蓮司からグループチャットに連絡が来たのは、翌日の朝だった。
「今日、二人に見せたいものがある。部室に来てくれ」
冬馬と朔夜が部室に着いた時、蓮司はすでにいた。机の上にスマホを置いて、画面を見つめていた。部室には三人分の椅子しか使われていない。残りの三つが壁際に寄せてある。蓮司がいつの間にか片付けたのだろう。空の椅子を見なくて済むように。
扇風機がぬるい風を回している。窓の外は曇っていた。ここ数日で初めての曇り空。蝉はまだ鳴いているが、いつもより元気が無く、音が少しくぐもっている。
「座ってくれ」
蓮司が言った。冬馬と朔夜が椅子に座る。一晩中、映像を見ていたのだろう。蓮司の目には疲労が見えた。だがその奥には、何かを見つけた人間だけが持つ覚悟が宿っていた。
「映像を全フレーム確認した。音声も全部。朝の六時までかかった」
蓮司がスマホを操作して、画面をこちらに向けた。陽翔のカメラからコピーした映像。小さな画面に、あの日の旧校舎の廊下が映っている。
「最初に見せたいのはこれだ」
再生される。探索中の廊下。陽翔が後ろを向いた瞬間に映った五人の姿。足音と会話。旭の笑い声。湊のびびった声。普通の探索映像。この映像を蓮司は一度、旧校舎を出た直後に確認している。あの時は早送りで流した。引っかかったが、そのまま通り過ぎた。
今度こそ通り過ぎなかった。
蓮司が一時停止した。
「ここ」
画面の中で、冬馬が一瞬だけ廊下の奥の誰もいない方向を向いて、小さく顎を動かしている。他の四人は前を歩いていて気づいていない。冬馬だけが、誰もいないはずの場所に向かって、何かをしている。頷いているようにも見える。誰かに合図を送っているようにも見える。
「冬馬、お前ここで何してる」
冬馬は画面を見た。自分が映っている。あの日の自分。
蓮司が音量を最大にした。スマホのスピーカーから、水音と足音と会話が流れてくる。旭が何か冗談を言っている声。湊が怖がっている声。その中にかすかに、でも確実に別の声が混じっている。ノイズのようにも聞こえる。空耳のようにも聞こえる。だが蓮司は何度も何度も聞き直したのだろう。耳が拾えるぎりぎりの音量で、でも僅かにそう聞こえる。
「まって」
冬馬の声だった。小さく。ほとんど吐息に近い。でも確かに、誰かに向かって言っている。
「これ、お前の声だよな」
冬馬は黙った。否定しなかった。肯定もしなかった。画面の中の自分を見つめていた。
「まって、とは何のことだ。待つという意味か? 誰に言ってたんだ。あの廊下には俺たち以外誰もいなかった。カメラにも俺たち以外映っていない。なのにお前は、誰もいない方向を向いて『まって』と言った。お前だけに見える何かがいたのか」
冬馬は答えなかった。
朔夜が冬馬の隣で張り詰めたように、浅く息を吸った。
