俺にだけ注文の多い客から逃げられない

 学校というものは大抵騒がしいものだ。陽キャたちが休み時間中に群がってピーチクパーチク何も無いのに盛り上がっている。
 しかし今日は、いつもよりも喧騒としていた。あまりの騒がしさに生徒らの会話に聞き耳を立てる。
 
「高瀬くん、文化祭の劇で王子役なんだって!」
「うっそ、リアル王子じゃん!そういうのやってくれなさそうなのに意外なんだけど」
「クラスの投票で決めたんだって」
「じゃあ高瀬くんに決まってんじゃん」
 
 聞き覚えしかない名前にピクリと肩を揺らす。
 文化祭。そういえばそんな季節か。はぁ、嫌だなぁ。どこに行ってもキラキラしたリア充が湧いていて俺みたいな日陰者の居場所は無い。今日も総合の時間では文化祭の話し合いで、どんな出し物をするか盛り上がっていた。その浮つく空気の中、俺は一人鬱々としていた。原因はただ一つ。文化祭実行委員に選ばれてしまったからだ。
 文化祭実行委員なんて面倒なことしかない。企画立案、物品手配、警備など面倒な仕事ばかり。ただでさえ嫌なのに、更に陰キャにとって地獄なことはクラスで出し物案をまとめること。人前に出る機会の無い俺にとっては嫌すぎる仕事だ。俺が頼りなさすぎて、ほとんど相方の女子に任せてしまったけどさ……。
 
 そんな俺に比べて、雅は劇で王子様ですか。流石ですね。不貞腐れながら机に突っ伏していると、盛り上がっていた女子たちが突然きゃあっと悲鳴をあげた。
 
「タロ、行こう」
 
 噂の男が登場してきた。雅の額には珍しく汗が滲んでいる。いつもはお昼休憩になってすぐに雅が現れるから待つこともなかったが、今日はやけに遅かった。もしかして文化祭が関係しているのだろうか。
 塩谷も同じ疑問を抱いたのか、雅へ問い掛けた。
 
「今日はやけに遅かったですな。何かありましたか」
「文化祭の件で女子に捕まってた」
「なるほど。モテ男は拙者らと世界が違いますなぁ」
 
 遠い目で塩谷は雅を見つめる。俺も塩谷と同じ視線を送ると、雅は口を尖らせた。
 まあ、雅は余りモテても嬉しくないか。好きな子に一途っぽいから。こんなにイケメンでモテモテで更に一途って女子の理想を詰め合わせたような男である。
 
 ご飯を食べていると、雅はふと思い出したように俺を見た。
 
「そういえば、タロはなにかするの?」

 雅の言葉に肩を落とす。雅や塩谷との会話で少し忘れかけていたが、俺も仕事があるんだった。
 憂鬱過ぎて口が上手く開かない。なかなか言葉を発さない俺の代わりに塩谷が言ってくれた。
 
「なんと、冴木氏は文化祭実行委員をするんですぞ!」

 塩谷の言葉に雅は目を見開いた。それもそうだ。本来陽キャがやるような実行委員を全く無縁の俺がするとは思いもしないだろう。精々俺がしそうなことといえば飾り付けとか皿洗いとか地味な作業だ。
 
「タロが自分からなったの?」
「いや、クラスのくじ引きで当たっちゃって……俺、向いてないし知り合いもいないし」

 不安で思わず声が徐々に小さくなる。なんでこんなところでくじ運を発揮してしまったのか。
 大きなため息が零れてしまう。塩谷は励ましてくれるが、全くやる気が湧かない。そんな中、雅は口を閉ざしたままじっと箸を止めていた。普段ならば何かしら雅を気にかけたかもしれないが、文化祭実行委員のことで頭がいっぱいな俺は全く雅のことなど気にしていなかった。
 
 放課後。普段ならばバイトをするか家へ帰るかの二択しかないが、文化祭まで暫くの間は週一で実行委員で集まって打ち合わせをしなければならないらしい。はあ、憂鬱過ぎる。知り合いも全然いないし全員パーリーピーポーとか俺だけアウェイ過ぎる。
 
 早速多目的室へ移動し、扉を開けると、熱気が顔に当たる。もう多くの生徒が輪になって楽しそうに話している。やはり皆顔面偏差値が高い。俺は存在感を消して、人の少ない前列の席へひっそりと腰掛けた。机に突っ伏し教師が現れることを待っていると、背中をトントンと叩かれる。もしかして、他の席に移動して欲しい生徒だろうか。ここのポジションを譲りたくないのに……。
 嫌々顔を上げると、なんと雅がいた。
 
