終電みたいな恋だった

数年後、日曜のある昼下がり。

ようやく寝かしつけた娘の、穏やかな寝息が寝室から聞こえる。

リビングでふと手に取ったスマホのタイムラインに、あの日以来一度も会っていない彼の姿が流れてきた。

「逃げ切れませんでした」なんてコメント、いかにも彼らしかった。

夫は鳴海とは正反対で、堅実で、真面目な人だ。

ときめくことはないけれど、代わりに、日常という絶大な安心感をくれる。

──あの夜。

あれは、たぶん、恋にならない恋だった。

何も始まらなかったからこそ、今でも、こんなふうに綺麗な形のまま思い出せる。

もし出会う順番が違っていたら。そんなことを考えるほど、私は子どもじゃない。

それでも、ふとした夜に思い出してしまう。

私はあの夜、恋を「見送った」。先がないと分かっていたから。

それでも忘れられない──終電みたいな恋だった。