冬馬は凪の水を持ち帰った。
最初は自分の部屋に置いていただけだった。ペットボトルの水。机の上。夜になると水面が揺れた。地震ではないし、ましてやペットボトルの中に風が吹くわけがない。
凪が呼吸をしているみたいだと思った。冬馬はベッドから起き上がって、揺れる水面を見つめた。暗い部屋の中で、ペットボトルの水だけが微かに動いている。
「凪?」
呼びかけた。返事はない。声は聞こえない。でも水面が揺れた。少しだけ大きく。凪がいる。まだいる。水の中に。独りじゃない。
冬馬はそれを凪との対話だと思っていた。言葉はない。声もない。ただ水面の揺れだけが、二人を繋いでいた。
最初は偶然だった。
自販機で買った新しい飲料水、僕が飲んでいたその水を勝手に飲んだクラスメイトが、数日後に溺れた。川で。浅い川で。
冬馬は最初、なにもわからなかった。
四人目で、気が付いた。そもそも旧校舎で凪をいじめていた生徒が謎の不審死を遂げたのも、校内の水に触れたことが始まりだったことを。
凪の水を飲むか、自分の唾液が少しでも入った飲み物を誰かが飲むと、その人間のところに凪が行ける。海や川だけでなく、風呂や水たまり、水が溜まる場所ならどこだって。
冬馬は気付いていて、それを止めなかった。止めるべきだと思わなかった。
凪がこれで寂しくないはず。冬馬の中では、それだけのことだった。
