水に還る


「昨日、俺が一緒に行けばよかった」
 旧校舎に向かう道の途中で、旭が言った。前を見ずに地面を見て歩いていた。
「あいつが一人で戻るって言った時、俺、行こうかって聞いたじゃん。あの時もっと強く言えばよかった。いいって言われて引き下がんなきゃよかった」
 蓮司が前を歩きながら答えた。
「お前のせいじゃない」
「わかってます。わかってるけど」
 旭の声が詰まった。数秒黙って、鼻をすすった。泣いてはいない。泣く手前で踏みとどまっている。
「あいつと最後に話したの、水の取り合いっすよ。ペットボトル奪い合って、がぶ飲みして。それが最後の会話って、……やだろ普通に」
 冬馬は旭の隣を歩いていた。何か言うべきだと思ったが、言葉が出なかった。旭の横顔は、昨日までのどの表情とも違っていた。いつもの軽さが全部剥がれて、その下にあるものが見えていた。
「絶対、見つかるよ」
 朔夜はそう言った。旭は鼻をもう一度すすって、「そうだな」と返した。
冬馬は朔夜の後ろを歩いていた。朔夜が旭に「見つかるよ」と言ったのを黙って聞いていた。
 一番後ろを歩いていた湊が、蓮司の背中を追うように小走りで前に出た。蓮司の横に並んで歩き始める。蓮司は何も言わなかったが、少しだけ歩幅を狭くした。湊がついてこられるように。