「んっ、ふ…………ん……」
酸素が足りないのは俺たちを包む白い煙のせいなのか、それとも深いキスのせいなのか、頭が回らないからよく分からない。
桧琉は俺の後頭部を手で支え、これまでにない加減のなさで、絶えず唇を食んできた。
「なあ、文世…………」
「っ、ん……」
「ごめん、止まる気しない」
勢いに飲まれて、ふわふわしてくる。俺の桧琉への言葉はちゃんと伝わったんだろうか。いや、伝わったからこうなったのか。完全に桧琉のペースで身をゆだねるしかない俺は、自問自答して納得させた。それに、この行為はまだ終わらなくていい。
「……文世、中入ろう」
珍しく余裕をなくしたような桧琉の表情に、俺は見惚れながら頷いた。
──誰に見られることもないんだから、どうなってしまってもいい。
長いキスののち桧琉の部屋になだれ込みながら、俺はそんなことを思った。きっと今が一番満ち足りている。羞恥心とか少しの不安は、手離した瞬間違う世界へと連れて行ってくれるスイッチだ。
「──文世、平気?」
「うん……」
優しくベッドに押し倒されて、俺はぼうっと桧琉を見上げる。薄暗い空間で、二人きり。再び唇が重なって、ぴちゃぴちゃと水っぽい音を耳が拾うと、どうしてもその先を想像せずにはいられない。
「っ…………」
そして期待を裏切ることなく、桧琉の手は俺の服の下へと潜ってきた。ゆっくりと、長い指が腹を這う感覚に息を呑む。俺はつい、顔を背けてぎゅっと目を瞑った。すると、
「あ…………ごめん文世」
なぜかいきなり桧琉は謝った。
「え?」
「ごめん。ごめんね。こんなことやめるから」
そう言って、さっと俺に触れていた手を退ける桧琉。さっきまでとはまるで様子が違う。急に感情が引っ込んだかのように中断されても、俺は驚いて押し倒された体勢のまま動けなかった。
「……どうした、桧琉」
「忘れてた。オレにこんなことする資格ないんだった」
「は……?」
「文世のことを守りたかったからって、許されることじゃない。犯した罪を忘れちゃいけない」
一体、なんの話をしているのだろう。ついには顔を手で覆ってしまった桧琉を見て、俺は必死に考える。さっき、俺が咄嗟に顔を逸らしたからか? いや、あれは嫌悪ではなく、身体を触られた感覚に対するただの反応で……。
「桧琉? 謝んなくていいよ。俺、別に嫌だったわけじゃ──」
「違う。違うんだ。そうじゃなくて……」
しかし他の理由があるらしい。桧琉は泣いてこそいなかったが、酷く声を震わせていて、その雰囲気を見る限りただ事ではなさそうだ。
俺は頭を巡らせて、一つの言葉を思い出す。
『やりたいことはいっぱいあるけど、今のオレにその資格があるのかは分かんないや』
そういえば、似たようなことを前にも言っていたじゃないか。そのときも様子が変だった。まるで“資格”を失うような取り返しのつかない出来事を、過去の自分が引き起こしたみたいな言い方が、どうにも俺は腑に落ちなかったんだ。
「──桧琉。もしかして俺に何か……隠してる?」
動揺を知られないように、俺は穏やかな口調でそう尋ねた。
「オ、オレ…………文世、を…………」
「俺を?」
桧琉は苦しそうに口を開く。
「文世を、殺しちゃったかもしれない」
酸素が足りないのは俺たちを包む白い煙のせいなのか、それとも深いキスのせいなのか、頭が回らないからよく分からない。
桧琉は俺の後頭部を手で支え、これまでにない加減のなさで、絶えず唇を食んできた。
「なあ、文世…………」
「っ、ん……」
「ごめん、止まる気しない」
勢いに飲まれて、ふわふわしてくる。俺の桧琉への言葉はちゃんと伝わったんだろうか。いや、伝わったからこうなったのか。完全に桧琉のペースで身をゆだねるしかない俺は、自問自答して納得させた。それに、この行為はまだ終わらなくていい。
「……文世、中入ろう」
珍しく余裕をなくしたような桧琉の表情に、俺は見惚れながら頷いた。
──誰に見られることもないんだから、どうなってしまってもいい。
長いキスののち桧琉の部屋になだれ込みながら、俺はそんなことを思った。きっと今が一番満ち足りている。羞恥心とか少しの不安は、手離した瞬間違う世界へと連れて行ってくれるスイッチだ。
「──文世、平気?」
「うん……」
優しくベッドに押し倒されて、俺はぼうっと桧琉を見上げる。薄暗い空間で、二人きり。再び唇が重なって、ぴちゃぴちゃと水っぽい音を耳が拾うと、どうしてもその先を想像せずにはいられない。
「っ…………」
そして期待を裏切ることなく、桧琉の手は俺の服の下へと潜ってきた。ゆっくりと、長い指が腹を這う感覚に息を呑む。俺はつい、顔を背けてぎゅっと目を瞑った。すると、
「あ…………ごめん文世」
なぜかいきなり桧琉は謝った。
「え?」
「ごめん。ごめんね。こんなことやめるから」
そう言って、さっと俺に触れていた手を退ける桧琉。さっきまでとはまるで様子が違う。急に感情が引っ込んだかのように中断されても、俺は驚いて押し倒された体勢のまま動けなかった。
「……どうした、桧琉」
「忘れてた。オレにこんなことする資格ないんだった」
「は……?」
「文世のことを守りたかったからって、許されることじゃない。犯した罪を忘れちゃいけない」
一体、なんの話をしているのだろう。ついには顔を手で覆ってしまった桧琉を見て、俺は必死に考える。さっき、俺が咄嗟に顔を逸らしたからか? いや、あれは嫌悪ではなく、身体を触られた感覚に対するただの反応で……。
「桧琉? 謝んなくていいよ。俺、別に嫌だったわけじゃ──」
「違う。違うんだ。そうじゃなくて……」
しかし他の理由があるらしい。桧琉は泣いてこそいなかったが、酷く声を震わせていて、その雰囲気を見る限りただ事ではなさそうだ。
俺は頭を巡らせて、一つの言葉を思い出す。
『やりたいことはいっぱいあるけど、今のオレにその資格があるのかは分かんないや』
そういえば、似たようなことを前にも言っていたじゃないか。そのときも様子が変だった。まるで“資格”を失うような取り返しのつかない出来事を、過去の自分が引き起こしたみたいな言い方が、どうにも俺は腑に落ちなかったんだ。
「──桧琉。もしかして俺に何か……隠してる?」
動揺を知られないように、俺は穏やかな口調でそう尋ねた。
「オ、オレ…………文世、を…………」
「俺を?」
桧琉は苦しそうに口を開く。
「文世を、殺しちゃったかもしれない」
