「ちょっと外出ない?」
旭と朔夜が自販機から戻ってきた後、旭が言った。なぜか熱いコーヒーの缶を持って。
「ずっとここにいたら頭おかしくなる」
蓮司が少し考えてから頷いた。「そうだな」。
四人で部室を出た。
コンビニに寄った。旭がアイスを四つ買ってきた。
「おごるよ」
蓮司が「いいのか」と聞くと、旭は「おごらせてください。なんかしてないと頭おかしくなるんすよ」と言った。
四人で駐車場の縁石に座った。日差しが強い。コンクリートが焼けるように熱い。アスファルトの照り返し。溶けるアイス。県道を車が通り過ぎていく。全部が数日前と同じだった。人だけが、減っていた。
「覚えてる?」
旭がアイスを舐めながら言った。
「ここで陽翔が、怖かったらどうするって聞いたの。ガチ死ぬ。泣きます。逃げる。俺も逃げる。」
少し笑った。
「朔夜、お前マジで冬馬の答えについてくだけだよな」
朔夜は何も答えなかった。アイスの棒を咥えたまま、県道を見ていた。
「お前ら、なんでそんなにずっと一緒にいるのに、肝心なこと全然話してなさそうなんだよ」
旭は笑いながら言った。でもその目は笑っていなかった。
「いや、別にいいんだけどさ。もったいなくないかって思うだけ。言いたいことあるなら言えばいいのに」
少し間が空いた。アイスから甘い水滴が手首まで垂れてきた。旭はそれを振って落としてから、続けた。
「明日何があるかわかんないんだから。もったいないと思わねえのかよ」
冬馬は黙っていた。朔夜も黙っていた。蓮司だけが旭を見ていた。
コンビニの帰り、公園の前を通った。夏祭りの準備をしていた。提灯が木の枝に吊り下げられていて、やぐらの骨組みが組まれている。まだ日中だから灯りは点いていない。白い提灯が風に揺れているだけ。業者の人間がやぐらの上で板を打ちつけている。
金槌の音が、蝉の声の間に混じっていた。金槌の音が途切れた合間に、足りないものを埋めるように風鈴の音が凛と鳴った。
「祭り、行きてえな」
旭が言った。立ち止まって、提灯を見上げている。
「いつだっけ」蓮司が聞いた。
「明日と明後日。去年の夏も、六月の縁日も行ったじゃん。みんなで」
みんなで。その言葉が空気に残った。
今年の六月の縁日を思い出す。行列が出来ていたかき氷屋の横には氷の入ったバケツが無造作に置いてあって、落ちていく夕日と灯りだした提灯の下で溶けていた。バケツの表面を水滴が伝って、アスファルトに小さな水溜まりを作っていたのを覚えている。
陽翔が買った狐面を後頭部に回してカメラを持って、屋台を全部撮影して回った。湊がりんご飴を買って、一口かじって「なんかこれ硬すぎるし全然甘くないです」と半泣きになった。
旭が射的で一発も当たらなくて、陽翔に「才能ないな」と言われて手に持っていたコルク銃を陽翔に向かって撃った。蓮司が「行儀悪いぞ」と言いながら自分も焼きそばの容器を手に持って歩いていた。冬馬は綿菓子を買って、朔夜はうちわを忘れて屋台に寄った。
あのとき確かに六人分の笑い声が、提灯の明かりと揺れていた。
蓮司が少し迷ってから、「行こうか、明日」と返した。
でも旭はそこから歩き出さなかった。提灯を見上げたまま、少し黙っていた。風が吹いて、白い提灯が揺れた。まだ灯りの入っていない提灯は、昼間の光の中ではただの白い紙だった。太陽が少し透けて見えて、夜になれば光る。光れば綺麗だろう。でもその光の下を、四人で歩くのか。空いた二人分の場所を感じながら、屋台を回るのか。陽翔がいない祭りでカメラは誰が持つのか。湊がいない祭りで一番からかいがいのある人間は誰なのか。
結局、四人は提灯だけ見て通り過ぎた。誰も「やっぱりやめよう」とは言わなかった。ただ、自然に足が動いて、公園の前を過ぎていった。
