夜明けみたいな恋だった


 そこから私たちが正式に付き合うようになるまでに、たいして時間はかからなかった。
 
 デートを計画して誘ってくれるのは毎回流星だった。
 次こそは私が! という気持ちはあったけれど、まごまごしているうちに、流星のほうからまた誘ってくれるからだった。

「いつもいつも流星ばっかりに考えさせてごめんね?」
「何で⁉︎  考えてるとき、めちゃめちゃ楽しいよ!」
「ホントに? 無理してない?」
「こういうの愛莉が好きそうとか、喜びそうとか予想しながら計画立てて、実際に愛莉が楽しんでくれると、よっしゃ! って思う」

 実際に毎回楽しんでいたし、流星の『よっしゃ!』と思った顔が見たい、と強烈に思った。

「忖度じゃなくて、いつもめちゃめちゃ楽しんでる! ありがとう」
「よっしゃー‼︎」

 流星はとても受け取らせ上手だったのだと思う。
 受け取り下手の私でも、流星といるときだけは受け取り上手になれた──


 そんな流星でも、受け取ってもらえないことはあった。
 その日は、流星プレゼンツの映画デートを終え、電車で帰るところだった。

 休日の夕方。
 それなりに混雑していたけれど、始発駅から乗り込んだため、並んで座ることができていた。

 私が一生懸命映画の感想を語っていた途中で、流星が『ちょっとごめん』と言って遮った。
 そうして立ち上がって、前に立っていた女性に声をかけた。

「座ってください」

 女性は妊娠していた。

「いいえ、もうすぐ降りるので大丈夫です」

 妊婦さんは、吊り革に捕まっていないほうの手を小さく振った。

「……そうですか」

 流星は座り直すと、すぐに私のほうを向き、何事もなかったようにまた会話の続きを促してきた。

「それで?」

 でも、そのほんの一瞬前に流星がガッカリしたのを、私は見逃さなかった。

(遠慮しないで座ってほしかったなあ。そのほうが流星だってうれしかったと思うのに……)

 そう思うと同時に、そう思った自分に驚いた。

(あれ⁉︎!?)

 だって、流星と付き合う前の私なら、遠慮した妊婦さんのほうに共感していたはずだ。
 それどころか、小さい頃の私なんて、好意を遠慮するなんてものじゃない。
 思いっきり無碍にしてきたのだ。

(その私が残念に思うだなんて……)

 伯母さんのヘアゴムやそのほか数々の受け取れなかった好意を思い出す。

(受け取ってたらどうなってたのかな……って、そんなの考えるまでもないじゃない!)

 眼前が開けた気がした──
 

 そんな私たちの終わりは、実にあっけないものだった。
 これといった理由はない。
 進級してクラスが別れたことで、何となく。
 ケンカしたでも、ほかに好きな人ができたでもなく、本当に何となく『友達に戻ろっか』と。
 もしかしたら、受験生になったことも心理的に多少影響したかもしれない。

 大学に進学して以降は、流星とは一度も会っていない。
 その後、私は大学を卒業して、一般企業に就職し、結婚もした──


「あの、もしよかったら……」

 私は電車に揺られていた。
 声のしたほうに視線を向けると、高校生の男の子が座席から腰を浮かそうとしていた。

 そう、私は現在妊娠中なのだ。

「どうもありがとうございます」

 私は笑顔で軽く頭を下げ、ありがたく座らせてもらうことにする。

 男子高校生も会釈を返してくれた。
 そのはにかむ様子の男の子は、流星とは全然似ていない。
 けれど、私に流星のことを思い出させてくれるのだった──


 END