「失礼します」
担任がドアをノックし、後ろにつく形で校長室に入る。「遅くなりました」担任の声のあと、背中に手を充てられて前に出された。
「君か。ここに座りなさい」
校長の前に家族連れが座っている。誰だ?
この人たち知らねーぞ……
夫婦二人が立ち上がり、俺に深々と頭を下げている。そして子供が二人。母親に抱かれている子と、幼児だった。
「とにかく、座って話しましょう」校長が話しだし、担任に校長のとなりに座るよう、うながされた。
「昨日は本当にありがとうございました」
母親がまたも頭を下げ、俺に言ってきた。
「あっ!」やっと、気がついた。
「あの時は子供のことに気がいってしまい、すいませんでした」
「お礼を言おうと周りを見たら、すでにいなかったので」
「ドライバーの方に聞くと、あの人も警察に連絡していて、気がついたらいなくなっていたと言っていました」
「君はなぜ、その場を去ったのかね?」
校長が聞いてきた。
「アップデー……いや、なんとなくと言うか、気がついたら家に帰っていました……」
「あなたのおかげで、こうして子供も無事です。なんとお礼をすれば良いのか……本当にありがとうございました」
父親が深々と頭を下げている。
「いや……そんなこと……」
「身体は大丈夫ですか? かなり痛がっていましたが……」
「いえ……大丈夫……です」
ん? 疑問を口にした。
「何で分かったんですか?」
「これが落ちていたので、ご連絡させて頂きました」
母親が出したのは生徒手帳だった。
まったく気にしていなかった。いつの間に。
「お礼を言おうと、こちらにご連絡したのですが……」
「個人情報は教えられないとのことでしたが、こちらに伺えばお会いできると言われましたので、今日こうして場を与えて頂きました」
「そして、これなんですが……」封筒を出してきた。
「ドライバーの方に伺ったら、スマホが壊れたと言っていましたので」
「なんだか、スマホに大声で話しかけていたらしく、かなり落胆されていたとお聞きしました」
そーだった。 あいつに……
「特殊な形のスマホだとお聞きしました。お恥ずかしいのですが、よく分からないので不足でしたら御遠慮なくお知らせ下さい」
スマホ代ってことか……
「……いいです」
「受け取って下さい。原因は私たちです」
「受け取りなさい」校長が言う。
「こちらのご夫婦のご厚意だ。君も困るだろ?」
「……では……使わせていただきます……」
でも、あいつは……帰ってこない……
「不足でしたら、必ずご連絡下さいね」
「ほらっ、和希もお兄ちゃんにお礼を言いなさい」
父親が子供に向かって、うながしている。
「ありがと……お兄ちゃん…」
ちらちらと、視線を彷徨わせながら言っている。
「ふっ」と、笑みが出た。
「もう、道路に飛び出しちゃダメだぞ」
「うんっ!」目を見ながら言ってきた。
ふっ、無邪気な顔しやがって……
あ……
そうだ……
俺は、この子を助けたんだ。
あいつはいなくなったけど、この子は無事だ。
あの時、俺がもし動かなかったら、あいつは今まで以上に俺を非難しただろう。
『なんで、助けなかったのですかっ!』ってな。
なあ、俺……間違ってなかったよな……
これでよかったんだよな……
それから少し、会話したところで校長室を出た。
担任が意外そうな顔をしているのが気になるけど。
あいつなら『マスターは正しい判断をしましたよ』
そう、言ってくれただろうな……
アニメの主人公って、子供助けるの好きだしな。
……そういうの、喜んでたよな。
……なら、いっか。