「タロ、眠いの?」
「えっ、な、なんでここに」
「俺も実行委員になった」
 
 まさかの言葉に目を剥いた。
 
「雅も選ばれたの?」
「ううん、代わってもらった」

 ええ、なんで?わざわざ面倒な実行委員に自らなるなんて変わった男だ。もしかして俺が実行委員で不安になってたから?いや、自意識過剰かな……。
 そのまま雅と話していると、先生が現れて教室のざわめきは静まる。
 
「じゃあ時間になったので委員長、よろしく」
「はい。三年の嶋崎です。まずは自己紹介からお願いします。前列の右端の席の生徒からよろしくお願いします」
 
 えっ、自己紹介!?ぼーっと先生と委員長の会話を聞き流していると、突如最悪な単語が聞こえた。しかも前列の右端って俺だ。頭が真っ白になりかけたが、慌てて席を立ち口を開いた。
 
「えっと、二年の冴木です。よろしくお願いします」
 
 パチパチとまばらに拍手が起きる。心臓が胸の中で暴れているが、終わってほっと一息つく。席に座ると隣にいた雅は笑みを浮かべ、小声で「良かった」と囁いてきた。吐息が耳に触れて再び心臓が大きく跳ねた。それを悟られないように俺は平然を装って頷いた。だが、かえっておかしな顔をしてたのか、雅はふっと笑った。
 その後も生徒が一人ずつ挨拶していき、同じような反応をしていたが、やはり雅の自己紹介だけ一際拍手が大きく女子から声援があった。こいつはアイドルか。
 
 全員の自己紹介が終わり、次に文化祭の段取りについて説明された。委員長がホワイトボードに役割を書いていき、その中で希望の役割を選ぶらしいが、どれも人と関わる仕事しかない。
 会計ならあんまり人と関わらないだろうけどそんな難しそうな役割は向いてないし、広報なんて以ての外。無難なのは、物品とかかな。
 
「次、物品に希望する人は手を挙げてください」
 
 委員長の言葉に手を挙げる。すると、同時に雅とその他大人数が手を挙げた。え、多すぎだろ!こんな人気になるはずの役割じゃないしおかしい!明らかに委員長と先生も動揺している。
 
「えー、多数希望者が出ているため、くじ引きで決めます」
 
 委員長と先生がくじを準備しているのを横目で見ながら、額に冷たい汗が滲んだ。
 
 ま、まずい。他の役割なんてしたくないし、一体何になるんだろう。固唾を呑んで待つと、くじがついに準備が出来たようで、委員長はくじを引いていき、ホワイトボードに書き出していく。
 
 頼む。俺の名前を書いてくれ。祈りながらその様子を見つめていると、なんと序盤に俺の名前が書かれた。良かった!ほっと一息つくと、雅の名前も書かれた。
 その瞬間、思わず口角が上がり雅の方を見る。雅もこちらを見て、目を見開いた。かと思えば、口元を手で抑えてそのまま目を逸らす。……え、俺そんな変な顔してた?
 
 その後もくじ引きは続き、各役割が決まっていく。決定後、役割毎で別れ、打ち合わせを始める。三年の先輩がまとめてくれたおかげで助かったが、ほとんどの生徒はチラチラと雅の姿を見て全然集中していない。流石にこれには先輩も不味いと感じたのか、ペアで別れて仕事することになり俺と雅はペアになった。
 
 それぞれのペアが各クラスに必要な備品をアンケートで聞きに行く。俺達の担当は同じ二年のクラスである。人と関わりが少なそうだと思ったのに、早速社交的じゃないとダメな仕事だ。まあ雅がいるからまだ大丈夫だろう。だが俺の思いとは裏腹に、雅がいることによって大変なことになってしまった。
 
「すみません、文化祭実行委員のアンケートなんですけど」
 
 雅が教室の入口でそう話しかけただけなのに、まるで嵐のような騒ぎになる。俺たちは慌ててアンケートを置き、逃げるように別のクラスへ移動した。
 
「す、凄い……雅ってほんと人気者なんだ」
「さあ」

 雅はそっけなく肩を竦める。けれど、さっきの教室で女子たちに囲まれていた様子を思い出すと、とても「さあ」で済む話ではない。
 
「次はまだ静かだよ」
「どうして?」
「俺のクラスだから」
 
 なるほど。もう既に雅に耐性がついている人しかいないからか。特進科の方へ行く機会はなく、初めてそっちの棟へ行く。少し緊張しながらも訪れたが、雅が教室の中に声をかけても今までのような騒ぎは起こらず平然と生徒が近付いてきた。明るい腰まで伸びた茶髪が、歩くたびに揺れる。
 
