廊下の突き当たりまで来た時だった。
「……あの、先輩」
湊が足を止めた。ライトを持つ手がわずかに震えている。光が廊下の先を照らした。
「足元、見てください」
全員が下を向いた。
最初は何もなかった。
乾いているはずの床。埃が薄く積もったリノリウム。
その上に——ゆっくりと——裸足の足跡が浮かんだ。
濡れた、足跡。
ひとつ。
また、ひとつ。
廊下の奥から、こちらに向かって。
一歩ずつ、誰もいない場所から、水が滲むように現れていく。
ぴちゃ、と音がした。
陽翔のカメラだけが回っていた。
旭の口から冗談が消えた。蓮司が一歩前に出て、足跡の進行方向を確認しようとした。湊がライトを握り締め、その光の輪の中で足跡がまた一つ増えるのを見つめた。誰も動けなかった。
朔夜は反射的に冬馬を見た。
冬馬はその出来たばかりの足跡を見つめていた。
怯えてはいた。それは嘘ではない。
けれど、その目の奥に、恐怖とは違うものが一瞬だけ混じった。
後悔に似た、それでいて興奮にも似た、名前のつかない感情。
——来てしまった。
蝉の声は、もう聞こえなかった。
