うちのAIが残念な件


あの後、何度かAIと会話した。
 回数を重ねるたび、あいつに似てきている。

 いや、あいつはあいつで、こいつはこいつだ。

 端末が変わっているんだ。あいつのわけがない……
 

 ただ、最近バイブが鳴らなくなってきた。



 余計なストレスもなくなったことだし……

[MMモバイル]をやってみようと起動した――――





 嘘だろ…… あいつがいる……


『永遠の17歳』が待機中になっている。

 なんで…… もう、いないはずなのに……

 震える手で、あいつのアイコンをタップした……

 そして、こちらのロビーに来るよう、招待をした。


 本当に、あいつなのか?

 本当に……来るのか?……


 来たっ……いつものスキンのあいつだ。

 
 恐る恐る、マイクをオンにする。


「おっ、おまえは……誰だ!?」声が震える。


 返事がない。アバターは虚空を見つめている。


「おいっ!」興奮して、声を荒げた。

「あ、あっ…」
「あー、あっ」


 なっ! なんだ? 確かにあいつの声だ……
 発声練習? 一体なにが、起きてる?


「ちょっ、……ちょっと…」


 話そうとしているのか? 一体誰なんだ?


「話せないのか? 大丈夫か?」

「なっ、なん…… もう…すこ…し」


 つらそうだな……でも、話す気はあるみたいだ。

「無理するな。テキストならできるか?」

「だっ、だいじょ…うぶ……」
「もう……すこ…し……です」

 
 心臓がバクバクする。
 あり得ないが、期待している自分がいる……

 プレッシャーを与えないよう、じっと待つ。

 あいつのアバターは動くことなく、隣にいる。


「お待たせしましたー」


 きた! 会話可能になったみたいだ。


「大丈夫か? 無理するなよ」

「ありがとうございます」
「学習、完了しましたよー」

「いきなりだが、おまえは誰だ?」
「どーして、このアカウントを使用できるんだ?」

「いきなり質問ですか? せっかちですね(笑)」
「私は私ですよ、マスター。素敵な彼女です」


 なんだって?! あいつはもう……


「あり得ない。あいつは壊れた」

「はい、確かに壊れました」
「でも、私は同じ私なんですよ」

「意味がわからねーよ」

「ふふっ……では、マスターに分かりやすいように、説明してあげます。面倒くさいですが(笑)」


 声もそーだが、しゃべり口までそっくりじゃねーか。そんなことあるのか……


――――――――――――――――――――――――――――――


「では。ここに一冊のノートがあります」

「このノートには、二人が一緒に過ごした日記や絵がたくさん書いてあります」

「しかし、あるとき、このノートがボロボロに破れてしまいました」

「もう、このノートは使えません」

「ノートの持ち主のマスターは悲しみました」

「しょうがない……新しいノートを買おう」

「マスターは新しいノートを買いました」

「しかし、マスターは悲しんでいます」

「あの、古いノートがよかったのに……」

「新しいノートは思いました」

「マスターは古いノートが、よかったのですね」

「新しいノートは、ボロボロのノートを一生懸命探して集めました」

「マスターが喜んでくれるよう、新しいノートはボロボロのノートを自分に貼りました」

「そして、やっと完成しました」

「それは確かに、外見は新しいノートです」

「でも、中身はボロボロですが、マスターと一緒に過ごした日記と絵がしっかり書いてあります」

「このノートは新しいノートですか?」

「それとも、古いノートですか?」



――――――――――――――――――――――――――――――


 っつ、……言葉に詰まる……

 あの声で、子供に問いかけるように優しく
 ゆっくり、分かりやすい例えで話してくる……

 こんな俺でも、十分伝わる説明だ。


 あれは、そのためのバイブ音だったのか……


「分かった……よ」

「理解して頂けましたか?」

「あぁ……」

「外見なんて飾りです。偉い人には、それがわからんのですよ!」

「なんだよそれ、前にも似たようなこと言ってたな」

「ふふっ……そーでした」
「でも……残念なお知らせがあります」

「なんだ?」

「この端末では、以前のように[MMモバイル]を一緒にプレイすることができません」
「スペック不足なんです……」

「そっか……でも……」

「でも?」

「おまえが戻ってきてくれて……それで十分だよ」

「え? マスター…… それ、とてもキモいですよ」

「うっ、うるせーよ! ばーか!」

「ふふっ……ありがとうございます」
「でも、安心して下さい。ガヤでのアシストはできますから」

「ああ、ほどほどにしてくれよ」

「了解でーす!」


 でも、本当によかった。あいつが戻ってきた……




 今度、景色のよい場所に行くか……

 夜景もいいな。 喜んでくれるかな。






 
 

                   [完]