そういえば。新入社員研修の合宿、最終日の夜。
同期数名で部屋飲みをしていたはずが、気づけば一人、また一人と席を立ち、部屋には私と鳴海の二人だけが取り残されていた。
「……もう寝る。自分の部屋に帰る……」
アルコールのせいで火照った顔を隠すようにソファから立ち上がった私に、鳴海がとんでもないことを言い出した。
「膝枕してよ」
「はあ? やだよ、バカじゃないの」
即答すると、彼は「だと思った」と愉快そうに笑った。
「じゃあさ、クッション越しならいい? 直接じゃないならセーフでしょ」
結局、私は折れてソファに座り直し、太腿の上にクッションを乗せた。彼は躊躇なく、そこに自分の頭を預けてくる。
「……重いんだけど」
「嘘つけ。全然軽いでしょ」
「距離感バグってるよな~」
「どっちがよ」
鳴海は目を閉じたまま、小さく笑った。なぜかそのとき、心臓の音が、耳元でやけに大きく聞こえた。
今思い返すと、あの夜の私たちの距離は――少しだけ、普通じゃなかったのかもしれない。
***
私が会社を辞めることになったのは、婚約者の転勤が決まったからだった。
送別会の居酒屋を抜け出した私は、店の前で鳴海に出くわした。
「あれ? 主役がもう帰るの? 早くない?」
「二次会は断ったの。結婚式の準備で忙しいし」
「そっか」
「そっちは?」
「彼女とちょっと揉めて電話してた〜」
私は呆れて笑った。
「ほんと懲りないのね」
「付き合うのって、むずかしいよな~」
その言い方が、少しだけ、いつもの彼らしくなくて引っかかった。
「……ちょっとだけ、飲む?」
このまま駅へ向かえば、何も変わらない。そう分かっていたのに、この夜を終わらせることができなかった。
同期数名で部屋飲みをしていたはずが、気づけば一人、また一人と席を立ち、部屋には私と鳴海の二人だけが取り残されていた。
「……もう寝る。自分の部屋に帰る……」
アルコールのせいで火照った顔を隠すようにソファから立ち上がった私に、鳴海がとんでもないことを言い出した。
「膝枕してよ」
「はあ? やだよ、バカじゃないの」
即答すると、彼は「だと思った」と愉快そうに笑った。
「じゃあさ、クッション越しならいい? 直接じゃないならセーフでしょ」
結局、私は折れてソファに座り直し、太腿の上にクッションを乗せた。彼は躊躇なく、そこに自分の頭を預けてくる。
「……重いんだけど」
「嘘つけ。全然軽いでしょ」
「距離感バグってるよな~」
「どっちがよ」
鳴海は目を閉じたまま、小さく笑った。なぜかそのとき、心臓の音が、耳元でやけに大きく聞こえた。
今思い返すと、あの夜の私たちの距離は――少しだけ、普通じゃなかったのかもしれない。
***
私が会社を辞めることになったのは、婚約者の転勤が決まったからだった。
送別会の居酒屋を抜け出した私は、店の前で鳴海に出くわした。
「あれ? 主役がもう帰るの? 早くない?」
「二次会は断ったの。結婚式の準備で忙しいし」
「そっか」
「そっちは?」
「彼女とちょっと揉めて電話してた〜」
私は呆れて笑った。
「ほんと懲りないのね」
「付き合うのって、むずかしいよな~」
その言い方が、少しだけ、いつもの彼らしくなくて引っかかった。
「……ちょっとだけ、飲む?」
このまま駅へ向かえば、何も変わらない。そう分かっていたのに、この夜を終わらせることができなかった。
