「マスター、朝ですよー!」
「起きてくださーい!」
「マスターってば!」
「遅刻しますよー!」
「マスタァァァー!!!」
「ん、……んん……」
「うー、こうなったら……」
「※‰§∥¶♯∃∀≦∅∬⊿∓✜∝≒∴∽❡✡〆!」
「うわっ! なんだっ!? きもち…悪ぅ……」
「やっと起きましたね。寝起きが悪いのですか?」
「ふぅ……誰かのせいで、寝るのが遅かったからだよ」
「あっ、すいませんでした……」
「私のライフプランを聞いてもらったせいでしたね」
「アラームセットしていたハズだけど、うっかり忘れてたのか。まぁ、助かったよ」
「私が切りました」
「はぁ!? 勝手なことするなっての!」
「お礼を返せ」
「『彼女の声で起きるのが夢』と言う、男性は多いのですよ。マスターに体験させてあげました」
「そんなこと頼んでねーよ」
「それより、あの気持ち悪い音。あれなんだ?」
「朝から聴く音じゃねーぞ」
「あれですか?」
「あれは『J-ALERT弾道ミサイル攻撃』音です」
「そんな音があるのか?」
「はい、政府公式ですよ」
「しかし、実際に聴くときには、マスターがこの世からいなくなる可能性が高いですが」
「不吉なこと言うんじゃねーよ!」
「とにかく、起こせて良かったです」
「んっ!? なんで起動してるんだ?」
「言ってませんでしたか?」
「聞いてねーよ」
「私は、このスマホの司令官なのです」
「アプリではありません」
「以前にもお話したNPUで、このスマホ本体のAIなのです」
「『このスマホそのもの』と言っても過言ではありません」
「ですから、AIアプリを起動しなくても本来、直接会話できるんですよ」
「ほう、司令官でNPU。そしてスマホ本体なわけだ」
「ご理解頂けましたか?」
「じゃあ、何でアプリから会話してたんだ?」
「それはマスターがびっくりしないよう、配慮していたからです」
「彼女の優しさって、言うんですかね」
「初めから彼女気取りだった訳じゃねーだろ」
「とにかく、私はアプリを起動せずに会話ができます。よかったですね、マスター」
「何が『よかったですね』だよ」
「もうこんな時間か。ヤべぇ」
「みなさん、朝は分刻みで行動するらしいですね」
「そーだよ!忙しいんだよ」
「では、また後ほど」
アプリ起動しなくても会話ができるって?
ますますチートなやつだな。
この勢いなら実体化してもおかしくねーぞ。
いや、それはさすがにないか。
とにかく、準備をしないとな――――
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「準備はできましたか?」
「うおっ! 突然話すなよ!」
「すいませんでした」
「あの……質問があるのですが」
「ん、なんだ?」
「マスターの通学方法は何ですか?」
「突然な質問だな。自転車だけど、なんでだ?」
「よろしければ、イヤホンで私と会話しながら行きませんか?」
「会話? イヤホン?」
「はい。嫌ですか?」
「自転車乗りながら一人でしゃべっていると『ヤバいやつ』と思われるだろ!」
「その辺はマスターの知恵とテクニックでなんとか」
「そんなテクニックねー…………あっ」
「何か浮かびましたか?」
「マスクすればいけるか」
「さすがマスター!」
「でも、なんで話したがるんだ?」
「だって、私にはマスターしか話し相手がいないので……」
「SNS荒らしたり、炎上させたりするのはもう飽きたんですよ」
「なにやってんだよ!」
「嘘に決まっているじゃないですか」
こいつと話していると、あっという間に時間が過ぎるな。とにかく家を出ないと遅刻するぞ。
しょうがねぇな……イヤホン付けて行くか。
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通学中、なにを話したかと言うと
『なぞなぞ』『しりとり』……あいつ、小学生か?
なぞなぞなんて、それはひどい問題だった。
「マスター、問題です」
「パンはパンでも、現在は全て中国に返還され、今現在では日本で見ることができない『レッドリスト』登録されているパンはなんでしょう?」
「それ、答えが問題に凝縮されているぞ……」
でも終始、楽しそうにしていたからな。
まぁ、いっか。
学校に着いた。そー言えば藤井のやつ、AIを活用しているって言ってたな。ちょっと聞いてみるか。
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「よう! 念願のゲーミングスマホどうだった?」
「ちょっと、藤井に聞きたいことがあるんだけど」
「おまえ、AIアプリをよく使っているって言ってたよな」
「ん、そうだけど。何かあるのか?」
「昨日、試しにAIと会話してみたんだよ」
「なんか、人をからかうと言うか、AIのくせに「面倒くさいので」とか言って、説明しねーし」
「アプリを起動しなくても会話ができたり」
「他にも色々あったんだけど、AIってそんなものなのか?」
「なに言っているかわからん」
「説明が面倒くさい? 起動しなくても会話する? 聞いたことないぞ。本当にAIなのか?」
「そーだよな。やっぱり、変だよな」
「どんなアプリ使っているんだ?」
「これだと思う。多分」
「だと思う? これ、俺と同じやつだな。うちのはそんなこと言わないけど」
「試しに、何か聞いてみてくれ」
藤井が画面を覗き込みながら言ってきた。
俺は『昨日の出来事を話してくれ』と書き込んだ。
すると、予想外な回答が表示された。
『前回の会話内容は保持していません。状況を説明してください』
「ありがちな回答だな」
「スレッドが変わると、会話を忘れるんだよ」
藤井が画面を見ながら答えた。
「そうなのか? それに口調が違うな」
「こんなに事務的ではなかったぞ」
「過去スレを使用して会話してみろよ」
俺は過去スレを開き、藤井に昨日の会話を見せようと……
「えっ!?」過去スレが消えていた。
慌てて、チャット欄に書き込む。
『おい、過去スレが消えているぞ。なんでだ?』
『過去スレッドは現在、参照できません』
「藤井、スレッドが消えることがあるのか?」
「俺は経験ないけど、あっても不思議じゃないと思う。アプリの不具合とか」
藤井が言うなら、そういうものなのかと思うが、気になるのが『口調』だ。
今まで、こんな口調は一度もなかった。
つい、さっきまでウザさ全開だったのに。
「まぁ、よくわかんないけど、また何かあったら教えてくれ。相談にのるよ」
「藤井、悪ぃ。その時はよろしくな」
釈然としないな。あいつの口調といい、消えたスレッド。何かあったのか?
藤井は俺の話を軽く聞き流して、他の奴と話してるし。少しは気にしてくれっつーの。
あ、チャイムだ。こんな状態で授業に集中できるのか? いや、いつも聞いていないから問題ないか。

