終電みたいな恋だった

「鳴海、香水変えた? また別の女?」

エレベーターで二人きりになった朝。甘すぎる香りに眉を寄せると、彼は欠伸まじりに答えた。

「紗瑛は鼻が利くね~。そんなんじゃ彼氏が浮気したらすぐバレそう」

「私はもともと、浮気しない人としか付き合ってないから。余計なお世話よ」

鳴海は昨日、逆ナンしてきた子の家に泊まって、そのまま会社に来たらしい。

「あんた、いつか刺されて死ぬわよ」

女の影が絶えないわりに、不思議とトラブルにならないのが余計に鼻につく。

「そうならないように、紗瑛が彼女になってよ〜」

「女の敵のあんたと付き合うわけないでしょ!」

軽口を叩きながらも、私はどこかで思っていた。

――もったいない。本気を出せばもっと上を目指せるのに。どうしてこんな適当な生き方をしているんだろう。

「……あ、第二ボタン開いてる。まったくだらしないんだから」

私が指差すと、鳴海は「え、マジ?」と私に近づき、無防備に首元を差し出してきた。

「じゃあ、とめてよ」

一瞬、彼の少し汗ばんだ鎖骨が視界をよぎり、心臓が跳ねる。

「はあ? それくらい自分でやりなさいよ。……ほら、もう着いた」

階数表示が変わる。扉が開いた先は、いつもの慌ただしいオフィスだった。

「おまえ、ほんと俺の姉ちゃんみたい」

鳴海は肩を揺らして笑った。

同期って便利な言葉だ。興味がないなら、放っておけばよかったのに。後で思い返すと、私は彼にばかり「余計な言葉」を使っていた気がする。