蓮司はスマホをしまって、代わりにノートを出した。大学ノート。手書きのメモが何ページにもわたって書かれている。付箋が何枚も貼られている。蓮司は昨夜、映像だけでなく、旧校舎についても徹底的に調べていた。この数日の間に図書館にも行っていたのだろう。蓮司はやると決めたら、全部やる。手を抜かない人間だった。
「旧校舎の事故について調べた。ネットの記事と、図書館のバックナンバーと、あと地元の掲示板。司書さんにも聞いて回って、できる範囲で全部当たった」
蓮司がノートを開いた。
「四年前、当時はまだ現役だったあの校舎で、生徒の連続死亡事故があった。公式には水害による事故とされてるが、実態は違う。最初に死んだのはプールでの溺死。名前は雨宮凪。当時高校二年の男子生徒。公式には事故死として処理されているが、いじめの末の事故が原因だったという証言が掲示板にいくつか出てくる。新聞記事にはいじめの文字は出てこない。学校が隠したのか、警察が立件しなかったのかはわからない。ただ、掲示板の書き込みは複数あって、時期もばらばらだ。一人が書いたものじゃない」
冬馬の表情は変わらなかった。変わらないことが、蓮司には見えていた。
「その後、複数の生徒が水に関連する事故で死亡した。まず大雨の日にグラウンド横の大きい側溝に滑落して生徒が死んだ、これだけだと不運な事故にも見える。がその後、校舎内の地下倉庫浸水による溺死、露出した電気設備に水道管の漏水による感電死。全部が水。一年の間に三件。普通の事故では説明がつかない頻度だ。校舎は危険と判断されて閉鎖。そのまま放置されて、今年解体が決まった」
蓮司がノートから顔を上げた。冬馬を見ている。
「雨宮凪が死んだのは四年前の夏だ。お前たちが中学一年の時」
蓮司が続けた。
「冬馬、お前は俺が知る限りずっと水を避けてた。海もプールも断る。雨の日は機嫌が落ちる。旧校舎に行った時も、水のことになると様子がおかしかった。俺はそれをずっと見てた」
冬馬は黙っていた。
「で、朔夜。お前が前に話してたよな。冬馬と最初に話したのは中一の夏休み明けだって。教室の隅で放課後になってもぼんやり外を眺めてた冬馬が気になって声をかけたって」
朔夜の肩が、わずかに動いた。
「四年前の夏に、旧校舎の生徒がプールで死んだ。その直後の夏休み明けに、朔夜が様子のおかしい冬馬を見つけた。一年生の春に見つけられずに、何故、夏過ぎに?
偶然か? お前が夏に変わってしまったんじゃないのか? 」
冬馬は黙っていた。
「冬馬。お前、雨宮凪を知ってたんじゃないのか」
沈黙。扇風機の音。窓の外で蝉が鳴いている。曇り空から差し込む光が、部室をぬるく照らしている。
冬馬は答えなかった。否定しなかった。ずっと蓮司を見ていた。
蓮司は見つめ返して返答を待った。否定しないことが、蓮司にとっては答えだった。
