ーーあの日、名前を呼んだ瞬間から
ねえ、どうして人はーー
たった一言で、こんなにも変わってしまうんだろう。
夕暮れの踏切で
空は溶けるみたいにオレンジから群青へと変わっていく途中で、世界は少し静かに時が止まっていた。
カン、カン、カン、カン
規則正しく鳴り響く踏切の警報音。
その向こうに、彼はいた。
金色の髪が夕陽を受けてキラキラと光って。
まるでこの世界のどこにも属していないみたいに、
眩しくて特別のように思えた。
ーー"綾瀬 蓮"。
あなたの名前を呼ぶのがこんなにも怖いなんて、知らなかった。
胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
直ぐにでも逃げたしたくなるのに、足は動こうとしない。
あの日からずっと、私は人を信じないって決めていた。
優しさも、浮わついた言葉も、全部うわべだけ。
"偽物"なんだって、思ってた。
ーーなのに。
どうしてこの人だけは"違う"って思ってしまうんだろう。
「咲良ちゃん…?」
少し離れた場所から、彼が私の方を見て笑って名前を呼んだ。
その声がどうしようもなく、優しくて、私の中で何かがゆっくりと剥がれ落ちていくような音がした。
ーー言わなきゃ。
このまま終わらせたら、きっとまた後悔するかもしれない。
私は震える手を胸の前でぎゅっと握りしめた。
「あのっ!!」
肺の中にめいいっぱい溜まっていた空気を吐き出すように、思い切り声を張り上げると、彼が驚いたように目を見開く。
その表情ですらも、ずるいくらいに格好良くて。
ここまで出かかってるのに、肝心な所で息が詰まってしまう。
今までたくさん自由に吐き出してきたのに、どうしてこうも言葉にするのが難しくなるんだろう。
でも、もう止まれない。
「…………っ、!!」
だめだ、うまく言葉にならない。
こんなにも、怖いと思ったのは初めてだ。
でもそれ以上に、ーー
"伝えたい"
やっと気付いてしまったから。
今まで逃げてきたこの気持ちに、ずっと気付かないふりをしていた。
でも、もう迷わない。
「蓮先輩……!!」
あなたの名前を呼んだ瞬間、今まで見ていた景色がほんの少し変わった気がした。
ーー私、きっと。
いやもうきっと、ずっと前からーー。
風が吹いて、胸元まで伸びている長い髪がふわりと舞って、優しく頬を撫でた。
遠くで電車の音が近づいてくる。
けど、その全てがどうしようもなくなるくらいに
胸が締め付けられて。
私の見える世界はこんなにも、、、
"たったひとりの男の子"に奪われていたんだ。



