1、2、3……。
頭の中でカウントを取る。これくらいすれば十分だろ。
深町から手を緩めて振り返ると、旋人が、ついでにいうと村瀬まで、口を開けてポカンと傍観していた。
「わかるだろ? 深町は『元カノ』にわざわざ頼み込んでまで、俺のスケジュールやマネジメント管理が必要なの」
俺の言葉に我に返った村瀬が即座に反応する。
「そっ……そう! 野球部の成績不振者は再試通るまで練習参加できなくなっちゃうでしょ? だから、歴代マネージャーは再試対策徹底してて、先輩達が使ってた過去問を私が持ってたから、一真君、大事な人が留年しそうだからそれを見せてほしいって言ってて」
おう、ナイスアシスト村瀬。
「ごめんね。旋人君を誤解させるつもりは無かったんだけど……」
そう言って村瀬が視線を落としてそっと旋人の手に指を絡めると、旋人の頬が一気に赤く染まってゆく。
「そ……そっか。なんか、ごめん。えと、そういう事情なら、大っぴらに言いにくかったよな」
旋人とやらの怒りはどこかに吹っ飛んだみたいだ。顔を赤くしたり青くしたりと色々忙しい奴。
「じゃ、もう行っていいよな?」
「え? ああ、うん」
旋人の手から答案用紙を取り返し、村瀬に向かってひらひらと振って見せる。
「これありがと、村瀬さん」
「あっ! はい! こちらこそ! ご馳走さま(?)です!!」
「ほら。固まってないで、行くぞ深町」
自身の口を両手で押さえて顔を赤らめたまま硬直する深町の腕を引っ張り、教室に戻ろうとすると背後から「あのさ!」呼び止められる。振り返ると、旋人が決意を込めた表情を浮かべていた。
「本当にごめんな。言いにくいこと言わせて。……あの。俺、他の奴に言いふらしたりとかしないから。絶対」
村瀬を取られる心配が無くなったとわかったせいか、こちらを案ずる余裕ができたみたいだ。
「なんだ。お前結構いい奴だったんだな」
戻っていがぐり頭をくるりと撫でると、予想に反して毛質が柔らかい。
「ん? これは……!」
「ちょ、何なんだお前」
独特の手触りにわしわしと頭を撫で回す俺とビビり散らして逃げ腰の旋人。更に触ろうとする俺の手首を深町が掴んでホールドアップさせる。
「教室帰るんだろ。行こう、野田」
「ちょい待て。もうひと撫で……」
「せんでいいからさっさ行けよ!」
旋人は怯えたように村瀬の背後に隠れてしっしっ、と手を雑に振った。
「もうひと撫でさせろ」
手首を掴まれたまま旋人の頭に手を伸ばそうとするが、旋人には避けられるし深町には両手首を拘束されたままくるりと身体を校舎側に反転させられる。
「そんなに気に入ったんなら後で俺の触らせるから」
深町に半ば引きずられるようにして校舎に戻った俺は、解放された両掌をすり合わせながらさっきの感触を脳内再現しようとしていた。
「坊主頭ってタワシみたいにゴワゴワじゃりじゃりのイメージだったけど、知ってたか? あいつ相当な猫っ毛だぞ! なんかしゃわわわわって感触!」
「知らないし知りたくない情報だな。気に入ったんなら俺も坊主にしようか?」
真面目なトーンの深町の顔をじっと見つめて髪の中に両手を埋める。わし、わし、と揉むと、弾力のある硬めの毛質。
「んー。いいや別に。お前の坊主はゴワゴワしてそうだし」
「……そうか。そういや坊主の時は普通にじゃりじゃりだったな」
深町、ちょっとしょんぼり。文学的な『悄然と』というよりも、しょんぼりがしっくり。
「そういや深町だいぶ髪伸びたな。こないだまでベリーショートだったのに」
「確かに。寝癖つきやすくなったし、タオルだけで乾きにくくなってきたから、そろそろ切ろうかと思ってて」
「ふぅん。夏休み前のさ、デコ見えるくらいに切れよ。爽やかスポーツマン風に。お前眉毛の形良いんだから隠れるの勿体ねー」
わしわしわし。深町の顔が、というより耳までが一気に温度を上げてゆく。
