朔夜が気分転換にと、旭を連れ出して自販機に買い出しに行っている間、部室に蓮司と冬馬が残った。
エアコンのぬるい風が回っている。窓の外で蝉が鳴いている。二人きりの部室は妙に広かった。
蓮司がスマホを閉じて、冬馬に話しかけた。
「冬馬」
「はい」
「お前と朔夜、最近なんか変じゃないか。無理してないか」
詮索の声ではなかった。蓮司の目は穏やかだった。心配している目だった。残った四人の中で、冬馬と朔夜の関係だけが「変化」している。他の全てが壊れていく中で、二人の距離だけが近づいている。
蓮司はそれを見ていた。蓮司はよく見る人間だった。面倒見がいいのは、よく見ているからでもあった。
冬馬は少し黙った。
「どうって言われても、気にしたことないから」
「別にいいさ。お前らのことだし。ただ、なんとなく気になった」
蓮司は椅子の背もたれに寄りかかって、天井を見た。旭がいつもやるように。蓮司がこの姿勢をするのは珍しかった。疲れているのだと思った。
「ちゃんと見といてやれよ、朔夜のこと。アイツ、不器用だから」
冬馬は蓮司を見た。蓮司は天井を見たままだった。さっき旭の話を聞いていた時と同じ、何かを内側で抱えている顔。
「そのつもりです」
冬馬は答えた。嘘ではなかった。
少し間があった。エアコンの風がカーテンをわずかに揺らしている。窓の外で蝉が鳴いている。この部室で二人きりになるのは初めてだった。
いつもは六人いた。六人の間に蓮司がいて、冬馬がいた。間に挟まる四人分の声や笑いがなくなると、二人の間の空気は思ったより静かだった。
蓮司がぽつりと言った。
「湊が最後に送ってきたメッセージ、話していいか」
冬馬は頷いた。
「『先輩がいてくれて安心しました』だ。個別チャットで。あいつ律儀だから、わざわざ個別で送ってきた」
蓮司の目が天井から窓に移った。空が見えているのか、窓に映る自分の顔が見えているのか、冬馬にはわからなかった。
「安心させておいて、電話に出なかった。俺がやったのはそれだけだ」
蓮司の声は平坦だった。感情を消しているのではない。感情が深すぎて表面に出てこない声だった。水底に沈んだ石のように、そこにあるのに見えない。手を伸ばしても届かない。蓮司自身にも、まだ届いていない。だから平坦に聞こえる。いつか届いた時、蓮司がどうなるのか、冬馬にはわからなかった。
冬馬は何も言えなかった。何を言っても嘘になるか、あるいは残酷になるから。黙っている他なかった。
蓮司はそれ以上何も言わなかった。二人の間の沈黙が、部室のぬるい空気の中に混ざりあっていった。しばらくして蓮司はスマホを開いて、また何かを確認し始めた。画面の光が蓮司の顔を青白く照らしていた。何を調べているのか、冬馬には見えなかった。
