10
先輩への恋を自覚した翌日、教室に入ると舞香がわたしの顔を見て心配そうに眉を下げた。
「話せること? それなら聞くよ」
押し付けがましくない舞香の優しさに、感情の波が押し寄せてくる。
舞香の肩に真正面から頭を預けて溢した。
「……先輩が、いないの」
わたしは全てを舞香に話すことにした。
舞香は最後まで黙ってわたしの話を聞いてくれて、時々背中をトントンと叩いてくれた。それにホッとした。
「じゃあ、先輩はまだ休んでるってこと?」
「多分……。ノートに返事がないままだから」
「心配だね……」
吐息と共に舞香が呟く。わたしも頷いた。
「……わたし、こんなことになるまで自分の気持ちに気づかなかった。……違うか、気づいてたけど、気づいてないふりしてた」
ぽつりぽつりと気持ちを声に乗せていく。こうやって話すことで、より一層、先輩への気持ちを自覚していく気がした。
舞香がわたしの頭を柔らかく撫でる。その手には優しさが滲んでいて、また涙腺が緩みそうになった。
(昨夜、散々泣いたのに……)
もう泣きたくなんてないのに、舞香の優しさと先輩への心配で、涙が込み上げてくる。零さないようにきゅっと唇を噛んだ。
「そっかあ……、好きになっちゃったか」
舞香のその言葉に、ほろ苦さと確かな熱が胸の奥に仄かな光を灯した。
「……うん。好きになっちゃった」
声に出して応える。するとあんなに「気づかないふり」をしていたはずの恋心を、いとおしく思えた。
「大丈夫だよ、きっと」
根拠はないけどさ、と舞香が続ける。
あれこれ言葉を尽くされなくても、舞香がわたしの心を少しでも軽くしてくれようとしていることが伝わってきた。
わたしも、「うん、信じる」と返す。
信じることしかできないのだから、精一杯、心から信じて待とう、と誓った。
──わたしの祈りが神様に通じたことがわかったのは、三学期最後の日、終業式だった。
体育館で行われた終業式には全校生徒が集まる。わたしは必死になって先輩の姿を探した。
二年一組の列に目を向け、きょろきょろしながら先輩を探す。
(あ……)
先輩はすぐに見つかった。不思議なことに先輩のいる場所だけが、他の場所より明るく光って見えた。
友達に囲まれて先輩は笑っていた。「長いこと休みやがって」と先輩の脇腹を小突いているのは、以前先輩の教室の様子を見に行った時に話しかけてくれた人だった。
全身から力が抜けそうになる。
じわっと視界が滲んだ。溢れそうになった涙を手の甲で拭う。
(……先輩だ……)
風邪、治ったんだ。
よかった。よかった……!
隣で舞香が「どう? いた?」と訊ねてきた。何度も首を縦に振る。舞香もホッとしたように息を吐き、「よかったね、美雨」とわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
式の間中も、ずっと先輩を盗み見た。同じ空間に先輩がいるだけで、気持ちが穏やかになる。
わたしの日常に、先輩が帰ってきてくれた。それだけで、飛び跳ねたくなるくらいに嬉しい。
終業式を終えた後は、それぞれの教室に移動する。
その時、元町先輩と目が合った。
ドキッとして、顔が熱くなって、でも目を逸らせなくて、恋を自覚しただけでこんなにドキドキするのか、と思った。
先輩はちょっと照れたみたいに口元を綻ばせた後、右手で小さく手を振ってくれた。その仕草に左側の胸がときめく。
わたしも同じように手を振った。
ふたりだけの秘密の合図みたいで、心の芯の部分が熱を帯びていく。
明日から春休み。春休みは先輩に会えない。
人生で一番長い春休みになる予感がした。
先輩への恋を自覚した翌日、教室に入ると舞香がわたしの顔を見て心配そうに眉を下げた。
「話せること? それなら聞くよ」
押し付けがましくない舞香の優しさに、感情の波が押し寄せてくる。
舞香の肩に真正面から頭を預けて溢した。
「……先輩が、いないの」
わたしは全てを舞香に話すことにした。
舞香は最後まで黙ってわたしの話を聞いてくれて、時々背中をトントンと叩いてくれた。それにホッとした。
「じゃあ、先輩はまだ休んでるってこと?」
「多分……。ノートに返事がないままだから」
「心配だね……」
吐息と共に舞香が呟く。わたしも頷いた。
「……わたし、こんなことになるまで自分の気持ちに気づかなかった。……違うか、気づいてたけど、気づいてないふりしてた」
ぽつりぽつりと気持ちを声に乗せていく。こうやって話すことで、より一層、先輩への気持ちを自覚していく気がした。
舞香がわたしの頭を柔らかく撫でる。その手には優しさが滲んでいて、また涙腺が緩みそうになった。
(昨夜、散々泣いたのに……)
もう泣きたくなんてないのに、舞香の優しさと先輩への心配で、涙が込み上げてくる。零さないようにきゅっと唇を噛んだ。
「そっかあ……、好きになっちゃったか」
舞香のその言葉に、ほろ苦さと確かな熱が胸の奥に仄かな光を灯した。
「……うん。好きになっちゃった」
声に出して応える。するとあんなに「気づかないふり」をしていたはずの恋心を、いとおしく思えた。
「大丈夫だよ、きっと」
根拠はないけどさ、と舞香が続ける。
あれこれ言葉を尽くされなくても、舞香がわたしの心を少しでも軽くしてくれようとしていることが伝わってきた。
わたしも、「うん、信じる」と返す。
信じることしかできないのだから、精一杯、心から信じて待とう、と誓った。
──わたしの祈りが神様に通じたことがわかったのは、三学期最後の日、終業式だった。
体育館で行われた終業式には全校生徒が集まる。わたしは必死になって先輩の姿を探した。
二年一組の列に目を向け、きょろきょろしながら先輩を探す。
(あ……)
先輩はすぐに見つかった。不思議なことに先輩のいる場所だけが、他の場所より明るく光って見えた。
友達に囲まれて先輩は笑っていた。「長いこと休みやがって」と先輩の脇腹を小突いているのは、以前先輩の教室の様子を見に行った時に話しかけてくれた人だった。
全身から力が抜けそうになる。
じわっと視界が滲んだ。溢れそうになった涙を手の甲で拭う。
(……先輩だ……)
風邪、治ったんだ。
よかった。よかった……!
隣で舞香が「どう? いた?」と訊ねてきた。何度も首を縦に振る。舞香もホッとしたように息を吐き、「よかったね、美雨」とわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
式の間中も、ずっと先輩を盗み見た。同じ空間に先輩がいるだけで、気持ちが穏やかになる。
わたしの日常に、先輩が帰ってきてくれた。それだけで、飛び跳ねたくなるくらいに嬉しい。
終業式を終えた後は、それぞれの教室に移動する。
その時、元町先輩と目が合った。
ドキッとして、顔が熱くなって、でも目を逸らせなくて、恋を自覚しただけでこんなにドキドキするのか、と思った。
先輩はちょっと照れたみたいに口元を綻ばせた後、右手で小さく手を振ってくれた。その仕草に左側の胸がときめく。
わたしも同じように手を振った。
ふたりだけの秘密の合図みたいで、心の芯の部分が熱を帯びていく。
明日から春休み。春休みは先輩に会えない。
人生で一番長い春休みになる予感がした。