「あ、あのさ、野田。そういえば、さっきの、村瀬達の前で……その……キ……キ……」
「ああ。下手に話長引かせずに済んだだろ」
「あ、うん」
「ああいうのは言葉よりデモンストレーションで牽制した方が早いからな」
「……え? あの、それだけ? 野田としてはどういう気持ちで……」
「そのままだけど。普通に回し飲みとかすんじゃん。あ、もしかして深町潔癖な人?」
「………………」
「別に深町だってファーストキスじゃないんだろ? 2回目なんて三割引き五割引きみたいなもんだろーし、そんな拘るようなもんでもないだろ」
「………………」
深町は、俺のときめきを返せっ……! と低く呻いて眉間に割合深めの皺を刻む。
「そ、それじゃあさ、さっき村瀬達と話してた所に割り込んできてくれたのって?」
縋るような表情を浮かべ、言葉を続ける深町。
「もしかして……嫉妬、とか」と、期待をにじませる表情を浮かべる。
「んー。無ぇな」
「無いんだ……」
「だってさ。お前、あのマネージャーと話してる時って、普通に先生に質問に行ってる時と同じ表情してんだろ?」
「先生に質問?」
「そう。『先生ここがわかりません』『先生詳しく教えてください』みたいな。元カノと縒り戻したがってる奴の表情じゃねーじゃん。俺と話してる時にはもっと、興奮して目がきらきらして無駄に暑苦しいっつーか、温度が2、3℃高めっつーか」
伊達に17年毎日気分の浮き沈みが激しい親と暮らしているわけではない。ある程度相手の表情を読んで距離を取らなければ我が身が危険に晒される。
それに漫画の参考にするために人の表情の変化をデッサンでノートに描き留めている。とりわけ表情に出やすい深町の感情を推し量らいでか。侮るなよ。
「えーと。嫉妬の必要性を感じないほど態度に出ているから嫉妬しなかった、と?」
「ああ、うん。たぶんそれ。お前表情わかりやすすぎるからな」
「なるほど」
深町は片手で自分の頬をぐにぐにと揉みながら「自分の表情筋を恨む日が訪れようとは……」と謎に独り言ちた。
「それにしても、びっくりした。何で野田がここに? あっ! っていうか、上履きのままじゃん」
「深町まだ学校に残ってるってクラスの、えーと……セミ? とボブが言ってたから、これ早く見せようと思って」
先ほど旋人から取り返した再々試験の答案用紙を見せる。
「すごいじゃん! 全問正解!」
「だろ? 担任もビックリしてた」
ついでに言うと「答案の余白に『わーい!』ってなってるおっさんのイラスト描いてあんのなんで?」って首傾げてたけど。
「深町ありがと。パンとテスト対策付き合ってくれたお礼に今度学食おごるわ」
「学食も嬉しいけど、俺にもちゃんとメリットあったから。野田にフォントアレンジしてもらった宇宙人の漫画描いて本にしてみたいんだ。だから、今度は野田が俺に漫画の描き方教えてくれないか?」
「そんなもんでいいのか?」
「ああ。俺にはその方がいい」
「まぁ深町がそれでいいって言うなら。じゃ、無事試験も済んだし、めでたしめでたしってな。これで次のカテキョ付けられなくて済むわー」
凝り固まった肩を伸ばしながら言うと、耳ざとく深町が次のカテキョ? と反応する。
「そう。昨日とうとうカテキョの方が匙投げてさ。『龍之介君に勉強を教えるのは僕には荷が重すぎます!!』とか言って、辞めたらしいんだよな」
「……!! まさかのカテキョ側からの授業拒否!?」
「母さんはもう一度やってもらうように頼み込んでたけど、あの様子だと無理じゃねーかな」
けけっ、と笑う。
青白く腺病質っぽい家庭教師。別に奴に恨みは無いが、俺の原稿の邪魔をするというならやむを得ない。すみやかに宇宙にお帰りいただこう。
「さーて。ストップしてた原稿も描かなきゃだし、何よりお預けくらってた漫画のチェックからだな。あ! 深町。お前んちに預かってもらってた漫画、帰りに受け取りに行くわ。久々に徹夜で読み倒してーー……」