「雅、どしたの?」
「文化祭のアンケート、配っといて」
「おけ。あ、太郎くんじゃん!やほー」
 
 琥珀色の瞳に俺が映る。完全に二人の世界だと思い込み、空気に溶け込んでいたが突然自分も呼び出されて驚く。やけに親しげに話しかけてきたが、特進科の人なんて全く接点がない。
 
 糸を手繰るように過去の記憶を辿っていると、ふと思い出した。初めて雅と電車で会った日、雅と一緒にいた美怜(みれい)みたいな名前の子だ。思い出して慌てて頭を下げると、目の前の彼女は気にしていないのか、目を細めて楽しそうに笑う。
 
「ウケる。相変わらず雅と仲良いね。てか雅、台本合わせいつからする?今日も忙しいの?」
「あー、明日の放課後とかなら」

 台本合わせって何の話だろうか。よくわからず固まっている俺に気づいた美怜さんは説明してくれた。
 
「美怜のクラス、劇やるんだけどさ、雅が王子で美怜が姫なの。決まった日から文化祭で着る衣装SHAINで探しててさぁ、太郎くんはどれがいい?」
 
 そう言ってジャラジャラとストラップが着いているギャルっぽいスマホを近付けてきた。
 スマホには淡い桃色のドレスとミント色のドレスが映っていた。幾重にも重なったフリルに、レースの肩紐。まるで童話のお姫様のような衣装だ。
 もう一つのミント色のドレスも、胸元に大きなリボンが映えて、可愛らしい印象を与えている。
 
 どっちも可愛いけど、ピンクか?可愛い感じだし。
 
「ぴ、ピンクで」
「マジ?美怜もピンク良いなーって思ってたんだよね。じゃあピンク買おっと。雅に聞いても「どうでもいい」しか言わないからガチで頼りにならなくてさぁ」
 
 美怜さんはムッと頬を膨らませる。確かに雅は興味無さそうだ。俺も正直服のことなんてさっぱり分からないからなんとなく直感で選んだだけだ。まあ、彼女の好みなら良かった。
 
「美怜、もう行くから」
「あ、そっか。じゃあ二人ともまたねー」
 
 ヒラリと手を振る美怜さんに俺たちも手を振って別れた。
 
 その後も、なんとかアンケートを配り続け、無事全て配り終えた。最後のクラスを出ると、廊下はすっかり夕焼け色に照らされていた。
 
「やっと終わった……」
「お疲れ」
「雅もお疲れ。てかほとんど雅に話してもらったしごめん」

 そう謝ると、雅は少し視線を落とし、首を振った。
 
「タロと一緒にいれるし別に。これから一緒に帰れないからさ、実行委員になって正解だった」
「え」
 
 突然落とされた爆弾のような発言。俺は唖然と口を開けたまま硬直してしまった。
 もう一緒に帰れないって、どういうこと?汗が頬を伝い、凍てついたように体が動かない。
 
「劇の練習があるから放課後も朝も時間合わなくなるんだ。本当はタロといたいけど」
「……そ、そっか。頑張って」
 
 理由を聞いた直後、全身の力が抜けた。それと同時に、自分がここまで雅といることに固執していたことに衝撃を受ける。
 その後も衝撃が抜けず、雅の話は右から左に流れていく。暫く一緒に帰れないから、今が大事な時間だというのに。
 


 雅といる時間は驚くほど減った。劇の練習が始まり、朝と放課後は会わないし、昼食の時間にたまに顔を合わせるくらいだ。
 雅は劇の主演だから出番も多く衣装合わせもある。それに加えて実行委員もしているから、かなり忙しそうだ。
 
 だから、俺は少しでも雅の力になれるように、雅には内緒で実行委員の仕事を代わりに引き受けている。流石にこの状態の雅に更に仕事を押し付けるような真似はできない。
 
「冴木さん、これよろしくお願いね」
 
 そうして今日も先生から雑務を押し付けられた。最初は雅の代わりにしてただけなのに、雑用を断らない使い勝手の良い男だと思われてポンポン仕事を渡してくる。
 くそ、と内心悪態を吐きながらも、断れない俺は相変わらず一人で資料を倉庫へ運んだ。
 
