水に還る


 翌朝。
 旭のグループチャットが、既読をつけなくなった。
 冬馬は朝起きてスマホを見た時、グループチャットの既読が二になっていることに気がついた。昨日の夜、蓮司が送った「明日十時に集合」のメッセージに、旭だけが反応していなかった。
 窓の外では蝉が鳴き始めている。朝の光が部屋に差し込み浮いた小さな埃を照らしている。窓の外を見ると、空は白かった。雲が薄く広がっている。昨日までの青さがない。夏が一枚、膜を被ったように見えた。
机の上のコップの水は、今朝は揺れなかった。朝は静謐に満たされていた。
 蓮司から個別に連絡が来たのは、午前九時だった。
「旭の母親から連絡があった。昨夜、風呂場で溺れかけているのが見つかった。やけに静かだと思って見に行ったら、浴槽の中で顔をまるまるつけて意識がなかったらしい。今、病院にいる」
「容態は」
「わからない。母親も混乱していて詳しく聞けなかった。ただ——」
 蓮司のメッセージが途切れた。十秒を数える頃、続きが来た。
「浴槽の湯が、真冬の水みたいに冷たかったらしい。八月なのに。数時間前とは言え夏場に沸かしたはずの湯が。母親が見つけた時には冷水に丸ごと入れ替えたみたいになっていたと」
 もう一通。
「旭の唇が青かったって。凍えたみたいに」
 冬馬はスマホを見つめた。昨日の夕方、旭は笑っていた。手を振って角を曲がっていった。「言いたいこと言えよ」と言って。今日一番の、本物の笑顔で。あの背中が、最後の旭だった。
 朔夜から連絡が来た。
「見た。今から行くよな」
「行こう」