深町が眉間に皺を寄せ、首を横に振る。
「……野田。何も解決してない」
「何がだよ。答案見ただろ? あれ見りゃさすがに母さんだって黙るって」
「あれは、定期テストを落とした生徒の救済のためのテスト。しかも禁じ手すれすれの攻略法を使った応急措置。応用問題のテストでは全く通用しない」
「そりゃそうだろうけどさ。せっかく全問正解したんだから今日くらいは羽根伸ばしさせろよ」
「そうだな。試験明けで疲れてるだろうから、30分。いや、20分でいい」
「えええ。じゃあ今日は深町んち行かない。試験終わった日に勉強したくない」
口を尖らせるが、深町は怯まない。
「別に今日みっちり詰め込んで勉強させるつもりはないって。野田がどれくらい授業内容を把握してるか確認するだけ」
「行かないって」
「幸い今回落とした3教科以外はむしろ成績も上位に入るみたいだし、ノータッチで良さそうだな」
「聞けよ。行かないっつってんだろ」
「いいのかな? そんなこと言って」
すっ、とスマホの画面を差し出される。
何のつもりだ、と思いながらも画面を見た俺は、思わず深町の手ごとスマホを握り締めていた。
「こ……これはっ! 『ぱくちーもりもり先生』の新刊っ!?」
美麗な作画もさることながらコミカルなストーリーが魅力の同人作家だ。
「注文しておいたのが昨日届いたんだ」
ネット課金すれば読めるが、紙の本限定特典ページが付く。一般の本屋での取り扱いは無いし、帰宅してすぐに注文するにしても手にするまでに数日かかる。
ちらりと様子を伺うと、深町はにっこりと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「たった20分俺の質問に答えるだけ。どうする? 野田」
……ぅぐぅ。リワード広告みたいな手法使いやがって。
「…………。行く」
なんか俺、深町にいいように転がされてないか?
頭の中でカウントを取る。これくらいすれば十分だろ。
深町から手を緩めて振り返ると、旋人が、ついでにいうと村瀬まで、口を開けてポカンと傍観していた。
「わかるだろ? 深町は『元カノ』にわざわざ頼み込んでまで、俺のスケジュールやマネジメント管理が必要なの」
俺の言葉に我に返った村瀬が即座に反応する。
「そっ……そう! 野球部の成績不振者は再試通るまで練習参加できなくなっちゃうでしょ? だから、歴代マネージャーは再試対策徹底してて、先輩達が使ってた過去問を私が持ってたから、一真君、大事な人が留年しそうだからそれを見せてほしいって言ってて」
おう、ナイスアシスト村瀬。
「ごめんね。旋人君を誤解させるつもりは無かったんだけど……」
そう言って村瀬が視線を落としてそっと旋人の手に指を絡めると、旋人の頬が一気に赤く染まってゆく。
「そ……そっか。なんか、ごめん。えと、そういう事情なら、大っぴらに言いにくかったよな」
旋人とやらの怒りはどこかに吹っ飛んだみたいだ。顔を赤くしたり青くしたりと色々忙しい奴。
「じゃ、もう行っていいよな?」
「え? ああ、うん」
旋人の手から答案用紙を取り返し、村瀬に向かってひらひらと振って見せる。
「これありがと、村瀬さん」
「あっ! はい! こちらこそ! ご馳走さま(?)です!!」
「ほら。固まってないで、行くぞ深町」
自身の口を両手で押さえて顔を赤らめたまま硬直する深町の腕を引っ張り、教室に戻ろうとすると背後から「あのさ!」呼び止められる。振り返ると、旋人が決意を込めた表情を浮かべていた。
「本当にごめんな。言いにくいこと言わせて。……あの。俺、他の奴に言いふらしたりとかしないから。絶対」
村瀬を取られる心配が無くなったとわかったせいか、こちらを案ずる余裕ができたみたいだ。
「なんだ。お前結構いい奴だったんだな」