 廊下を歩いていると、特進科のクラスプレートが視界に映る。無意識に教室の中を見ると、雅の姿と、ティアラを付けた美怜さんの姿が目に留まる。二人とも相変わらず顔面偏差値が高い。そこだけ青春映画のような雰囲気が漂っている。
 すると、同じように廊下から二人を眺める生徒たちの声が後ろから聞こえた。
 
「高瀬王子ほんとイケメン。付き合いたーい」
「わかるー。でも美怜ちゃんと付き合ってるみたいな話なかった?」
「そんなことないよ!恋人いるって聞いてないし」
「でも劇の時美怜ちゃんが相手なら黙って頷いてたんでしょ。他は嫌々言ってたのにさぁ、それって好きってことじゃん」
 
 足が止まった。すぐ後ろにいるはずなのに、彼女らの会話が音が遠くなる。耳鳴りのような砂嵐が鼓膜に響いた。
 
 呆然と立ち尽くす俺の様子に対して後ろの女子たちが戸惑っている。声をかけられてようやく意識を取り戻した。
 俺は慌てて頭を下げて倉庫に駆け込んだ。扉を閉めると、荒い息だけが静かな部屋に響く。壁に項垂れて、大きく息を吐いた。
 
「……お似合い、だよな。まあ、元々俺と住む世界違うし?今までがおかしかっただけだし」
 
 まるで自分に言い聞かせるような独り言が漏れる。
  
 そうだ。今までがおかしかった。雅の周りは輝いている人ばかりで俺みたいな奴がいるのが異常だ。
 だが、雅の隣にいるのがいつからか日常に変わっていた。まるで自分が雅の特別になったような幻覚に浸っていた。

 耳障りな鼓動が鼓膜を揺らす。
 どうして俺はいつも付け上がってしまうんだろ。俺は日陰で生きるべき人間なのに、自分も日向に行きたいなんて。胸元をぎゅっと抑え、息を整えてから書類を置いた。
 そして、鈍い足取りでバイトへ向かった。


 雅や美怜さんのこと、今は何も考えたくなくて、とにかく無心でバイトをこなす。しかし、思わぬイレギュラーが発生した。
 
「よっ」
 
 誠はカウンター越しに笑みを浮かべる。まるで悪戯が成功した子供のように。
 
「な、なんでここに」
「マッツ食いたくなったし、ちょっと話したくてさ。今日は雅いねえの?」
「いないよ」
「そっか。ちょうど良かったかも。バイト終わったら一緒に家帰ろうぜ」
 
 本音を言うなら、今日くらい一人で帰りたかった。雅のことで心が霧のように沈み、頭を冷ましたい。だが断りにくく、渋々頷いた。
 
 閉店時間になり、俺は一人で座っている誠の元へ近寄った。誠もちょうどジュースを飲み終わったようで、ゴミ箱へ放り込む。
 
「お疲れ、帰ろうぜ」
「うん」
 
 いつもは雅と歩いている道。隣にいるのは全く違う誠で新鮮だ。新しい話題をポンポン出してきてケラケラ笑う賑やかな誠。普段なら誠の話を聞けば笑みが溢れるだろうが、胸の奥に黒い澱が溜まっていくばかり。
 
「太郎、疲れた?なんかあった?」

 誠は心配そうに俺の顔を覗く。俺は慌てて首を振った。

「ご、ごめん。何も無い」
「……俺、鈍感だからさぁ、あんまり気づいてやれねえんだ」
 
 誠の瞳が揺れる。どこか遠くを見るような目に、俺は目を瞬く。そして誠はゆっくり口を開いた。

「あの時も、太郎が辛い思いしてるって全然気付かなくてさ、ごめん」
「あの時って……」
「中学の時さ、聞いてただろ。アイツらの話」
 
 深く言われなくても、あの日の記憶が鮮明に蘇る。
 誠はすっかり忘れていると思っていた。だから改めて謝罪されるなんて思ってもいなかった。
 
「アイツらにはあの後怒ったけどさ、太郎が嫌だったっていう気持ちは変わんねえもんな。それに、陰口だけじゃなくて太郎に色々嫌がらせとかもしてたみたいだし」
 
 ほんと、ごめん。そう誠は謝り深く頭を下げた。重い沈黙に包まれる。俺は頭が真っ白になって立ち尽くした。
 
 悪いのは誠ではない。誠に釣り合わないからと陰口を言ったり、物を隠したり、約束を破ってきたアイツらだ。そして釣り合わないのに一緒にいた俺。
 だから、誠は何も悪くない。
 
