ミッドウェー・バースデー

 来るはずのなかった朝だ。

 俺はゆっくりと体を起こした。下宿の自室、広くはないが整理整頓されたいつも通りの景色。だけど何かが違う気がして、瞼をこすりつつ辺りを見渡す。
 やけに世界が静かだな──そう違和感の正体に俺が気付いた直後、ふいにコンコン、と部屋のドアがノックされた。

「……文世(ふみせ)、いる? まだ寝てる?」

 その声は間違いなく、隣部屋に住むあいつのもの。静寂が破かれ、いきなり自分の名前を呼ばれたことに驚くと同時にほっとした。

「ねえ、嫌じゃなかったら開けてよ」

 嫌じゃなかったら。俺はいつもその言葉に根負けしてしまう。
 立ち上がり、水道の水で口をゆすいでからドアへと向かった。寝間着のまま、とりあえず鍵を開けてやる。そうするとあいつは今日もきっと中に滑り込んできて……。

「よかった。文世はいたんだ」
「……んっ……」

 ほら、こうやって俺が無抵抗であるのを良いことに唇を重ねてくる。
 温かくて、短い。よく分からない台詞と共に降ってきたその感触に瞬きしていると、目の前の黒松桧琉(くろまつかいる)という爽やかな男は俺の顔を見てこう言った。

「おはよう文世。オレたち、18歳になったのかな?」
「……朝が来たってことは、そうなんじゃない」

 本当に変な関係だと思う。近くの高校に通うため暮らしている下宿の隣人同士で、生年月日が偶然一致していて、付き合っているわけでもないのに毎朝キスをする。というかされる。
 一番変なのはそれを黙って受け入れている俺自身だと、薄々分かってはいるけれど。