戻っていがぐり頭をくるりと撫でると、予想に反して毛質が柔らかい。
「ん? これは……!」
「ちょ、何なんだお前」
独特の手触りにわしわしと頭を撫で回す俺とビビり散らして逃げ腰の旋人。更に触ろうとする俺の手首を深町が掴んでホールドアップさせる。
「教室帰るんだろ。行こう、野田」
「ちょい待て。もうひと撫で……」
「せんでいいからさっさ行けよ!」
旋人は怯えたように村瀬の背後に隠れてしっしっ、と手を雑に振った。
「もうひと撫でさせろ」
手首を掴まれたまま旋人の頭に手を伸ばそうとするが、旋人には避けられるし深町には両手首を拘束されたままくるりと身体を校舎側に反転させられる。
「そんなに気に入ったんなら後で俺の触らせるから」
深町に半ば引きずられるようにして校舎に戻った俺は、解放された両掌をすり合わせながらさっきの感触を脳内再現しようとしていた。
「坊主頭ってタワシみたいにゴワゴワじゃりじゃりのイメージだったけど、知ってたか? あいつ相当な猫っ毛だぞ! なんかしゃわわわわって感触!」
「知らないし知りたくない情報だな。気に入ったんなら俺も坊主にしようか?」
真面目なトーンの深町の顔をじっと見つめて髪の中に両手を埋める。わし、わし、と揉むと、弾力のある硬めの毛質。
「んー。いいや別に。お前の坊主はゴワゴワしてそうだし」
「……そうか。そういや坊主の時は普通にじゃりじゃりだったな」
深町、ちょっとしょんぼり。文学的な『悄然と』というよりも、しょんぼりがしっくり。
「そういや深町だいぶ髪伸びたな。こないだまでベリーショートだったのに」
「確かに。寝癖つきやすくなったし、タオルだけで乾きにくくなってきたから、そろそろ切ろうかと思ってて」
「ふぅん。夏休み前のさ、デコ見えるくらいに切れよ。爽やかスポーツマン風に。お前眉毛の形良いんだから隠れるの勿体ねー」
わしわしわし。深町の顔が、というより耳までが一気に温度を上げてゆく。
「あ、あのさ、野田。そういえば、さっきの、村瀬達の前で……その……キ……キ……」
「ああ。下手に話長引かせずに済んだだろ」
「あ、うん」
「ああいうのは言葉よりデモンストレーションで牽制した方が早いからな」
「……え? あの、それだけ? 野田としてはどういう気持ちで……」
「そのままだけど。普通に回し飲みとかすんじゃん。あ、もしかして深町潔癖な人?」
「………………」
「別に深町だってファーストキスじゃないんだろ? 2回目なんて三割引き五割引きみたいなもんだろーし、そんな拘るようなもんでもないだろ」
「………………」
深町は、俺のときめきを返せっ……! と低く呻いて眉間に割合深めの皺を刻む。
「そ、それじゃあさ、さっき村瀬達と話してた所に割り込んできてくれたのって?」
縋るような表情を浮かべ、言葉を続ける深町。
「もしかして……嫉妬、とか」と、期待をにじませる表情を浮かべる。
「んー。無ぇな」
「無いんだ……」
「だってさ。お前、あのマネージャーと話してる時って、普通に先生に質問に行ってる時と同じ表情してんだろ?」
「先生に質問?」
「そう。『先生ここがわかりません』『先生詳しく教えてください』みたいな。元カノと縒り戻したがってる奴の表情じゃねーじゃん。俺と話してる時にはもっと、興奮して目がきらきらして無駄に暑苦しいっつーか、温度が2、3℃高めっつーか」
伊達に17年毎日気分の浮き沈みが激しい親と暮らしているわけではない。ある程度相手の表情を読んで距離を取らなければ我が身が危険に晒される。
それに漫画の参考にするために人の表情の変化をデッサンでノートに描き留めている。とりわけ表情に出やすい深町の感情を推し量らいでか。侮るなよ。
「えーと。嫉妬の必要性を感じないほど態度に出ているから嫉妬しなかった、と?」
「ああ、うん。たぶんそれ。お前表情わかりやすすぎるからな」
