終電みたいな恋だった

私は、自他共に認める運転下手だ。 狭い駐車場では何度もバンパーを擦り、ブレーキをかけるタイミングがずれて、車を大きく揺らしてしまう。

その点、鳴海の運転にはいつも驚かされる。

流れるようなハンドルさばきや、衝撃を一切感じさせない繊細な指先のコントロール。

その長い指先が、女性にも同じだけの繊細さと、確信を持って触れているであろうことを、私は嫌でも想像させられた。

相手が何を求めていて、どう扱えば心地よいか。彼はそれを、本能的に、あるいは数え切れない経験から知り尽くしているのだ。

営業先から会社に帰る途中。

助手席の私は、気づいたときにはシートベルトに思い切り寄りかかり、情けないことに口の端にうっすらとよだれを垂らしながら眠りこけていた。

鳴海の前で、よりによってこんな姿をさらすなんて、一生の不覚だ。

「……なによ」

目を開けると、すぐ隣、至近距離に鳴海の顔があった。

エンジンが止まった車内は、静かだ。

「爆睡してたからバカにしてるの? それとも、途中で運転代わるって言ったのに寝たこと、怒ってるの?」

慌てて口元を拭い、精一杯の虚勢を張った。けれど、鳴海は伸ばしかけていた手を自分の膝に戻した。

「いや」

「……?」

「寝顔、初めて見た。……かわいいなって、思ってただけ」

独り言のような小さな声だった。

私は逃げるようにドアを開いた。

「…… な、なにそれ。意味わかんない。ほら、早く戻って報告書、書かないと」