中どこにいてもそれ1つで済んでしまいそうだ。
「行儀が悪い」なんて注意する人もいないため、左手でクロワッサンを持ち、右手でスマートフォンを操作する。メインニュースをチェックして、地方、スポーツと流し読み、最後に天気予報を確認して終了した。
特に気になる事件は起きていない。政治だの国際問題だの以前はまったく気にしていなかったが、こうも物価が上がって生き難くなると嫌でも世界情勢が気になってくる。そこから地元の事件やイベントを確認し、一応スポーツ関連の情報も入手する。そして、最後に天気予報のチェックを入念に行う。移動時間にも影響があるため、毎朝の必須確認事項である。ただ、今日はどこにも行く予定がないため、気温や天候の変化を気にする必要はないのではあるが。
当然のように、数十分で時間を持て余すようになる。
テレビには面白い番組が無い。
昔はもっと面白かった気がする。しかし、現在は放送協会や、聞いたこともない団体等が騒ぎ立てるため、人権問題に過剰反応をするテレビ局の番組製作は牙を抜かれてしまった。心躍る番組は消え失せた。最近はニュース番組しか見てない気がする。
―――――テレビはもういいや。
と、ネットの世界に移動する。
時間を消費するために、配信サイトにアクセスする。
正直、LIVE配信は面倒臭い。たまに、ボーっとゲーム配信を眺めていることもあるが、思考に耽っているときのBGMに近い。
「・・・ああ、そういえば」
と、寝落ち寸前の記憶を奇跡的に思い出した。しかし、当然のように名前は覚えていない。そもそも、確認することさえしなかった。それでも、視聴履歴という便利機能を利用して寝落ち前に見た動画を探すことにした。
その動画はすぐに見付かった。視聴履歴の一番上にあったからだ。
涼やかな声質。高い歌唱力。心を震わせる声音。
思考がクリアな状態で聴いても、全身に鳥肌が立った。
何年も配信サイトを巡っていると、嫌でも本物と偽者の区別がつくようになる。これは自分が特別だということではなく、大多数の利用者も同じ感覚を持っている思う。好き嫌いではなく、人気が出るかどうかは聴けば分かる。毎日100本として、1年で36500本の動画を見ることになる。見ている、聴いている側の予想はまず外れない。それを踏まえた上で断言する。間違いなく、彼女は売れるサイドの数少ない物だ。
配信者をフォローすることはある。動画だけではなく、LIVE配信を見ることもある。少額ではあるが、金銭の代わりになるアイテムを投げることもある。でも、それは「推している」という訳ではなく、視聴料として支払っている感覚だ。
フォローする人には、自分なりの明確なルールがある。
それは、人気が出る前の人。古参になろうとしている訳ではない。理由は単純だ。楽だから。人が多いと何だか息苦しい。本人以外の何者かがライブチャットを仕切っているとか、まったく意味が分からない。挨拶がどうとか、独自ルールがどうとか、面倒臭くて仕方がない。必死に書き込んでも読まれる前に流される。高額アイテムを投げないとスルーされる。
結局、見ている側も我がままなんだよ。だから、個人的にはルーキー、若しくはそれに近い人。それでいて、心が揺さぶられる歌を聴かせてくれる人を条件にしている。
当然、こんな面倒臭い条件をクリアする人なんて簡単には見付からない。だけど、埋もれている人の中に、間違いなく存在している。共通している特徴は、まず顔出しをしていないこと。そして、いつもジャージなどの服装で動画の撮影を行い、外見で判断されることを考慮していない。ギターは問題無いレベルでは弾くことがきるが、決して上手いとは言えない。
昨夜、の弾き語り動画をUPしていた人物―――――性別はどう考えても女性であるが、名前は「タロウ」。登録は5日前で、UPしている動画数は4件だけ。そのどれもが心を打ち抜く。それでも、現在のフォロワー数は19人。クリックと同時に20人になった。



