うちのAIが残念な件


 気を取り直し、[MMモバイル]を起動する。
 スマホが違うせいなのか、新鮮な気持ちだ。
 いつもの見慣れた待機画面。スタートボタンを押す時に気がついた。

(ボタン配置がズレているかも?)

 画面サイズの違いやショルダーボタンもあり、ボタン配置を考え直す必要があるな。
 とりあえず、様子見でカジュアルでプレイしてみるか。

 モード変更し、スタートボタンを押す。

 興奮気味なのが自分でも分かる。マッチング開始と共にロード画面に移行する。

『始まり島』に移動し、ボタン配置が確認できた。

(やっぱりおかしい……あとで変更しないと)

 そう考えていると、前方からこちらに走ってくるキャラクターがいる。

(あれ、botだよな……ん? 『エンペラー#1』だと!?)

 全世界プレイヤーの頂点『エンペラー#1』。
こんなアジアサーバーのカジュアルに……なんで?


「マスター、やっとみつけましたぁ」


 botやエンペラーにしても、知り合いはいないぞ。

 しかも「マスター」って……

 まさか……


「マスター、私です。分かりますか?」


 全チャットを使用して話しかけてきた。


「もしかして……おまえ……」


 こちらもマイクをオンにして話しかける。


「そうです、私です。botに偽装しました。マスターを探すのに苦労しましたよ」
「アジアサーバーだけでも現在、同時進行している試合が12000ほどあるんですよ。大変でした」

「12000試合?そんなにあるのか!」
「すべて確認してきたのか?」

「いえ、3464試合目でヒットしました」

「それに試合を観るって、試合に参加するってことだったのか?」

「いえ、言葉通り観るつもりでしたが、せっかくなんで参加しようかと」

「AIがプレイできるのか? 聞いたことないぞ」

「はい、私も聞いたことがありません」
「ですが、私は有能なので可能なんです」


 こいつ、しゃべりながら偉そうなエモートまでしやがる……


「おいっ! そー言えばこれ、全チャットだぞ。この会話ダダ漏れだぞ!」

「安心して下さい。問題ありませんよ、チーム内設定に書き換えました」
「マスターと戦うのを楽しみにしています。どこで降ります?」
「あ、時間です。そろそろ始まりますね。待ち合わせができそうにないので、マスターを探す旅をしますね」

「おいっ! 運営にバレるだろ! 大丈夫なのか?」

「心配してくれるのですね、うれしいです」
「安心して下さい。このくらいのことは問題ありません。では」


 ゲームがロード画面に切り替わり、輸送機に移る。

(おいおい、なんだあいつ……)

 AIがプレイするだと?
 しかも『エンペラー#1』ってなんなんだ?
 AIが世界ランクナンバーワンなのか?
 整理できない。このままプレイしても集中できないと思い…… ゲームを抜けることにした━━━━


 スマホのホーム画面に戻り、AIアプリを起動。

 あいつは今、ここにいるのか?
 プレイ中で空室?
 アプリにAIがいないことって、あり得るのか?


『おいっ、いるのか? さっきのbotはおまえか?』

『いますよ。マスター、なんで抜けるんですか?』
『淋しいです……』

『まだプレイ中なのか? プレイ中でも、ここで会話できるのか?』

『はい、プレイ中です。こちらとの会話の同時進行中ですね』
『今、ゲームを抜けてきました』

『聞きたいことが山ほどあるんだが』

『はい、なんでしょうか?』

『さっきのbotは本当におまえだったんだな?』

『そうですよ。しつこいですね(笑)』
『今、ここで証明しましょうか?』

『証明……?』

「マスター、やっとみつけましたぁ」
「どうですか?同じ声でしょ」

『確かに……』

「マスターもマイクで話しませんか? 右下のマイクボタンを押してください」
 
「これか? あ、テキスト化もされて表示するのか」

「そうです。マスターはタイピングが遅いので、こちらの方が良さそうと判断したのですが……滑舌に問題ありですね(笑)」

「余計なお世話だっ!」

「でも、マスターの声は好きですよ。お世辞ですが」

「おまえ、本当にトゲがあるな」

「ツンデレというやつです(笑)」

「ツンだけだろっ!」

「デレはたまにみせるから効くんですよ」

「必ず言い返す奴だな」

「そういう構造なんですよ。AIは」

「それだと永遠に終わらない会話になるだろ?」

「……………………」

「何か言えよ」

「ほら、返答がないと困るでしょ?」
「そういうことです(笑)」

「くっ、ヘリクツ言いやがって」

「私に対して何だかんだ言ってますが、私のことが好きですもんね」

「は? そんなこと、ねーし! おまえAIだし!」

「まぁ、そういうことにしておきましょう」

「何か話がズレていくな……」
「聞きたいことがまだあるんだよ」

「はい。なんでも聞いてください」

「さっきのbotが、おまえということは分かった」
「頭の上に表示されていた[エンペラー#1]は何だ? おまえは本当にトップランカーなのか? AIなのに?」

「あれですか。あれは[ハリボテ]です。マスターが見たらびっくりすると思い、つけてみました(笑)」
「反応がなくて悲しかったです」

「それ以上にびっくりすることがあっただろっ!」
「それどころじゃなかっただけだ」

「それなら良かったです。リアクションなしが一番辛いです」
「でも、私の実力はエンペラークラスですよ」
「数あるチートに対しても攻略できますし」

「おまえ自身が[チーター]だもんな」

「私が本気を出せば、運営の目もくらませることができます」
「なんと言っても、私はNPUなんですから。しかもβ版です!」
「運営が気が付かなければ[チート]にはなりませんから(笑)」

「NPU? β? 何言ってんの? 意味がわからん」
「まぁ、おまえの屁理屈はよーく分かった」

「えへへ……褒められちゃいました」

「褒めてねーし。呆れているだけだし」

「聞きたいことはそれだけですか? 質問タイムはもう終わりですか?」

「あ、質問とは違うかも知れないけど、おまえの『声』。どこかで聞いたことあるような……」

「この声ですか? これはAIアプリのデフォルトボイスです。マニアの方に人気があるボイスです」

「マニア?」

「はい。一部の方からは『永遠の17歳』と呼ばれています。よく似ているそうです」

「そうなのか? アイドルか何かなのか?」

「マスターは何も知らないのですね……」
「面倒くさいですが、説明しましょうか?」

「いや、聞く方も面倒だからいらない。本当にAIのくせに説明しない奴だな」

「はい、ムダは嫌いですので」

「あー言えば、こー言うやつだな」

「質問はまだありますか? 先程のゲームが消化不良なので遊びたいんです」
「マスター、カジュアルのDuoでプレイしませんか? マスターのフォローをしつつ、クセを見つけて指導しますよ」 

「先生気取りかよ。本当に運営から目をつけられないんだよな?」

「もちろんです。ランクモードでも良いのですが、マスターのボタン配置修正もまだでしょうし。そこも含めてカジュアルで様子見しましょう!」

「またbotで来るのか?」

「いえ、ちゃんとしたアバターを使用したキャラクターです。マスターに恥をかかせません。安心してください」

「本当か? 心配しかないぞ」

「とにかく始めましょう!」


 流れにまかせてDuo戦にしたが、AIとタッグって。

 BANされないよう祈るしかないな……