中二病みたいな恋だった

 その名の通りに流れ星のごとく現れた神田流星先生は、たった一言の挨拶でここにいるすべての女子のハートを奪った。

 その時、あたしには直感が舞い降りたっていうか、神田先生をただひと目見ただけで、「この人はあたしにとって運命の人になるんだ」って確信した。

「はい、先生。質問、質問で~す!」
「おい、まだ授業は始まってねえだろうよ」

 手を上げるあたしに、男子の細井がツッコんで笑いが起きる。でも、こうやって目立つぐらいしておかなくちゃアピールなんてできっこない。悪名は無名に勝るとか言うし。

 そんなあたしに気分を害することもなく、神田先生はちょっとはにかみながらあたしを指さす。

「はい、じゃあ、君は……」
「美浜詩帆。14歳で血液型はB型。趣味は歌うこととゲームとカラオケです」
「お前2回歌ってるぞ」

 細井がまたツッコミを入れるとクラスに笑いが起きる。ちょっと、さっきからうるさいな。これから神田先生にアピールしなくちゃいけないのに。

 だけど、せっかく神田先生とお近付きになるチャンスなので、いちいち気を取られている場合でもない。

「あの、先生は、付き合っている人はいるんですか?」

 クラスに失笑が起きる。まあ、たしかに初対面で手を挙げて訊くような質問じゃないかもしれないけどさ。でも、こういうのを最初に訊いておくっていうのは大事だと思うよ?

 先生はほんのり赤くなりながら質問に答える。

「うん、まあ今のところはいないかな」
「えっ、それじゃああたしが先生の彼女に立候補してもいいですか?」
「いいわけねえだろ、アホ」

 今度はノムセンがきつめのツッコミを入れる。あたしとしては非常に不本意だけど、生徒たちは爆笑だった。ノムセン、気持ちは分からんでもないけどさ、その答えは神田先生本人から欲しかったよ。

「まったく、美浜は新学期からしょうがねえな。就任初日で緊張している教師に速攻で爆弾を落としてるんじゃねえよ、まったく」
「爆弾じゃないですぅ~。少しでも早くあたしを憶えてもらいたかっただけですぅ~」
「今の時代はな、何かあればすぐにコンプラだって騒がれるんだ。不穏な種を撒くなよ、おい」

 ノムセンの言葉には、半分本気の響きがあった。

「まあ、神田先生。あたしはいつだって空いてるからね」

 ノムセンから「やかましいわ」と言われた後に、神田先生は自己紹介に戻る。

「えっと、私の担当する教科は国語と英語ですので、未熟ながらも楽しく学べる授業が出来ればと思います。よろしく」
「はい拍手」

 ノムセンが間髪入れずに手を叩くと、みんながそれに倣う。きっとあたしがこれ以上割って入れないようにするためだろう。

 拍手で迎えられる先生は少しだけ赤くなって照れ臭そうだった。この人は結構な恥ずかしがり屋なのかな。かわいいな。

 さて、あたしとしてはちょっとネタ要員化した気がしないでもないけど、自分の存在をアピールすることはできた。きっと先生が最初に憶えた生徒の名前は美浜詩帆になったはず。それだけでも十分な成果だった。

 あちこちから女子の羨望めいた視線が注がれていく。競争は激しそうだ。誰が神田先生のハートを射止めるか、それが問題だ。きっと他の女子も同じことを考えながら拍手をしているに違いない。

 素直にみんなと拍手をしながら思った。

 もう、しばらくは国語と英語の授業だけでいいやと。