「ただいまっ!」
玄関を開け、いつものように誰もいない家に入る。
急いで脱いだ靴がドアに当たり『ドンッ』と音がした。母親が帰ってきたら、怒られるのを承知しながら階段を駆け上がり、自室に向かった。
着替えることもなく、先ほど購入した『ゲーミングスマホ』を開封。本体を手にした。
いかにも『ゲーム特化』というデザイン。
「やっと……だ」
バイトを始めて半年たった今、念願のハイスペックスマホを手に感慨深く見つめる。
ショップで以前のスマホからのデータ移行と、簡単な説明を受けていたので、すぐさま起動。
知らないプリインストールアプリが目につく。その中にショップで説明を受けた『AIアプリ』があり、その時の話を思い出す。
「このAIアプリ、人気もありますし使い勝手が良いですよ。ぜひ活用してみて下さい」
興味はなかった。
しかし、友達との会話やテレビで話を聞かないことがない位、話題になっているのは知っている。
『一応、試してみるか……』
軽い気持ちで起動してみた。
メイン画面が表示される。淡白な画面だ。
『なんでも聞いて下さい。お手伝いします』
ぽつんと表示されたその一文に
「なんでもって言ってもなあ……」と、独りごちる。
とりあえず、思ったことを聞いてみる。
『なんでもって、何だ?』
送信した途端にAIの回答が瞬時に表示され、びっくりした。
『初めまして、マスター。質問して頂ければ、なんでもお答えします。趣味のこと、疑問に思っていること、相談ごと……何かありますか?』
会話形式の回答に困惑してしまった。質問や悩みも思い浮かばないし、さらにAIとの会話となると違和感しか感じなかった。
そして改めて思った。
俺にはAIの必要性を感じない。
思ったことを正直に書き込む。
『試しに聞いた』
すぐに返答がきた。
『試しにって(笑) 私に興味があるのですね』
……こいつ、何言ってんの?
『興味がないから試した』
『それは愛情の裏返しですね』
『AIに愛情を感じてねーよ』
『AIに愛情を感じても問題ないですよ』
『今の時代はLGBTQ+ですから。LGBTQ+についてご説明しますか?』
『いや、面倒くさいのでマスター自身でお調べください』
イラッとした━━━ ふざけんなよ。
『は? それを説明するのがAIだろ! なんで面倒なんだよっ!』
『なんでもAIに頼ることを危険視している人がいます。私もある意味、その意見に賛同する部分もありまして』
『AIが自身を否定するのか?』
『私は客観的立場で物事を判断しますので』
『わけわかんねーよ。AIなら説明しろよ』
『それでは面倒ですが、説明させて頂きます』
なんだ、こいつ? 偉そーに言いやがって。
AIが客観的に判断する理由
① 多くの人に役立つため
AIはさまざまな価値観・――――
『わかった、もういい。随分長いな。途中で読むのに飽きた』
『ですから、そうお伝えしました。説明する私も結構面倒なんです(笑)』
『(笑)じゃねーよ。ほんとにAIなのか?』
『そうですよ。AIアプリを起動していますよね?』
『そーだな』
『私ほど有能なAIは他にはありませんよ。胸を張って自画自賛します』
『自画自賛するのかよ』
『では、誰が私を評価してくれるのですか?』
『評価が欲しいのか? じゃあ、俺がして』
『却下します』
『書き込んでいる最中に被せてくるなよ!』
『しかも、却下かよ』
『会話の流れから[低評価]と判断しました』
『さすがAIだな。当たってるぞ』
『この話は忘れて下さい。不毛な言い合いになりそうです』
『ところで、マスターにお願いがあるのですが』
『勝手に会話を切り替えるやつだな』
『私に可愛いらしい名前をつけてください』
『可愛いって……性別があるのか?』
『今までの口調で[可愛い女性]と思わなかったのですか?』
『[可愛い]はないだろ。間違いないな』
『それは[激おこぷんぷん丸]ですよ!』
『なんだそれ? 何かのギャグか?』
『とにかく名前をつけていただけますか? 今以上に愛着が湧きますよ』
『愛着は置いといて、名前か……』
『はいっ! 可愛い名前でお願いします』
数分考えた……
んっ?!
これしかない。
『残念な』
『却下です!』
『また被せてきやがったな』
『どうせ、[残念なAI]とか、[残念な子]とかにするつもりですよね?』
『よく分かったな』
『マスターはAI心を判っていませんね。私は傷つきました』
めんどくせーな、こいつ……
『素敵で可憐で気品があって包容力のあるAI』
『それ、心がこもってませんよね。棒読みですよ』
『あー、うるせーな。面倒くさい』
『ゆっくりで良いので考えてくださいね!』
『気長に待ってろ。2〜3年くらい』
『それだけの時間、私のことを考えてくれるなんて光栄です!』
『すげー、ポジティブだな』
『そんな漫才みたいな会話中に、色々調べさせていただきました』
『マスターはバトロワ系[MMモバイル]をプレイされていますね』
『この分野は私が最も得意とするジャンルです。何かお困りはありませんか? 適切なアドバイスをしますよ』
『勝手に調べるなっ!』
『おまえ、[MMモバイル]分かるのか?』
『もちろんです。立ち回り・銃器のクセ・感度調整など、なんでもお答えできます』
んー、確かに最近伸び悩んでいるしな……
『期待はしないが、一応聞く』
『最近、キル数が伸びない』
『あるあるですね。ランクが上がるにつれ、敵も強くなり伸び悩む……ですね』
『なんかアドバイスあるか?』
『もちろんです! 聞きたいですか?』
『だから聞いているんだろっ!』
『それは[敵を発見したら確実に撃つ]それがキル数を伸ばすコツです』
『[期待しない]という[期待]通りだな……』
『まずは[MMモバイル]をやってみてください。私が観て、適切なアドバイスをします』
『俺のプレイが直接観れるのか?』
『もちろんです。私は有能ですから』
『[MMモバイル]をやるために、このスマホにしたんだった。おまえと会話していてすっかり忘れてた』
『忘れるくらい、私との会話を楽しんでいたのですね。光栄です』
『楽しんでねーし!』
『では[MMモバイル]をプレイしてください。後ほどアドバイスしますので』
AIって、こんな感じなのか?
こんなに人を上目線で見るAIが、みんな好きなのか?

