水に還る


翌朝。
 グループチャットに湊からの返信がなかった。
 昨日の夜、蓮司が「明日も十時に集合しよう」と送ったメッセージに、旭は「了解」とメッセージし、冬馬と朔夜はスタンプをつけた。湊からだけ反応がなかった。
 蓮司は嫌な予感がして、湊に個別でメッセージした。既読がつかない。急いでそのアプリの電話をかけた。繋がらない。
 二回目の電話をかけた時、蓮司は自分の携帯電話自体の着信履歴を見た。
 昨日の夕方。湊からの不在着信が、一件。
 時刻は午後五時四十三分。
 蓮司の指が止まった。画面を見つめた。午後五時四十三分。蓮司が警察署から一度戻ってシャワーを浴びていた時間だった。スマホは脱衣所の棚に置いていた。バイブレーションすら聞こえなかった。
「何かあったら、すぐ俺に連絡しろ」
 自分がそう送ったのは、昨日の夕方だった。湊はその言葉通りにした。連絡した。電話をかけた。
 俺は、出なかった。
 数分のことだったかもしれない。数十秒のことだったかもしれない。シャワーを止めて脱衣所に出ていれば。スマホを風呂場の近くに置いていれば。「いつでもいい」と送ったのに、その「いつでも」が来た瞬間に、蓮司はいなかった。
 蓮司は湊の家に電話をかけた。
 湊の母親が出た。「昨日の夕方ホームセンターに行くと言って出たまま帰ってこない」。声が震えていた。
 蓮司がグループチャットに送った。
「湊がいなくなった。昨日の夕方から帰ってきていない」
 旭からすぐに返信があった。
「は?」
 一文字だけ。それ以上何も送ってこなかった。
 冬馬が「場所は」と送った。朔夜が「今から探しに行く」と送った。
 家の近所を手分けして探した。蓮司と冬馬がホームセンターまでの道を、旭と朔夜が反対方向を歩いた。
 コンビニまでの道の途中、公園の入り口で、蓮司が足を止めた。
「あれ」
 ベンチの横の地面に、スマホが落ちていた。保護ケースの色に見覚えがあった。画面は暗くなっていたが、電源はまだ入っていた。拾い上げてロック画面を見ると、通知が並んでいる。グループチャットのメッセージ。蓮司への不在着信の表示。昨日の午後五時四十三分。
 湊のものだった。蓮司の手が震えた。一瞬だけ。すぐに止め、冷静に辺りを見回した。
 公園の奥を見た。池がある。コンクリートの縁。その手前に、湊のサンダルの片方が落ちていた。もう片方は、池の縁のコンクリートの上に引っかかるように残されていた。脱げたのではない。引きずられたように、片方だけが水際に残っている。
 池の水面は静かだった。藻が浮いていて、底は見えない。夕日が水面を橙色に染めている。穏やかで、普通で、何も起きていないような顔をしている。
 湊はいなかった。