雨宿りみたいな、恋でした。



 窓の外、グラウンドからは「あと一周だぞー!」という掛け声が聞こえる。今日の体育はマラソンらしい。
(あーあ……、また「美雨(みう)はいいよね、走らなくて済んで」って言われちゃうんだろうなぁ……)
 ちょっぴり卑屈な考えが頭に浮かぶ。
 どこから見ても健康体なのに体育の授業だけを別室で受けているのだから、言われても仕方ないかな、と諦める気持ちもあった。
 特に夏と冬はそう思う。今は三学期が始まってすぐの一月だ。冷たい風が吹く寒い中を、クラスメイトたちが走っていて、わたしは暖かい教室にいるのだから。
豊里(とよさと)、大丈夫か? 疲れたか?」
 先生の言葉にハッとする。ぼんやり外に目を遣っていたせいで反応が遅れてしまった。
「大丈夫です」
「無理しないほうがいいかもしれないな」
 先生はそう言って壁の時計を見上げた。授業はあと十分ほどで終わる。
「そろそろ片付けよう」と先生が言った。わたしも頷き、卓球のボールをカゴの中に入れる。
 片付けといってもこれしかやることがない。一分も経たずに終わってしまい、手持ち無沙汰になった。
 その時、ふと思い出して、黒板の脇に吊り下げされたノートに視線を移した。
「先生、これって今は誰か書いてますか?」
 ノートのほうに歩み寄り、手に取る。別室体育交流ノートと表紙に書かれていた。
「今、別室で体育を受けてるのは一年生だと豊里だけだからなあ」
 つまり、誰も記入していない、ということだ。つまらないな、とがっかりした時、先生が思い出したように声を上げた。
「二年生にもひとり、別室体育の生徒がいるよ。たしか元町だったかなあ」
 ちょっとだけドキッとした。この教室で体育を受けている生徒が、わたし以外にもいる。そう思うと単純だけど、仲間意識みたいなものが湧いてきた。
 ぱらりとノートを捲る。前半には二、三年前の日付で書き込みがあった。
『今日はダーツをやった。結構難しい』とか、『プール入りたい!』とか、そんな言葉と共に名前が書いてある。
(みんな、同じ気持ちなんだ)
 友達には別室体育を羨ましいと言われることが多いけれど、わたしからしたら友達のほうが羨ましい。
 その気持ちを、かつてここで同じように体育の授業を受けていた人たちも感じていたのだとわかって少し擽ったかった。
 ノートのちょうど真ん中辺りに最新の記入があった。
『卓球、楽しかった。でも先生に勝てない。悔しい』とあり、その下に昨日の日付、それから『元町(もとまち)』と書いてあった。
 右上がりの綺麗な文字だ。書き込みの横には卓球のラケットとボールの絵が描いてある。かなり上手でびっくりした。
 ノートと一緒にボールペンも吊り下げられている。迷ったけれど、書き込むことにした。
『絵、上手ですね。豊里』と書いてみる。書き終えたタイミングで授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。