先生、野田君の目が今日も死んでいます

 決戦の時が来た。
 帰りのSHの時間に担任から放課後視聴覚室に来るよう告げられる。放課のチャイムを聞きながら、俺は振り返って後ろの席の深町の手を握った。

「ジャングル アップル ハッピー ゴリラ!」

 真面目に頷く深町と対照的にすぐ隣の席の女子がぎょっとした顔でこちらに視線を向けるが、構っている余裕は無い。

「チートな バナナ ドリンクで 栄養!」
「ど……どうした、突然」

 俺の前の席の男子生徒も恐る恐るといった様子で聞いてくるが、これも無視だ。

「フランス 行けば ゴイエ文字!」

 深町の左の親指の先を摘まんで言い切ると、深町が大きく頷いた。

「オッケー!」
「よし! じゃあ次。田んぼに 交番 美術館……」
「おーい、野田ー! 早く移動しろー!」

 教室の前のドアから手にしたファイルで自身の肩を叩きながら担任が俺を呼ぶ。
 すぐ行きます! と返してから、必死に残りの深町の指を握っていく。

「荒れ寺 図書館 標高点! 畑の保健 神社で終わり!」
「完璧!」

 深町が笑顔で頷く。
 どちらからともなく片手でハイタッチをすると、パン!と軽い音が響いて脳の中のスイッチが切り替わる。

 何かの儀式? ラップバトル? などと口々に呟きながら騒めくクラスメート達の間を縫って担任の元へと走った。
 担任の後ろを歩きながら、忘れないように自分の指を押さえて回答の順番を思い返す。

 大丈夫。深町からもお墨付きをもらった。

「遅くなってすみません。連れてきましたー」

 担任の後ろから視聴覚室に入ると、俺以外にも2人。1人は再試の答案に目を通し、もう1人は教科書と顔を突き合わせている。

「残りの教科はこの後別室で行う。まずは数学に集中しろ。頑張れよ」

 気怠げな応援に頷いて返す。担任は監督教官に、お願いします、と頭を下げた。監督教官が腕時計に視線を落とした。

「時間になりました。筆記用具以外の資料を片付けてください」

 伏せた状態でテスト用紙が配られる。

「時間は30分。解き終わったら挙手をして答案を提出し、退出してもらっても構いません。それでは、始め!」

 答案用紙を一斉に表に向ける音。
 問題は深町が寄越してきた再試験と全く同じ内容。選択肢も寸分違わない。

 いける。これなら。