「なるほど」
深町は片手で自分の頬をぐにぐにと揉みながら「自分の表情筋を恨む日が訪れようとは……」と謎に独り言ちた。
「それにしても、びっくりした。何で野田がここに? あっ! っていうか、上履きのままじゃん」
「深町まだ学校に残ってるってクラスの、えーと……セミ? とボブが言ってたから、これ早く見せようと思って」
先ほど旋人から取り返した再々試験の答案用紙を見せる。
「すごいじゃん! 全問正解!」
「だろ? 担任もビックリしてた」
ついでに言うと「答案の余白に『わーい!』ってなってるおっさんのイラスト描いてあんのなんで?」って首傾げてたけど。
「深町ありがと。パンとテスト対策付き合ってくれたお礼に今度学食おごるわ」
「学食も嬉しいけど、俺にもちゃんとメリットあったから。野田にフォントアレンジしてもらった宇宙人の漫画描いて本にしてみたいんだ。だから、今度は野田が俺に漫画の描き方教えてくれないか?」
「そんなもんでいいのか?」
「ああ。俺にはその方がいい」
「まぁ深町がそれでいいって言うなら。じゃ、無事試験も済んだし、めでたしめでたしってな。これで次のカテキョ付けられなくて済むわー」
凝り固まった肩を伸ばしながら言うと、耳ざとく深町が次のカテキョ? と反応する。
「そう。昨日とうとうカテキョの方が匙投げてさ。『龍之介君に勉強を教えるのは僕には荷が重すぎます!!』とか言って、辞めたらしいんだよな」
「……!! まさかのカテキョ側からの授業拒否!?」
「母さんはもう一度やってもらうように頼み込んでたけど、あの様子だと無理じゃねーかな」
けけっ、と笑う。
青白く腺病質っぽい家庭教師。別に奴に恨みは無いが、俺の原稿の邪魔をするというならやむを得ない。すみやかに宇宙にお帰りいただこう。
「さーて。ストップしてた原稿も描かなきゃだし、何よりお預けくらってた漫画のチェックからだな。あ! 深町。お前んちに預かってもらってた漫画、帰りに受け取りに行くわ。久々に徹夜で読み倒してーー……」
深町が眉間に皺を寄せ、首を横に振る。
「……野田。何も解決してない」
「何がだよ。答案見ただろ? あれ見りゃさすがに母さんだって黙るって」
「あれは、定期テストを落とした生徒の救済のためのテスト。しかも禁じ手すれすれの攻略法を使った応急措置。応用問題のテストでは全く通用しない」
「そりゃそうだろうけどさ。せっかく全問正解したんだから今日くらいは羽根伸ばしさせろよ」
「そうだな。試験明けで疲れてるだろうから、30分。いや、20分でいい」
「えええ。じゃあ今日は深町んち行かない。試験終わった日に勉強したくない」
口を尖らせるが、深町は怯まない。
「別に今日みっちり詰め込んで勉強させるつもりはないって。野田がどれくらい授業内容を把握してるか確認するだけ」
「行かないって」
「幸い今回落とした3教科以外はむしろ成績も上位に入るみたいだし、ノータッチで良さそうだな」
「聞けよ。行かないっつってんだろ」
「いいのかな? そんなこと言って」
すっ、とスマホの画面を差し出される。
何のつもりだ、と思いながらも画面を見た俺は、思わず深町の手ごとスマホを握り締めていた。
「こ……これはっ! 『ぱくちーもりもり先生』の新刊っ!?」
美麗な作画もさることながらコミカルなストーリーが魅力の同人作家だ。
「注文しておいたのが昨日届いたんだ」
ネット課金すれば読めるが、紙の本限定特典ページが付く。一般の本屋での取り扱いは無いし、帰宅してすぐに注文するにしても手にするまでに数日かかる。
ちらりと様子を伺うと、深町はにっこりと勝ち誇った笑みを浮かべた。
「たった20分俺の質問に答えるだけ。どうする? 野田」
……ぅぐぅ。リワード広告みたいな手法使いやがって。
「…………。行く」
なんか俺、深町にいいように転がされてないか?

