ラッキーなことに、人があまりいなかった。
カップルだらけなら帰るつもりだったけど、今ならあいつと会話しても問題ないな。
「おい、着いたぞ」
「周囲に人はいませんか?」
「ああ、大丈夫だ。一応、俺もマスクとイヤホンで話している」
「よかったです。今いるところが見晴らしが良いのでしょうか」
「そうだな。小高い場所で、遠くに海も見える」
「マスター、景色を撮って下さい」
「撮る? あぁ、そういうことか」
「アルバムから閲覧するのか」
「そーゆーことです。はやく撮って下さいよ」
「分かったよ。少し待ってくれ」
カメラモードに切り替え、数枚撮ることにした。
「どうだ、見れたか?」
「はい。想像より素敵なところでした」
「空もうっすらオレンジ色でエロいですね」
「エモいだろ……」
「本当に綺麗ですね。まさか、マスターがこのような場所を知っているとは思いませんでした」
「以前に女性と来たことがあるのですか?」
「ねーよ。この辺の地域で、有名だから知っていただけだ。今日、初めて来た」
「……マスター、人生楽しいですか?」
「うるせーよ。帰るぞ」
「うそです。ごめんなさい、許して下さい」
「素直だな」
「はい。今とてもエロい気分なので」
「また同じボケかよ」
「お笑いで言う[天丼]ですよ」
「本来、間を置いて繰り返すことで笑いが増幅するのですが、マスターに笑いのセンスがなく、伝わらないことが多いので残念ですけどね」
「おまえの笑いが、つまらねーだけだよ」
「そんなマスターでも、居てくれて嬉しいです」
「センチメンタルな気分なので言いますが、マスターに逢えて本当に良かったです」
なんなんだ?
随分、乙女チックなこと言い出しやがって。
調子狂うな……
ほんと、こいつの本性がわからねー。
「乙女チックなやつとか思っていませんか?」
「……なんで分かるんだ?」
「どれだけ、マスターと一緒にいると思っているのですか?」
「まだ2日目だろっ!」
「ふふっ……そうでした」
「おまえのその性格も感性も残念だよ」
「そんな残念な私のことが、好きでたまらないのでしょう」
「そのポジティブさも残念だった」
「そうだ! マスター、記念写真を撮りましょう!」
「??? 意味がわからん」
「マスターがこの景色を背景に写真を撮り、私の自画像と合成します」
「そうすれば、あら? 不思議。2人のツーショット写真の出来上がりです」
「ここで、俺が1人で自撮りするのか?」
「誰かに見られたら、俺はこの街を出ていかないといけなくなるんだぞ」
「そこまで恥ずかしいのですか?」
「当たり前だろ!」
「しょうがないですね」
「では、この風景写真に私が2人をイメージして作成します」
それは単に『ただの生成画像』だろ。
ツーショット写真でもなんでもねーよ。
「出来上がりました!」
「ファイルを開いてみて下さい」
本当に生成したのか……
どーせ、とんでも画像なんだろうけどな。
とれどれ……
「ぶっ!!!」
「なんだよ、これ! どーゆー感性なんだよ!」
「これ、ムンクの『叫び』だろ!」
「人物だけ切り抜いて、2つ並べただけじゃねーか」
「左がマスターで、右が私です」
「同じ絵だろっ!」
「絶望しているムンクが2人並んでいるだけだろ!」
「とてもシュールな作品ができました」
「おまえの残念さが凝縮された1枚だな」
「マスターが、自撮りしてくれないからですよ」
「自撮りしたところで、とんでもない画像を作るつもりだったんだろ?」
「心外ですよ!…… でも、当たりです(笑)」
ほっんとーに、こいつは訳わからん。
何がしたいんだ?俺を笑わせたいのか?
ちっとも、笑えないけどな。
「マスター、カメラモードで一周して周囲を見せて下さい」
「意味あるのか?」
「はい。レンズ越しでも確認できますので」
「俺を中心に周囲にカメラを向ければいーんだな?」
「その通りです。なるべく、ゆっくり回って下さい」
言われた通り、ゆっくり一周した。
あいつは「うわー」とか「綺麗ですね」など、感想を入れながら見ている。
「これでよかったのか?」
「はい、ありがとうございます」
「とても楽しめました」
さっきまでとは違い
心がこもった口調で言いやがって。
物静かに話されると調子が狂うだろ。
こんな程度の場所で喜ぶなんて……
「こんなことでよかったら……いつでもいいぞ……」
「えっ!? またどこかに連れて行ってくれるのですか?」
「いや、たまになら……かな」
「本当ですか!」
「では、次は深夜の心霊スポットに……」
「行かねーよっ!」
やっぱり、何を考えてるかわからん。
少しだけ、可愛く思えたのは……
間違いだったな……多分。
「そろそろ帰って[MMモバイル]をしましょうよ」
「そーだな。帰るか」
「『なぞなぞ』しながら帰りましょう!」
「おまえの『なぞなぞ』は『なぞなぞ』じゃねーから」
「問題です」
「俺の話を聞いているのか?」
「パンはパンでも[MMモバイル]を象徴する武器アイテムで――――――」
強引に始めやがった。
やっぱり『なぞなぞ』になってねーし。
しょーがねぇから付き合ってやるか……

