下宿に閉じ込められてから時間がどのくらい過ぎ、今が昼なのか夜なのかさえ、もう俺たちには分からない。
止まったままの時計の針。目覚めたときから変わりなく、空間は青みがかって薄暗いだけ。とはいえ誰一人として帰ってこない奇妙さは、何かをしていれば紛らわせる程度だ。
「なあ文世、見ろよあっちの窓。外が真っ白に霧がかってる」
「うん」
「でも霧にしては濃すぎないか? 煙? まじで何にも見えないよ」
「……うん、分かったけど。手止まってるから」
元気が有り余っているのか、桧琉は窓の外を指して活き活きと喋りかけてくる。ガランとした食堂の席に向かい合わせで座る俺たちは、確か勉強中だったはずなんだけどなと俺は思った。
「えーでもさ、せっかく今日は学校サボってるんだしのんびりやろうよ」
「勉強でもしようって言い出したのは桧琉だろ。それに普通に模試が近い」
「まぁそうだけど……だってオレ、文世と勉強会みたいなことしたことないからやってみたかったんだよ」
全くだ。俺は前のめりになって近付いてくる桧琉を制止して、参考書をドンと机の上に置きめくり始めた。すると桧琉は分かりやすくやる気をなくし、腕を枕にして突っ伏してみせる。
「テスト期間ってだけで年に何回もあるのにさー、最近は模試もあるから結局年中テストじゃん……」
「まあ、そうだけど……そういう学校を選んだから仕方ない」
それに、一応高校3年生。受験となれば否応なしに勉強だ。志望校がはっきりしていないこの俺でも、暇さえあればテキストを開く習慣が身に染み付いている。クラスの皆がそうだから、もはや「なぜ勉強するのか」と聞かれても分からない。
「──じゃあ、文世に問題」
「?」
やっと勉強モードに入ったか、と桧琉の方に目線を向ける。
「今は何時何分でしょう」
しかしイタズラな顔でそう言う目の前の男に、俺は思わず呆れ笑いをした。「やっと笑った」と指摘され、なんだか恥ずかしくなって急いで頭を巡らす。
「体感だと結構経った気がするし、夜とか」
「ざっくりだなあ」
「……けど、もう日を跨いでる可能性もあるのか? だとしたら今日は──」
「いや、やめよう」
考えようとしたのに、止められた。「え?」と俺が不思議がっていると、桧琉はニッと口角を上げる。
「何時か分からないなら、そのままにしよう。ずっと6月5日のままだ」
「……」
「ここにいる間は、オレたちの誕生日が続くってこと」
幸せなようで、不気味な話。誕生日は一日で終わるから誕生日なのに、俺はその夢みたいな響きが嫌いじゃない。
止まったままの時計の針。目覚めたときから変わりなく、空間は青みがかって薄暗いだけ。とはいえ誰一人として帰ってこない奇妙さは、何かをしていれば紛らわせる程度だ。
「なあ文世、見ろよあっちの窓。外が真っ白に霧がかってる」
「うん」
「でも霧にしては濃すぎないか? 煙? まじで何にも見えないよ」
「……うん、分かったけど。手止まってるから」
元気が有り余っているのか、桧琉は窓の外を指して活き活きと喋りかけてくる。ガランとした食堂の席に向かい合わせで座る俺たちは、確か勉強中だったはずなんだけどなと俺は思った。
「えーでもさ、せっかく今日は学校サボってるんだしのんびりやろうよ」
「勉強でもしようって言い出したのは桧琉だろ。それに普通に模試が近い」
「まぁそうだけど……だってオレ、文世と勉強会みたいなことしたことないからやってみたかったんだよ」
全くだ。俺は前のめりになって近付いてくる桧琉を制止して、参考書をドンと机の上に置きめくり始めた。すると桧琉は分かりやすくやる気をなくし、腕を枕にして突っ伏してみせる。
「テスト期間ってだけで年に何回もあるのにさー、最近は模試もあるから結局年中テストじゃん……」
「まあ、そうだけど……そういう学校を選んだから仕方ない」
それに、一応高校3年生。受験となれば否応なしに勉強だ。志望校がはっきりしていないこの俺でも、暇さえあればテキストを開く習慣が身に染み付いている。クラスの皆がそうだから、もはや「なぜ勉強するのか」と聞かれても分からない。
「──じゃあ、文世に問題」
「?」
やっと勉強モードに入ったか、と桧琉の方に目線を向ける。
「今は何時何分でしょう」
しかしイタズラな顔でそう言う目の前の男に、俺は思わず呆れ笑いをした。「やっと笑った」と指摘され、なんだか恥ずかしくなって急いで頭を巡らす。
「体感だと結構経った気がするし、夜とか」
「ざっくりだなあ」
「……けど、もう日を跨いでる可能性もあるのか? だとしたら今日は──」
「いや、やめよう」
考えようとしたのに、止められた。「え?」と俺が不思議がっていると、桧琉はニッと口角を上げる。
「何時か分からないなら、そのままにしよう。ずっと6月5日のままだ」
「……」
「ここにいる間は、オレたちの誕生日が続くってこと」
幸せなようで、不気味な話。誕生日は一日で終わるから誕生日なのに、俺はその夢みたいな響きが嫌いじゃない。