「誠は何も悪くないって。頭上げてよ」
「いやでも全然気づいてやれなかったし。それにその後なんて声掛けたらいいか分かんなくて、しかも太郎と話そうとしてもなんかタイミング合わねえし」
 
 ぎくり、と肩が揺れる。それはきっと俺が避けてたからだろう。
 
「俺だって、あの日陰口言われるまで嫌がらせってことも気付いてなかったんだ。物が無くなってたのも、約束してたのに誰も来ないのも、全部俺の勘違いとかだと思ってた」

 最初はシャーペンや消しゴム等の文房具が消えていた。どこかで無くしていたのかと思っていた。「みんなで遊びに行くから来て」と言われた場所に行っても、誰も来なかったこともあった。俺が間違ったと思っていた。
 あの日陰口を聞いてやっと今までの出来事が嫌がらせだということに気付いた。だから、鈍感なのは俺だ。
 
 しかし、誠の顔は晴れなかった。深く項垂れ、後悔を吐き出すように大声で嘆いた。
 
「あー、もっと早く気づけば良かったのに、ほんとごめん!」
「良いって。最近まで本当は気にしてたんだけど、雅に会ったくらいからもう気にしてないんだ」
「そっか。それなら良いけどさ。雅は?今日いねえけど喧嘩したのか?なんか嫌なこと言われたら今度は助けるから!」
 
 大袈裟な誠の様子に思わず笑みが零れる。
 
「雅は大丈夫。むしろ、俺と話すのが楽しいって言ってくれてさ……だから雅とは大丈夫」
 
 そう伝えると、誠はいつもの太陽のような笑顔に戻った。
 
「そっか、確かに太郎って雅といる時いつもなんか嬉しそうだもんな」
「そ、そう?」
「うん。二人いつも一緒だし」
「確かに。最近は文化祭でバタバタしててあんまり会えないけど」
 
 胸がチクリと痛む。少し会えないだけでこんなに気分が落ち込むなんて、変だ。でも、それだけ雅が俺にとって大きな存在だったんだ。
 誠はらしくない俺の様子にニッと目を細めた。
 
「もしかして寂しい?」
「……そうかも。なんか俺以外といる方が楽しそうに見えて、俺ばっかり雅と話してるのが嬉しいと思ってるのかもなって」
「でも太郎と話すの楽しいって言ってたんだろ?」

 こくりと頷く。確かに、言っていた。雅は嘘をつくようには見えないし、それはきっと本心だ。だけど、雅の周りには他に沢山の魅力的な人がいる。
 思わず弱音を零した。

「俺ばっかり雅のこと好きみたい」
 
 そう呟いた瞬間、ぼとりと何かが落ちる音が背後から聞こえた。
 誠との会話が途切れる。振り返ると、そこには顔を紅潮させた雅と、足元には鞄が転がっていた。
 
「な、何でここに!?」
 
 思わず口元を手で抑え、目を見開く。
 まさか本人に聞かれたなんて。顔が沸騰したみたいに熱い。きっと今の俺は雅から伝染したように顔が真っ赤だろう。
 雅は鞄を拾い上げて、決まり悪そうに話した。
 
「学校から帰ったらたまたま二人の姿を見かけて、何話してるのか気になって後ろで歩いてた」
「ど、どこまで聞いて……」
「誠が謝ってるあたり」
 
 結構序盤!
 俺の過去の話とか諸々も聞かれたってことか?最悪すぎる。今すぐここから消えたい。衝撃で足がふらつき崩れそうになる。だが、雅が俺の背に腕を回して体を引き寄せた。体は無事だったが、鼻が触れそうなほど近距離に雅の顔があって息を呑む。
 
「タロ、俺の方がタロのことが好きだから安心して」
「わ、分かった。さっきの全部忘れて!」
「それは無理。タロに嫌な思いをさせた奴らの名前も教えてもらわないと」

 名前を聞いて何する気だよ!もう終わったことだから全て無かったことにしてくれ。
 そんな鬼気迫る様子の雅をあしらいながら、俺はなんとか家路に着いた。