病院を出た。
三人になっていた。蓮司は映像の確認のため先に帰った。去り際に「今夜中に全部確認する。何か見つけたら連絡する」と言った。
冬馬と朔夜だけが、病院の前の歩道に立っていた。
八月の日差しが頭の上から降り注いでいる。アスファルトの照り返し。蝉の声。汗がすぐに額に浮かぶ。数日前と何も変わらない夏。でもあの時は六人いた。今は三人。半分になった。
「冬馬」
朔夜が言った。
「なに」
「お前は大丈夫か」
冬馬は少し間を置いた。朔夜の目を見た。昨日の夕方、「お前がいなくなったら」と言った朔夜。「信じてるから」と言った朔夜。今日また「大丈夫か」と聞く朔夜。同じ質問を繰り返している。繰り返すたびに、その声の奥にある恐怖が濃くなっている。
「大丈夫だよ」
「嘘つくな」
「嘘じゃない」
朔夜は冬馬をしばらく見ていた。追及はしなかった、信じたかったから。いつもの朔夜だった。
目を逸らして、自転車のハンドルを握った。
「帰るか」
「うん」
二人で並んで自転車で走り出す。風がぬるい。首筋を汗が伝う。ペダルを踏む足が重い。でも隣に朔夜がいる。昨日の夕方、「いなくならない」と冬馬は言った。朔夜は「信じてるから」と返した。冬馬はここにいる。朔夜もここにいる。
住宅地の道を抜ける。どこかの家の庭に打ち水がしてあって、アスファルトが黒く濡れている。冬馬はその上を通り過ぎながら、一瞬だけペダルを踏む足を止めた。水。どこにでもある水。道の水。庭の水。風呂の水。全部がつながって見える。朔夜が少し先を走って、振り返った。冬馬が止まっていることに気づいて、速度を落とした。何があったかは聞かなかった。ただ待っていた。
冬馬はペダルを踏み直して、朔夜に追いついた。
六人の夏が、三人の夏になった。部室にはもう笑い声が戻らなかった。大事にされていた陽翔のカメラも、旧校舎に置きっぱなしの湊のライトも警察に回収され、旭が座っていた椅子には明日から誰も座らない。「覚えてる?」と笑って過去を語る人間は、もういない。「言いたいこと言えよ」と笑った声も、もう聞こえない。
旭は陽翔に「ありがとう」と言えなかったと悔やんでいた。その旭に、冬馬たちは何を言えただろう。何を言ったのだろう。「また明日」と手を振った。それが最後だった。
まだ夏の途中だった。蝉はまだ鳴いている。空はまだ青い。続いていく、でもこの夏は、もう壊れていた。
